ささつ・とぅ・ざ・ひゅーちゃー
ゴブリン!
村長宅に襲来!!
主要な村人達は、全員ガチガチに緊張して出迎えた!!!
「あ、その、お世話になります。シャーチク村の村長をしておるものです」
「初めまして、お世話になります。今回の査定員を務めさせていただきます、トラヴァン・ホーマーと申します」
「えっ!? トラヴァン・ホーマーって、あのトラヴァン・ホーマー、さん!?」
「マジかよすげぇ! アレだろ、液体肥料の!」
「あとあれだ、とるとるくん! 草抜くやつ!」
「うっわ、やっべ、本人? うっわ、まじ、うっわ」
水に溶かして使うだけ!
簡単便利な液体肥料!!
その名もステキ「ドン引きするほど育てるくんEX」!!!
使い方が簡単なうえに持ち運びもしやすく、お値段もお手頃!
魔法合成素材を使っていないから、安心安全!
使用できる植物の幅も広く「迷ったらこれ!」とおすすめされる逸品である!!
立ったままで簡単除草!
かがまなくても根っこまで引き抜ける便利農機具!!
「根っこまで抜けたね ~十八の暴走 In サマーバケーション~」!!!
柄が長いので、かがまなくても立ったまま使うことが可能な除草器具!
特殊加工された先端部分が、どんなにしつこい根っこも逃さない!
これさえあれば、畑の雑草は残さずターミネート!
テンションのあがった農家のおっさんが近所中の雑草を抜きまくり!
同じくテンションが上がって雑草を抜きまくろうとしたけど全部抜かれていたご近所と殴り合いになる事件が多発したという!!
曰く付きのブツである!!!
そんな農民マストアイテムの開発者こそ!
トラヴァン・ホーマーその人だったのである!!
現在の村人達の状況を分かりやすく言えば!
オタクに大好きな作品の作者を突然投入したようなモノなのだ!!
まさに、お祭り騒ぎである!!!
「あの、ドン引きするほど育てるくんEX、すんごい使ってます!」
「根っこまで抜けたねのおかげで、うちのじいちゃんが作業が楽になったってすごく喜んでます!」
「新作、種まきの時に使う道具だって聞きました! 楽しみにしてます!」
「お前ら、トラヴァンさんが困惑してるだろうが! あの、サイン貰っていいですか?」
「ずりぃーぞ村長!!」
「立場考えろよ!!」
熱狂する村人!
苦笑するトラヴァン氏!
ド辺境の農村に行くと大体同じリアクションなので!!
慣れっこなのである!!!
「では、早速ですが倉庫の方に案内していただいてもよろしいですか?」
「あ、はい! すぐに! ご案内しますんで! はい!」
いざっ!!
倉庫へご案内なのである!!!
シャーチク村には、大型の共同倉庫が建てられている!!
というか、ド辺境の農村には大抵の場合、デッカイ共同倉庫が建っていた!
ド辺境の農村というのは、都会とは一味違うデンジャーなフィールドに立地している!
「昨日農作業してたら、荷電粒子バスターカノン・ワニガメが群れで大根盗みに来てさ! 危うく消し飛ぼされるところだったよ!」
「マジで! 卍じゃん!」
みたいな会話が日常的に繰り広げられているのだ!!
作物を狙う獣共は、まさに化け物ぞろい!
それぞれの農家が少々の防衛をしたところで、焼け石であった!
ゆえに!
農家は村全体で協力し、強力な防衛施設を建設して農作物の防衛に当たった!!
それが、「共同倉庫」なのである!!!
「これが、うちの村の共同倉庫です」
「田舎のものなもんで、見すぼらしい作りなんですけども」
歴代の村民がスキルによって作り上げた、三十二層対魔法衝撃複合装甲!
壁面のいたるところに設置される、炸薬式突出型回転刺突対害獣槍!!
屋上に多数設置されているのは、蒸気圧自動装填式対害獣特殊弾速射バリスタ!!!
それが、シャーチク村共同倉庫の基本兵装である!
他にも様々な秘密装備が隠されているのだが!
基本的にド辺境の農村にある共同倉庫であれば!
このぐらいの装備は施されているものであった!!
彼らにとって、畑を荒らす害獣とは邪悪の化身!
遠くにいるならいざ知らず、作物を狙うのならば悪・即・斬!!
害獣絶対殺すマンと化して襲い掛かり、害獣から晩御飯へと強制進化させるのだ!!!
「いえ、そんなことありませんよ。どこの村と比べても遜色のない、立派な倉庫だと思います」
え? なに、怪獣とでも戦うの?
みたいな感じの都会ではお目にかかれない共同倉庫ではあるが!
農村ばっかりめぐっている農協の査定員さんにとっては!!
見慣れた感じの物騒さなのである!!!
一行は共同倉庫へと進んでいく!!
入り口で厳重にチェックを受けて、防寒服を着込み、内部へ!
まず査定をしていただくのは、小麦である!!
シャーチク村が所属する国の主食は、パンであった!
ゆえに、小麦は主力商品!!
日本における米的立ち位置なのである!!!
ちなみに!
シャーチク村が所属する国では、基本的に農村は税を小麦で納めることになっている!
がっ!!!
シャーチク村のようなド辺境の農村は、現金で納めることになっていた!!
わざわざ村に来て小麦を運んでいくのが、引くほど面倒で危険だったからである!
何しろ、シャーチク村から近所にある町まで行くだけでも命がけの道中なのだ!
食い物なんて運んでいたら、まさに鴨葱!
魔獣とかにとっては「狙ってください」と言わんばかりなのである!!
税額は毎年固定なので、そういう意味でも農作物の買い取り額は死活問題!
農協さんの重要度は天井知らずなのである!!
村人達が緊張の面持ちで見守る中!
トラヴァン氏が小麦の査定に入った!!
「あー、良い麦ですね。香りもあるし。粒もそろってる。これは、比較的若い畑で作ったものですね。川沿いかな? 森を切り開いた畑じゃありませんね。腐葉土を運ぶの、大変だったでしょう」
その見立てに、村人達はどよめいた!!
小麦が入っている袋には、収穫者の名前しか記載されていない!
にもかかわらず、トラヴァン氏は的確に麦の素行を言い当てたのである!!
「あれって、お前んとこの麦だろ?」
「そうだ。あの、川沿いのとこの畑だよ。六年前に作った。まだ土が安定しないから、腐葉土とか入れててな」
「すげぇ。マジかよ、一体どうやって」
「経験と勘、ですかね。何千何万と小麦を見ていれば、案外わかるようになりますよ」
どうやったらホームランが打てるようになるんですか?
何千何万とバットを振っていれば、案外打てるようになるんだよ!
村人達にとっては、大体そんな感じの問答だったのである!!
「しゅ、しゅごいぃ! これが農協の査定員さんの力だというのかっ!!」
「やっべ、レベル違いすぎてウケるんですけど、やっべ」
「マジ卍」
語彙力消滅!!
トラヴァン氏が魅せる圧巻の実力に、村人達はただのギャラリーと化したのだ!!
「こっちのトウモロコシもいいですね。糖度二十度ぐらいかな。落ち着いたいい土で育てられてますね。これを作った方は、トウモロコシのことをよく知ってらっしゃる」
「当たってる。一粒口に含んだだけなのに」
「うっわ、俺褒められたんだけど、褒められたんだけど、やっばい、えっ、超うれしい、でもこれだいじょうぶなやつなの? ねぇ、大丈夫なやつなの?」
「情緒がやばい感じになってるじゃんお前。落ち着けって」
そんな感じで!
主に村人達だけが大混乱の中!!
査定は無事に終わったのである!!!
「では、査定結果をお伝えします」
緊張の瞬間である!!
「まず小麦ですが、ほとんどが一等小麦ですね。一部だけ二等小麦として扱わせていただきますが、いや、去年と比べても実に優秀な結果です。ご苦労なさったでしょう。細かな数字は、こちらの用紙をご覧ください」
一等小麦!
それは、特別扱いである「銘柄小麦」以外では、最も買い取り額が高い評価である!!
全体に占めるそれの割合如何で、村の収入が決まるといっても過言ではない!
緊張に震える手で用紙を受け取った村長は、記入されたものを見て目を見開いた!!
上がっている!
評価が!!
去年よりも、確実に!!!
「おお、これはっ!」
「今年はがんばったからなぁ!」
「いやぁ、結果に表れててよかった!」
気象条件が特別に良かったわけではない今年ではあるが!
シャーチク村では数年前から、農地改良を続けてきていた!!
その結果が、ついに報われたのである!!!
だが!
戦いの本番は、ここからなのであった!!
「トラヴァンさん。じつは、もう一つだけ、見て頂きたいモノがあるんです」
「はい。なんでしょう?」
「銘柄野菜を目指し、育てたものです」
「なるほど。拝見しましょう」
トラヴァン氏の表情が、劇的に変わる!
村人達も、緊張に包まれるのであった!!
その、少し後!
村の子供達は、スイカを抱えて共同倉庫へと向かっていた!!
「おかしのおれい、ほんとにこれでいいのかなぁー」
「だいじょうぶだよ。さていがおわったらのどがかわくだろうしね」
「みずは、せいめいのきほんだからね」
「そうだよ。こっくぴっとにとじこめられたときも、すいとういっぽんぶんのみずでのりきれたし」
「それ、なにがあったんだよきっちゃん」
シャーチク村には、子供達だけで世話をしている畑があった!
トラヴァン氏にお菓子をもらったお礼として!
子供達はそこから、スイカを持ってきたのだ!!
「しかし、これおもいなぁ。りっぱにそだったもんだよね。へへへ」
「ふふふ。わらいがとまりませぬなぁ。でもちょっと、はこぶのにはふべんだよね」
「うれしいひめいってやつだね」
「さっきからおもってたんだけどさぁ。たっつぁんがスキルつかってはこべばいいんじゃないの?」
「さっちんなにってんだよ。てんさいじゃん?」
「なんでおもいつかなかったんだ」
タっつぁんがスキル「領域支配」を発動!
スイカを持ち上げたその瞬間!!
悲劇が起こった!!!
「あっ」
「「「あっ」」」
歩きながらスキルを使ったのが災いしたのだろう!
タっつぁんは足元に転がっていたバナナの皮に滑り、スっころんだのである!!
ちなみに!
シャーチク村に於いてバナナの皮は、割とその辺に落ちているものであった!
村で普通に育てているからである!!
ちなみに!
バナナとは言っても、見た目が似ているだけで地球のバナナとは別種の植物であり!
生育環境などはだいぶ異なるということだけはご留意頂きたい!!
ともかく!!
バナナの皮ですっころんだタっつぁん!!
バランスを崩し焦ったことで、スキルの調整が乱れた!
それにより!
スイカは上空高くに打ち上げられた!!
悲しき事故である!
だが!
それは悲劇のはじまりにしか過ぎなかった!!
スイカの落下地点は、ちょうど共同倉庫の出入り口!
誰もいないように見えたそこに、ジャストタイミングで姿を現すものが居た!!
査定を終えた、村人達とトラヴァン氏である!
ドアを開けて外に出た刹那を狙いすましたかの如く、強襲するスイカ!!
「危ないっ!!」
とっさの反応を見せた村長が、トラヴァン氏を身を挺して庇う!
それを見て取って素早く反応を示したのは、ストフレッドの父であった!
スイカの落下地点に飛び込むと!!
猟師の動体視力と反射神経を駆使し、見事受け止めて見せたのである!!!
「す、すっげぇー! 上空から落下してきたスイカを、傷一つつけずにキャッチしてのけたぞ!」
「これがわが村一番の猟師の実力だっていうのかよ!!」
解説的な驚きの言葉は、村のお約束なのである!!
「ご、ごめんなさい! ばななのかわにすべって!」
「ああ、そういうことか。バナナの皮なら仕方ないな」
繰り返すが、シャーチク村に於いてバナナの皮は、割とその辺に落ちているものなのである!!
バナナの皮で滑ったことによって起きた災害は、すべてバナナの皮のせい!
バナ皮無罪なのだ!!!
「そんなことより、トラヴァンさんは!」
「大丈夫ですか、トラヴァンさん!」
「はい、全然大丈夫ですよ」
苦笑するトラヴァン氏から村長が離れようとした、その瞬間!!
村長の襟袖が、トラヴァン氏の頭をかすった!
ゴブリンと人間の身長差ゆえの出来事!!
この時!!!
事件が起こった!!!
トラヴァン氏の頭皮が、ズルッと滑り落ちたのである!!!
一体何を言っているんだと思うかもしれないが、そうと表現するしかない自体であった!
凍り付くシャーチク村の面々!
しかし!
時は無情にも動き出す!!
地面に落下していくトラヴァン氏の頭皮だったはずのもの!!
その下から現れたのは!!!
絹もかくやというような滑らかさで風に遊ぶ、蜜色の糸束!
肩まで届くそれは、農家達の心の原風景を切り取ったが如き黄金の麦畑を思わせる!!
そう!
無残にも地面に転がったハゲヅラの下から現れたモノ!
それは!!
サラッサラキューティクルな金髪ロン毛だったのである!!!
「い、いったい、どういうことだってばよ」
全員が凍り付く中、何とかそう絞り出すストフレッド!
気になる方も多かろうが!
次回に!!
続くのである!!!