そして農協へ……
禿げる系の呪いしか知らない!!
なんやかんやいったところで、ストフレッドはまだ六歳!
今まで呪いなどとは無縁に生きてきただけに、そもそもどんなモノがあるかというところからわからないのである!!
「ていうかスーさんののろいって、のろいのていをなしてないんだよ」
「どういうことさ、ミッチュン」
全員の視線がミッシェルにあつまる!
ミッシェルはドヤ顔を決めつつ、ゾクゾクと体を震わせた!
こういう感じで知識を頼られたりするのが、大好きなのである!!
「のろいってひとくちにいっても、いろいろなものがある。ややこしいから、くわしいせつめいははぶくけど。だいたいが、どっちにとっても、わるいことがおきるんだ」
「どっちにとっても?」
「のろうほうも、のろわれるほうも。ひとをのろわばあなふたつ。ってことわざがある。のろったら、のろうほうもしんじゃうってことだね」
「「「しんじゃう!?」」」
突然出てきたショッキングな言葉に、子供達は強い衝撃を受けた!!
「え、うそ。のろいってそういうかんじなの」
「こっわ。スーさん、つかうときはきをつけるようにしようね」
「えー。やだ、なんかもうぼく、つかうきぜんぜんなくなったんだけど。のろい。スキルのなまえいえないし」
ドン引きである!!
六歳前後の幼気な子供達にとって、その手のヤツは重すぎたのだ!!
「だいじょぶだよ。どんなスキルでもつかいようなんだから。ヨスィーオッカさんだって、ほのおまほうをりょうりにつかってるし」
通常、火系の魔法は攻撃手段である!
求人などでも火魔法や炎魔法が優遇されるのは、戦闘職がほとんどであった!
しかしっ!
ヨスィーオッカはその火を操る魔法を使い、料理を作っている!!
危険なスキルであっても、使いようによっては平和利用が可能なのだ!!!
「スーさんのろいだって、むらのやくにたったんだしさ。ようはつかいようだよ」
「そっかー。なんかきぼうがわいてきた」
恐ろしく素直!
恐ろしく単純!!
良くも悪くも、それがストフレッドの性質である!
そして!
それはほかの子供達も同じであった!!
「なるほど。ひはあぶないけど、つかいかたによってはべんりだもんな」
「ほうちょうとかもそうだね」
「ミッチュンはあたまいいなー」
「じゃあ、かつようできそうなのろいとか、すぐにおもいつく?」
「んー。ちょっとむずかしいね。むずかしくて、すぐにはおもいつかないや」
尋ねられ、ミッシェルは悔しそうな表情を浮かべる!
知識をひけらかして悦に入るのが大好きなミッシェルだが、わからないものは素直に認めるタイプであった!
きちんと自分の中でかみ砕き、理解したものでないと、ひけらかしても気持ちよくないのだ!!
うろ覚えや不確かな情報をひけらかすのは、ミッシェルにとって無意味な行為なのである!!!
「こういうときこそ、しゅうごうちのちからだ。みんなでおもいつくのろいを、ひとつずつあげていこう」
「ひとりひとつか。それならなんとかなる、のか?」
「まあ、やってみようよ」
さっそく、集まっている子供達で知っている呪いを上げていくことにしたのである!!
「だいくののろい」
大工の呪い!!
とある劇作家が大工の棟梁を主役に据えた悲劇の脚本を書いた直後、死亡したことに由来するとされる都市伝説的呪いである!
それ以来、劇作家は大工の棟梁を主人公にした悲劇を描くと死ぬとされているのだ!
実際!!
今日までに六人の劇作家が、この呪いの通りに死亡しているとされていた!!
ベートーベンの第九の呪いとは、別口の奴なのである!!!
「さんじゅうまでどうていだと、まほうつかいになるやつ」
三十まで童貞だと魔法使いになる!!
これは実際にある呪いであった!
男は三十歳まで童貞だと、魔法使いになるのである!!!
実際に、「魔法使い」というスキルを獲得するのだ!
その効果は!
ライター程度の火をつけるファイヤー!
コップ一杯分程度の水を水風船的に投げつけるウォーターボール!
両手で持ち上げる程度の量の土を移動させ穴をあけるアースホール!
口で息を吹きかける程度の威力があるウィンドショット!
以上の四つが使用可能になるというものだっ!!
はっきり言って、ごみスキルの類である!!
これを磨き上げて人を害せるようになるまでになったものも、確かに存在する!!
しかし!!
そんなことをするぐらいなら生来のスキルを鍛えたほうが一千倍有益であるといわざるを得ない!
何しろスキルを司る神様が、童貞をあおる目的のみで作り上げたシステムとスキルである!
どんなことをしても絶対に有益なものにならないよう、活用しようとすればするほどリアルタイムでアップデートされ続けるのだ!!
ラノベとかのMMO運営みたく、抜け道を残しておいてくれたりしないのである!!!
神にとって不利益になる仕様は、片っ端から修正されていくのだ!!
「かーそる・さんでーそんにんぎょうののろい」
王都で大人気のスポーツを観戦し、熱狂した観客が暴徒化!
とある商店の前に飾ってあった偉人カーソル・サンデーソン氏の人形をドゥートンヴォリ川に叩き込んだ!!
それ以来、叩き込んだ暴徒達が応援していた側のチームは連戦連敗!
十数年にわたり最下位に低迷するという事態になった!!
人々はそれを「スポーツ振興に貢献したカーソル氏を愚弄した報いである」と噂したのである!!
「イヌギャッシラいけののろい」
村の近所にあるイヌギャッシラ池でデートをすると必ずキスしてしまうという都市伝説的呪いである!
がっ!!
後にイヌギャッシラ池を漁場とする漁師達が結託して、デートに来たカップルにいい感じの雰囲気を提供してそうさせていたことが発覚した!!
さっさとカップルにくっ付いてもらった方が、村が活性化するからである!
甚だおせっかいではあるものの、いい雰囲気に飢えているカップルにとって美味しい場所であることもまた事実!
今ではすっかり若者の定番おしゃれデートスポットとなっており、わざわざほかの村からやってくるカップルまでいる始末である!!!
「あれ、のろいっていうの?」
「まぁ、そういうていのかんこうしげんだし」
「でもさぁ。こうしてみると、のろいってふおんとうなのがおおいよね」
「そうなるとさぁ、スーさんのスキルののろいって、かんじじゃないよね」
「いいぶぶんもあるし。なんかこう、いわかんがあるっていうか」
「なんか、のろいといわれればのろい。みたいなかんじだよね」
「んー、まぁ、じゅじゅつおうっていうぐらいだし。スキルのつごうじょう、ってやつじゃないかなぁ」
実際、その通りであった!!
呪いとは元来、精神的霊的手段を用いて他人や社会などに対して災厄や不幸を齎しめようとする行為を指す!
ストフレッドのスキルによる呪いは、古式ゆかしい呪いとは若干異なるタイプのものなのだ!!
とはいえ!
スキルはそれを管理する神が定めたものである!
神の言っていることなので、それがジャスティス!!
その昔千利休が言ったという「わしがワビっていったらワビなの!」状態!
もはや「呪術王のスキルに追加されたらそれが呪いの定義」なのだ!!
「やっかいだなぁ。じゅじゅちゅヴふぉっほぁあああああ!!」
「またぁー!! もうやめなってスーさぁーん!」
「ときにあきらめが、ひとをせいちょうさせることもあるよ! あらたなみちをさがすために、めのまえのなにかにいどむのをやめるのは、はずべきことじゃないって!」
「わかってはいるんだけどさぁ! まあ、いいよ、それは。ほかに、呪いってないかなぁ?」
子供達は唸りながら、呪いに関する知識をひねり出す!
「ねむれるもりのおうじ」
邪悪な童貞魔法使いによって昏睡状態にされたイケメン王子!
その王子は目を覚ますには、お姫様のキッスが必要であった!
紆余曲折あった末に王子の唇を射止めたのは、身長2m体重200kgの人類最強系女子!!
王子は姫の力強いボディーに一目惚れ!
もちろん姫も王子の優しさに心を奪われ、二人は幸せに暮らしているのである!!
ちなみにこれは実話であり、隣国で四十年ぐらい前に有った実際の出来事であった!
王子と姫は、いまは王と妃となり、超ラブラブで見ているほうが恥ずかしくなるような青春ど真ん中っぷりである!!!
「しろいひめみこ」
「ん? なにそれ」
「しらん。ミッチュン、しってる?」
「わからない。どんなのろいなの?」
「えーっとねぇ。うちのにいちゃんがいってたおはなしのやつでねぇー」
白い姫巫女!
それは都会で創作された若者向け物語である!
貧乏な村の少年が、商人に連れられて都会へ出稼ぎへ行くこととなった!
そこで、少年は初めて身体風呂に入り、上等な服を着て、食堂の給仕として働き始めたのである!
だが!!
思わぬ誤算があった!
少年はドチャクソ美少女だったのである!!
何を言っているかわからないと思うが、要するに少年のビジュアルがゴッソイ美少女だったと思っていただきたい!
少年はその美少女フェイスと天然ムーブを駆使し、次々に偉業を成し遂げ、男を落としていった!
しかし、やはり男の子!
こんな生活耐えられないと、毎夜嘆き悲しんだのである!
そんな有る晩!!
彼の枕元に女神様が立ち、こういったのであるっ!!!
「YOU、女の子になっちゃいなYO!」
次の晩目を覚ますとあら不思議!
あったはずの相棒の姿はなく!!
少年はリアルガチ美少女になっていたのである!!!
「なにそれこわい。のろいってやっぱりきけんなものなんだね」
「ぼく、どうていのままおんなのこになりたくない」
「どうだろう。びしょうじょになるなら、あるいわ」
「まじか。まあ、そのへんはこじんのじゆうだしね」
「ひとそれぞれだよね。あ、まって。なんかきた。これあたらしいのろいだ!!」
新規追加呪い
TS! TS!(対象を美少女にする)
「うわぁあああああ!!!」
「やだよこわいよ! これ、いままでいっちばん、じつがいあるやつだよ!!」
「そんなにこわい?」
「ミッチュンはいいよ! もとからびしょうじょだから! ぼくらどうすんのさ!」
「もう、ふふっ、ちょっと。ほめてもなにもでないよ」
子供達が混乱の中にいた、その時であるっ!!
二匹の動物にひかれた馬車が、子供達の近くへと迫ってきた!
御者台に座っているのは、緑色の肌をした小人サイズの何か!
その姿を見た子供の一人が、目を見開いた!!
「あ、ゴブリンさんだ。こんにちわー」
「ほんとだ。こんにちわー」
「「「こんにちわー」」」
行儀よく頭を下げる子供達!!
その姿を見た緑の小人サイズ、ゴブリンは、ニヤリと口の端を釣り上げる!!
「はい、こんにちわー。皆、挨拶できてえらいね」
「あー、そっかー。きょう、ごぶりんさんたちがくるひだったんだー」
「そうだよ。だから、あさからおとながばたばたしてたんだよ」
「そーだったのかぁー」
「はっはっは。そうだったんだよ。そうだ、君達よかったら、これを味見してくれないかな。うちで新しく売り出すお菓子なんだけど。みんなの意見が聞きたくてね」
「うわぁーい! ありがとうございます!」
「あまぁーい! これ、あめ!? あめなの!?」
「なっつがはいってておいしいねぇ!」
「収穫物で作った水あめと、炒ったナッツを使ったんだよ。そっか、意外と好評そうでよかったよ」
「すっごくおいしいです!」
「ありがとー! やっぱり、のうきょうさんがつくるものはちがうや!」
農協!!
そう、農協である!!
ゴブリンとは種族名にしてそれだけを意味するものにあらず!
彼らゴブリン族が作り上げた組織を指す言葉なのである!!
その名は!!!
「ゴブリン農業協同組合」!!!
弱小種族であったゴブリン達が、自分達の身を守るために作った互助会を祖に持つ組織である!
はじめは農業を営むゴブリン達が助け合うために作られたものであった!
だが、それはいつしか他種族の農家も傘下に収めていき!!
農業に関するありとあらゆる技術と情報を手中にするようになっていった!
そして、いつしか!!
農業界における絶対権力となって行ったのである!!!
「そっか。きょうは、のうきょうさんの、ささつのひなのかぁ」
農協による査察!
その年にできた農作物の出来栄えをチェックし、等級を決めるためのものである!
つまり!
この日一日で、農作物の価値が決まるのだ!
それはすなわち!!
取引額が決定することも意味していた!!
農協が決めた等級は、絶対の基準である!
これを決めるこの日は!
ド辺境農村にとっての天王山!!
お菓子をもらって喜んでいるストフレッド達のテンションとは裏腹に!
村は、今まさに!!
戦の只中にあるといっても、過言ではないのである!!!