目覚めた力(タっつぁん)
その日!
村長の家で開かれた会議は、重苦しい空気に包まれていた!!
「ついに来るのか。今期も」
「この間までストフレッドの件でごたごたしてたから、忘れてたな」
「はぁ、寄りにもよって。準備なんてしてないぞ」
大人達が頭を抱えている問題!
それは!!
四半期に一度必ずやってくるモノ!!
ゴブリンへの対応であった!
「例え準備をしておらんども、来るものは来るんだ。何とかするしかないだろう。対応を誤れば、村の今後にかかわる。未来に希望をつなぐためにも、やり遂げるしかない」
力強い村長の言葉!
不安そうな顔をしていた村人達の表情が、徐々に引き締まっていく!!
「こんな田舎の、農業しか産物が無い様な村にとって、ゴブリンは脅威そのもの。しかし、共存しなければ、こんな村はあっという間に滅んでしまうというのもまた事実」
村人達の口から、悔し気な声が漏れた!
村長の言う通りだからである!!
ゴブリンは村にとって、敵であると同時に、共存しなければ村が立ち行かなくなってしまう存在!!
憎くはあれど、受け入れるしかない!
悔しさに枕を濡らした夜が無い村人は、一人としていないのである!!
「トゥナッカ、マッチュン。お前さん達は斥候だ。ゴブリンを偵察し、少しでも早く、少しでも多くの情報を村に持ち帰ってくれ」
力強くうなずく二人!
マッチュンはいつぞやの衝撃から立ち直ったようである!!
「残っているものは、守りを固めてくれ。農家スキルを持っているものを中心に、作業に当たってくれ。特に、芋だ。全員、芋のことを頭に入れて置いてくれ」
今年のシャーチク村の芋は、一際できがよかった!
もしかしたら、村の特産にできるのではないかという仕上がりである!
「ゴブリンに目に物を見せてやろう! シャチーク村魂!!」
「「「応っ!!!」」」
「何のために生まれた!」
「「「畑を耕すためだ!」」」
「何のために畑を耕すんだ!?」
「「「作物を収穫するためだ!」」」
「なんで作物を収穫するんだ!?」
「「「腹いっぱいに食うため!!」」」
「お前達が腹いっぱいになるためすべきことは何だ!」
「「「来る日も来る日も農作業!!」」」
「そうしてできた作物は美味いか!!」
「「「高級ブランド最高品質! 近所の村にも絶対負けない!!」」」
「俺達が食うものは!?」
「「「規格外のB級品! 見た目は悪いが味はピカ一!!」」」
「A級品を食うのは誰だ!?」
「「「お貴族様や王都のお客!! 一口食べればほっぺが落ちる!!」」」
「「「我等辺境農村住民!! 異常気象上等!! 獣害上等!! ゴブリンが怖くて農家ができるか!!!」」」
こうして!
農家達の戦いの幕は!!
切って落とされたのである!!!
そんな大人達の盛り上がりとは他所に!
タップは悟りの境地のような面持ちになっていた!!
「スーさん。みえる。みえるんだ。まわりのうごきが。めではなく、ちょくせつこころで」
タップの元々のスキルは、「自在力場」というものであった!
一定範囲内のものを好きなように動かしたり、握りつぶすように圧力をかけて破壊できるというものである!
それ、サイコキネシスとか念動力じゃあいかんの?
と思うものもいるだろう!
しかし!
そういったモノとは全くの別物なのであるっ!!
タップの能力は、空間を支配し、自分の一部にするというものであった!
自分の一部であるから、その空間内にあるものをつかみ上げることはもちろん!
握りつぶすこともできたのである!!
そんなタップのスキルが成長すると、どうなるのか!!
生死の境をさまよったことにより、スキルは大きく成長を遂げ!
新たな名前を得たのである!!
その名もステキ!
「領域支配」!!
ちなみに読み方は「マイ・ワールド」である!
全然関係ねぇ読み方じゃねぇか!
といった苦情は一切受け付けない!!
なぜならスキルの名前はスキルを司る神が持ち主の趣味趣向を考慮したうえで付けるものだからだ!
つまり!
タップはなんか自分の能力にそういう感じの名前を付けちゃう系な!!
お年頃なのである!!!
肝心の「支配領域」に追加された能力とは!
今までモノを持ち上げたり掴んだりするだけだった空間、あるいは力場ともばれるもの!
それに、五感が備わるというものであった!!
持ち上げたものの重さを感じるだけでなく!
味覚、嗅覚、触覚を感じることができるのだ!
また!
領域自体に視覚、聴覚も備えているので!
タップが言っている「周りの動きが目ではなく心で直接見える」というのは、あながち間違っていないのである!!
そんなキマっちゃってる感じのタップを見て、いつもの如く集まっていた子供達は若干引き気味であった!
「タっつぁん、げんどうがやばいよ。そりゃ、スキルてきにじっさいそうなのかもしれないけどさ」
「そういうのすきだもんね、タっつぁん」
「ろくさいだからしかたないね」
「いや、みんなもたいけんしてみたらわかるって! なんかそんなこといいたくなる、かんかくなんだよっ!」
「そうなのかぁ。まあ、そのへんはタっつぁんにしかわからないもんね」
「そりゃそうだ。きくだけでも、あたまこんらんしそうなスキルだしね」
「じっさい、そうだよ。つかうと、くらくらするんだ」
能力の特性上、五感からくる情報がアホほど爆上がりするのである!
そのため、慣れないうちは情報処理が追い付かず、脳が混乱!
眩暈や吐き気などを感じることがあるのだ!!
「だいじょうぶなの、それ」
「むりしてつかわないほうがいいんじゃない?」
「そうだよ。あたまおかしくなっちゃうよ」
「つかわないと、なれないしね。やりすぎには、きをつけるよ」
「それにしてもさ。ほんとに、しにかけたらせいちょうするんだね。スキル」
目下のところ、子供達の最大関心事といってもよかった!
死にかけるような危機と直面した時、スキルが成長することがある!
スキルを成長させる方法はいくつかあるが、そのうちの一つとして有名な部類のものであった!
ただ、それは非常にまれなことであり、めったに起こるものではないとされている!
実際!
あの後ほかの子供達も靴下を嗅いでみたのだが、スキルは成長しなかったのである!!
「しぬおもいはしたけどな」
「な。しんだばぁちゃんが、こっちさくるなーっていいてたもん」
「そのあとしこたまおこられたしな」
靴下で死にかけた後、めちゃくちゃ怒られたのだ!
まさに踏んだり蹴ったりである!!
「つぎのほうほうを、かんがえないとなぁ」
「スーさんむりだよ。もうあきらめようって。おとなになればきっとスキルもせいちょうするよ」
「そうだよ。じかんがかいけつしてくれるものもあるよ」
「ときにはくやしさをこらえて、さけでものんでねどこでころがるしかないよるもあるよ」
「ぼく、おさけのめないしね。ねんれいてきに。だってさ。こうしているあいだにも、そんちょうはくるしんでるんだよ」
子供達は、無言でうつむいた!
中には肩を震わせているものもいる!
もちろん!!
笑いをこらえているのである!!!
「せめてさぁ、もっとふおんじゃない、おんびんなほうほうにしようよ」
「そういえば!」
「なにかいいほうほうがあるのか、ミッチュン」
ミッシェルは皆の知恵袋的少女であった!
なんにでも興味を示し、知識を蓄え!
それをひけらかすことに無類の喜びを見出しているのである!
年齢はストフレッドやタップと同じ六歳!
スキルは「怒りの鉄拳」である!!
「やどやの、ヨスィーオッカさんがいってたんだ。スキルをせいちょうさせるには、イメージがだいじだって」
ヨスィーオッカさんとは!
村唯一の宿屋の主人にして、食事処兼居酒屋の店主を勤める男性である!
スキル「炎魔法Lv3」を取得しているのだが、元々彼のスキルは「火魔法」というものであった!
火の玉を投げつけるといったよな効果しかなかったのだが!!
彼は何とかしてそれを料理に転用できないかと考えた!
しかし!!
思いつかなかったのである!!!
ヨスィーオッカさんは頭脳労働が苦手だったのだ!
そのうち考えることにつかれたヨスィーオッカさんの心に、怒りが芽生え始めた!!
なんでスキルに合わせなければいけないのか!!
スキルがこっちにすり合わせて来いよ!!!
例えばこんな風に!!
その怒りと!
具体的な「こんな風に」イメージが!!
奇跡を起こした!!!
ヨスィーオッカさんの「火魔法」は「炎魔法」へと成長したのである!
響き的にはあんまり違わねぇじゃねぇか!
そう思うものもいるかもしれない!
しかし、その自由度の幅は劇的に向上したのである!
それでも!!
ヨスィーオッカさんは満足しなかった!!
更なるダメな方向の研鑽の末!!
スキルを「炎魔法Lv2」!
さらには、「炎魔法Lv3」と進化させたのであるっ!!!
「というわけで、イメージがだいじなんだって」
「イメージかぁー」
ストフレッドは考えた!
新たな呪いのイメージ!!
強烈に頭、主に毛根に作用する力!!!
邪悪なる負のエネルギーが、頭皮を刺激しちゃう系のヤツである!!
そう!
ストフレッドもどちらかというと、厨二な感じのヤツが好きだったのだ!!
親友であるタップとは趣味が似通っているのである!!!
「はぁああああああ!!!」
ストフレッドは奇妙なポーズで、腹の底から声を出したっ!!
別に気の高まりとかを感じたわけではない!
なんとなく雰囲気を出そうとしただけである!!
しかし!!
何かしら力を振り絞ろうとする思いは純粋そのもの!
その無垢なる魂の叫びが!!
奇跡を起こすのである!!!
「はっ!?」
「どうしたのスーさん!」
「みえたっ! スキルに、あらたなちからがもたらされたんだっ!!」
新たな力とはっ!!!
新規追加呪い
つるっ禿げにする呪い(対象をつるっ禿げにする。その見返りに、対象は血液がサラサラになる)
「スーさんどんだけハゲすきなのさ!」
「シンプルにハゲにするやつじゃん!!」
「だって、いまんとこのろいっていったらハゲかんけいしかないからさぁ! イメージできないんだもん!」
六歳児にとって、ハゲはあまりにも強烈!
何なら一時間ぐらいそれだけで爆笑できるレベルの代物!
まだ幼いストフレッドは!!
禿げの呪縛から逃れられなかったのである!!!
子供達がこんなことをしている間にも、ゴブリンの脅威は着実に村に近づきつつあった!
ストフレッドはそんなゴブリンと!!
対峙することになるのである!!!