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21 魔導学院第三席の一撃

昼頃にまた投稿します。

 尖兵たちを襲うテレーシアの魔法。


 直径二十センチほどのその火球は、着弾してなお爆ぜることなく、スケルトンを砕きながら突き抜ける。そのまま勢い衰えることなく、後ろに続くスケルトンたちをも打ち砕いた。


 そんな炎弾が、四発同時に放たれる。


 スケルトンたちの数は瞬く間に半壊した。


 次の魔法の準備がされる。が、それは既に間に合わない。


 目前に迫ってきたスケルトンは、手柄首に向かって脊椎の剣をついに振るった。


「しっかり捕まっていてください!」


 テレーシアの両腕が私の首に回される。


 まさに密着状態。顔と顔が近い。テレーシアの甘い吐息がかかるほどの距離に昂ぶりを覚えるが、堪能している場合ではないのが残念だ。


 脊椎の剣が振るわれるより早く、私の右足はスケルトンの胴体を打ち砕く。


 続けて次は左足を振るう。


 纏めて二体のスケルトンを打ち屠る。


 身体を捻り、時には回りながら、回避行動をそのまま次の攻撃へと繋げるのだ。


 まるで舞踏のように。私は蹴り技を繰り出しながら、一体、また一体とスケルトンを砕いていく。


 そうやっている内に数十秒。


 あれだけ数だけはいたスケルトンの残骸が、周囲一体に広がっている。


「うっ……気持ち悪いですわ」


 口元を抑えるテレーシア。


 スケルトンの残骸を見てのものではない。私が派手に動き回ったことによる三半規管へのダメージだ。


 こんな時にも関わらず、その所作が上品なのは淑女の鑑である。


 そんなテレーシアの小さな犠牲もありながら、残るは親玉一体。


 後はゆっくりテレーシアに仕留めてもらおうとした、その時だった。


「な……っ! 元に戻っていきますわよ!」


 残骸となったはずのスケルトンたちが、元の姿を取り戻していく。早戻しの映像を見せられているかのようだ。


 可能性として想像していたとはいえ、いざ現実となると目を見開かざるえない。


 姿を取り戻した端から再度蹴り砕くも、やはり無駄であった。


「これではキリがありませんね」


 このままこいつらを相手していても、体力と魔力を消耗していく一方だ。


 私が今まで相手してきたスケルトンも、形を取り戻すことはあった。だがこんな早戻しでは決してない。そうなるとこのような再生をもたらす原因は、一つしかない。


「やはりあの大物をどうにかするしかなさそうですね」


 息を飲みながらも、テレーシアは親玉を睨めつける。


 左の二本指はスケルトンゴーストへ突きつけられ、炎弾を放つ。数は一発に抑える代わりに、大きさはその倍はある。


 狙いは胸骨の向こう側。


 青き魂の炎をいざ撃ち抜かん。


「なっ!」


 だがその炎弾は届かない。


 スケルトンゴーストは脊椎の剣で、テレーシアの魔法を切り伏せるように防いだのだ。


 つんざくような轟音が身体を震わす。


 炎弾を縦に薙ぎ払った脊椎の剣が、地面に叩きつけられたからだ。


「自分の身を、守った……のですか?」


 魔物に理性などない。


 あるのは本能。それも生ける者に向けられる破壊衝動だ。


 なのにあのスケルトンゴーストは、自ら迫った驚異を正しく理解し、その身を守る行動に出たのだ。


 私の遺跡の経験では、こんな魔物を見たことがない。


 理性ある魔物。


 その呼び名を私は知っているが、本当にそんなことがあるのか?


 どちらにせよ、驚異は図体だけではなく一筋縄ではいかないようだ。


 こんなことをしている間にも、次々とスケルトンはその身を持ち直していく。


 彼らの親玉もまた、牙を向いた私たちに本腰を入れるのだろう。一歩も動くことのなかったその足を、ついに動かし始めたのだ。


 早い。


 決して尖兵たるスケルトンほど身軽ではない。だが踏み出される一歩は、巨体に相応しい歩幅であり、あっという間にその距離を詰めてきた。


 一度は守りに振るった脊椎の剣が、今度は攻めに転じるために振り下ろされる。


「きゃっ!」


 間近で鳴り響く轟音にテレーシアが悲鳴をあげる。


 大ぶりなだけの一撃だ。避けるのは難しくない。


 ただ砕かれた地面の土煙に乗じて、襲いかかってくる雑兵が鬱陶しい。


 二体ほどあしらったところで、次の破壊力だけは持った大振りな一撃が飛んでくる。


 まるで足元を掘り下げるような攻撃。配下などお構いなしだ。


 これもまた避けるも、割とギリギリであった。


 やはりテレーシアを抱え、守りながらの回避行動はできることが限られ辛い。


 すかさず距離を取り、駆け出した。


 視線の先にあるのはあの親玉が背にしていた壁。そこは確かに出入り口となっている場所があった。


 大の大人が二人横並びになれるほどの通路。


 問題があるとしたら、崩落しており通路の役目を果たしていないということだ。


「ここって……」


 ある風景が頭を過る。


 一時間か、または二時間前か。二階層を探索していたときに、とある通路が崩落し先へと進めない状況になっていた。


 記憶にあるそこと、ここが繋がっているかはわからない。もし繋がっていたとしても、どれだけの長さがあるかはわからない。


 テレーシアと目を見合わせる。どうやら彼女も同じことを考えていたようだ。


 ゴクリという、ツバを飲み込む音が聞こえてくる。


 目を瞑るテレーシア。次に開かれた時には、その意識はもう出口に向いてなかった。


「ミス・ラインフェルト! 一分だけで構いません! このまま時間を稼いでください!」


 先程の轟音が耳に効いていたのか。彼女自身、意図していないだろう大声を張り上げている。


「何か考えがあるのですか!?」


「考えもなにもありません! ただ強力な一撃を! 真正面から打ち込むだけですわ!」


 彼女らしい答えだ。


 小手先に頼らず、ただ己の力をぶつけるのみ。


「わかりました! 時間を稼ぐのは任せてください! ただし――」


 彼女の声量に応えるよう、私もただ大きな音を出す。


「目を回さないよう、強く目を瞑ることをおすすめします!」


 改めてテレーシアを強く抱きしめる。


 反転。 


 追いかけてくる破壊の塊に向かって、全速力で突っ込む。


 無限に蘇る三十体の雑兵。


 相手にするだけ無駄である。しかし無駄であっても無視はできない。


 私が射程範囲内に入ると、脊椎の剣は変わらず配下諸共屠らんと振り下ろされる。


「っ……!」


 言いつけ通り目を閉じているテレーシアは悲鳴を噛み殺す。


 地面に突き刺さっている脊椎の剣。引き抜かれるより早くそれに足をかけ、跳ねるようによじ登る。


 前腕骨、上腕骨、そして鎖骨。


 右側頭部を前にして、跳ね上がった勢いのまま回し蹴りを食らわせた。


「ハッ!」


 骨が砕ける音が聞こえない。


 不確かな足場や体勢からの一撃は、かの者を砕くには至らない。


 ただし、弾かれる感触もまたなかった。


 足元が揺れている。衝撃の慣性に従い、その身を傾かせたのだ。


 左の骨が、肩についた羽虫を叩き潰さんとばかりに襲いかかる。


 次は頭部を経由し、鎖骨に飛び移る。


 同じように側頭部に蹴りを入れ、スケルトンゴーストを今度は逆側へと傾かせた。


 そんなことを繰り返そうと考えているが、やはりそんな都合良くはいかないようだ。


 巨体が大きく横に捻り上がったと思えば、次の瞬間には弾けたかのように上半身を逆回転させた。振り落とそうという魂胆らしい。


 とっさに巨体の背中側から飛び降りる。


「はぁ……はぁ……」


 ここまでやったようやく二十秒稼げたか。


 残りの四十秒が遠すぎる。


 遠すぎるが泣き言など言ってはいられない。


 走る、走る、走る。


 背を向けて遠ざかる。


 真っ直ぐと走り続けられるならどれだけ良かっただろうか。


 行き止まりはすぐに訪れ、そのまま壁沿いに走り続ける。


 真ん丸とは言わないが、外周が円となっているこの洞窟。


 スケルトンは目につくがまま追跡してくるからまだ楽だが、親玉はそうはいかない。


 私の進行方向を予想し動き、その行く手に脊椎の剣が急降下してくる。


 わかっていても、人間急には止まれない。止まれないならそれより更に早く地面を蹴り、間一髪で駆け抜けた。


 テレーシアの身体が震える。


 もう噛み殺せるほどの悲鳴も上げていない。


 絶叫アトラクションに振り回されながらも、集中しているのだ。


 やはりテレーシアはか弱くない。


 この状況を耐え忍ぶ強さがある。


 ならば私はそれに応える義務がある。


 残り三十秒。


 走れ、走れ、走れ。


 足らない身軽さを補うほどの歩幅を持って、かの主は追いついてきた。


 振りかぶる。


 今度は縦ではない。横に薙ぎ払うつもりだ。


 その懐、足元へと飛び込み、股下をくぐり抜ける。


 残り二十秒。


 足元をくぐり抜けた先で待っていたのは大勢のお出迎え。


 足技を使いながら、砕き、薙ぎ払いながら真っ直ぐと突き進む。


 端からこいつらは敵ではない、障害物だ。


 だから障害物の役目、足止めをしっかり果たされてしまったことにより、猛威の範囲内から脱しきれなかった。


 駄々っ子のように、両手で地面を何度も打ち叩く。


 一発、また一発と見極めながら避け、私たちの身代わりとばかりにスケルトンが粉々となっていく。


 残り十秒。


 焦れったいとばかりに拳で打ち叩くのは諦め、両手で掴んだ脊椎の剣が振り下ろされる。


 それを避け、再び剣を足がかりに頭部へと向かって駆け上る。


「ミス・ラインフェルト!」


 残り五秒。


 鎖骨まで辿り着くとテレーシアが強く瞑っていた目を見開いた。


 ああ、流石は天才か。


 一分稼げと頼みながらも、この状況で余裕を残して準備を終えたようだ。


 スケルトンゴーストの背中の向こう側へと走り飛ぶ。


 飛び抜ける際、その背に振り返る。


「よく見ておきなさい、ミス・ラインフェルト」


 これにてフィナーレだ。


 私の首からは美しい両の手が解かれた。


 真っ直ぐと伸ばされるその左手は、先程までの銃口とは代わり今や大砲か。


 そして左手首を握りしめるその右手は、さながら大砲を支えんとする砲台である。


「魔導学院入学試験の花形」


 今度の狙いは肩甲骨の向こう側。


 再び青き魂の炎をいざ撃ち抜かん。


「城塞崩しで三席へ至ったこの一撃、貴女に見せてあげますわ!」


 耳を聾するほどの爆音が、この耳をつんざいた。

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