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お役人さまさ村に来ただ

 ついに村に六歳児童のスキル調査票を取りに役人がやってきたっ!!

 教会で検査が行われてから、三日後のことである!

 はやい!

 なんでこんなに早く来るのか!

 こっちにだって色々準備あるんだぞボケ役人がよぉ!!!

 普段なら「もっと早く取りに来いよっあくしろよクソ木っ端役人が!」などと言っているのだが、今はそんな状況ではなかった!

 何とかして役人を誤魔化さなければならないからである!

 そのための打ち合わせに、三日という時間はあまりにも短い!!

 村の大人たちは誰一人の例外もなく、超入念な打ち合わせを経て、不眠不休で役人を騙くらかす訓練に励んだっ!!


「なんだその演技はっ! 子供一人の命がかかっとるんやぞ!」


「はい、テッペン回りましたけど、本番まで一日しか残ってませんよぉー! 限界超えてくださぁーい!」


「炊き出しのパンはこっちの列! スープはこっちの列ですよー! 順番守ってー!」


 そしてっ!

 ついにっ!!

 本番当日である!!!


「このへんかな。あの、すみませぇーん。ここの村って・・・」


「ここはシャーチクの村だよ!」


「あ、あってた。来るの久しぶりだから道に迷いそうだったけど、何とかなるなぁ。ありがとうございます」


 役人を的確に村長宅に誘導する!

 クリア!!


「いやぁー、毎年ご苦労様です。ただ、ちょーっと今年検査の時バタついちゃいましてね」


「へぇ、何かあったんですか?」


「実は、高齢者による手押し車での煽り運転で、若者が膝カックンされるという事故が頻発しまして」


「うわぁー、今社会問題になってるやつじゃないですか」


「その対応に追われて、もうてんやわんやですよ。ご老人に強く言うと心臓麻痺とか起こしちゃいそうですし、やられた方も相手はおじいちゃんおばあちゃんだからって穏便に済ませようとするし。でも、大きな事故が起こってからではねぇ」


「わかります。その件は、まだ?」


「そうなんですよぉー、連日寝不足で。あ、これ、記録です。確認してください。ただ、ちょっと人手が足りなくて。めちゃくちゃ字が汚くて読みにくいと思うんですが」


「識字率のアレもありますから、仕方ありませんよ」


「なにしろ、司祭様の隣で記録取ってたやつなんて、読み書きできませんでしたから」


「ええ、それでどうやって記録を?」


「絵とかと、後は記憶でですね。ほら、言うて珍しいものなんて出ないでしょうし、人数も大していませんから」


「そりゃそうですよねぇ、あははは!」


「そうなんですよぉ! はははは!」


「じゃあ、早速チェックしますねぇー。んー、あー、はいはい。まあ、こんなもんですよねぇ。あ、農民が三人も。おめでとうございます」


「いやぁ、最近だと唯一いいニュースですよ」


「またまた。去年は品評会の評判も良かったらしいじゃないですかぁー。今年も地域別目指してるんでしょう?」


「そればっかりは、天候のこともありますからねぇ」


「ははは! はい、スキルの方は問題なさそうですね。全員分確認しましたー」


 しれっと確認してもらう!

 クリアー!!


「では、私はそろそろ」


「いやぁ、お役人というのも大変ですな。その資料も、持ち帰ったら上役の方やなんかが確認をしたり?」


「いやぁー、数が多いですから。主だったところを私が書類にして提出ですよ。あとは、書類保管庫に入れて、五年後かにまとめて処分ですねぇ」


「はぁー、たいへんですなぁ」


 書類の廃棄時期の確認!

 クリアー!!


「どけどけぇー! 邪魔じゃ邪魔じゃぁー!」


「ワシらの前を走ろうなんざ五十年早いんじゃボケェー!!」


「うわぁー! 暴走手押し車だぁー!」


「早歩きぐらいの速度で走ってくるぞぉ―!」


「ああ、また暴走手押し車がっ! すみません、お役人さん!」


「いえ、急いで行ってあげてください。私ももう帰りますので」


「すみません、お見送りだけで」


「お気になさらず。では、私はこれで」


 役人の追い出し!

 クリアー!!


 村長宅の二階に急遽設営された「役人襲来対策本部」に詰めている各部門責任者達は、緊張の表情で報告を待っていた!

 例えあばれゴリラが乱入しても、空気を読んで静かになるレベルの緊張感が場を支配している!

 そこへっ!!

 蹴破るような勢いでドアを開いて青年が飛び込んできた!!


「役人を追っていた隠密スキル持ちが戻りました! 無事に街に戻り、無難な書類を制作して提出したようです!」


「勝ったぞぉおおお!!!」


「うわぁああああ!!」


「万歳! シャーチク村万歳!!」


 戦勝である!!

 村人達は、戦いに勝利したのだ!!


「確かな情報なんだろうな!?」


「ああ! マッチュンの隠密スキルは新婚家庭の寝室に忍び込んで、そっとベットの横のテーブルにワインとカップ二つを置いて、小粋に花などを飾り付けてもばれないレベルだからな!!」


「村の七不思議のひとつ、アイツがやってたのか! 小粋だけどすげぇ怖かったぞアレ!」


「ちょっとそれに関しては後で膝を詰めて話し合うけど、とにかくよかった! これで村も安泰だ!」


「いやぁ、これであの子も安全だなぁ!」


「よかった、よかったなぁ!」


「はは! 泣くこたぁないだろ!」


「お前こそ!」


 自分の子も他所の子も、分け隔てなくいつくしみ育てる!

 保護者に守られ、清潔な服を着、温かい食事をとり、凍えることのない寝床で眠る!

 それは、この村に生まれた子供の義務であり!

 大人達はそれを守り通す権利があるのだ!

 そう!

 この村に生きる大人達にとって、子供を守るというのは「義務」ではない!

 真っ当な大人として胸を張って生きるのに必要な自負を得るための権利なのである!

 その位のこともできないようでは、村に未来などないのだ!!

 子供は未来への希望であり、最も守るべき希望なのである!!


「そういえば、スキルで思いだしたんだけどさ」


「なんだよ」


「あの子のスキルって、今の段階で何ができるんだよ」


「知らないけど。それがどうしたんだよ」


「いや、スキル自体が危ないのは事実だろ。把握しとかないと不味いんじゃないか」


 戦勝ムードが一瞬で凍り付いた!

 村の大人たちの戦いは!!

 まだ終わっていなかったのである!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、ほっこり……! 勢いに反しての割とシリアスな背景がベストマッチしてますよね。 そうだよね。バレたら異端審問待ったなしなんだよね。 それを善性だけで庇う村人たちは多分聖人。
[良い点] 義務と権利の話でウルッと来てしまいました。 続きを楽しみにしています。
[良い点] 良かったです。 シャーチク村の皆、頑張って! ってなりました!
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