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未知との坊さん

 シャーチク村にあるパン屋の二階!

 その一室で、二人の男女がパンをかじっていた!!

 片方は部屋の主であるパン屋の一人娘、ココ(14歳)!

 もう片方は、幼馴染である農家の次男坊ハヤト(16歳)!!

 二人はココが作った新作パンの味見を兼ねた、昼食を楽しんでいるのだ!

 ちなみに!!

 二人は付き合って、居ないのである!!!


「え? アレってマジだったの?」


「なんだ、お前冗談かなんかだと思ってたのか? 村長はこの村の出じゃねぇよ。元々は王都辺りで冒険者やってたんだってさ」


 衝撃の事実!!

 そう!

 実は村長は、シャーチク村に後から移り住んできた、移住者だったのだ!!


「あの村長が? ウソでしょ。それであんなにムラダイスキなの?」


「ムラダイスキなのにだよ。若いころはパーティを組んでたんだけど、なんだかんだあって追い出されたんだってさ」


「村長が?! だって村長って、スキル抜きにしてもそれなりに剣術とか使うじゃん! あの歳で!」


「だな。若いころはもっとすごかったって、うちのじいちゃんが言ってたけど。それでも通用しないんだろうな、都会だと」


「マジで? 都会怖すぎ。やっぱり国王直下抹殺騎士団の失われた席次十三番を狙うのは無謀なのかな」


「聞いたことねぇよそんな騎士団。お前にゃ、家業を継いでくれる旦那でも見つけて、パン作ってんのがお似合いだっつーの。ソレだけは上手いんだからさ。コレもいい味してるよ」


「うるせぇ!! まだギルドに登録してSSSランク冒険者だけど表向きはCランク冒険者の振りするとかそういうのがあるだろ! 大体、旦那貰うとしたらパンなんて作らせねぇーっつーの! 私の方が絶対美味いパン作るから!」


「すげぇ自信だな」


「そうよ。私の旦那になるってことは、この辺り一帯で一番のパン職人の旦那になるってことなんだから。ソイツ、相当な果報もんだよ」


「お前の旦那になろうなんてもの好きなヤツ、どこ探したっていないっつーの」


「言ったなテメェー! こうしてくれる! こうしてくれる!!」


「バカ、首絞めんなっ!」


 何度も言うようではあるが!

 この二人は!!

 付き合っていないのである!!!




 もしド辺境の農民に、「そらをとぶものはなぁーに?」と尋ねたら、間違いなくこう答えるであろう!!


 農協のトラック!!


 ド辺境で空飛ぶものといえば農協のトラックなのである!!

 鳥とか魔獣とかも空は飛ぶ!

 しかし!!

 やっぱり空飛ぶもので一番印象に残るものといえば、農協のトラックなのだ!!!

 農協のトラックがくると、いいことがたくさんあった!

 野菜は売れるし、品物が届く!

 楽しいことは農協のトラックと共にやってくるのだ!!

 そんなド辺境農村の上空に、農協のトラックではないデカい飛行体が現れた!


「なんだありゃ。農協のトラックじゃないぞ」


「じゃあ、どうでもいいや」


「どうでもよくないだろ、デカいぞアレ」


 飛行体は、めちゃめちゃデカかったのである!!

 縦幅横幅とも、農協のトラックの四倍はあるだろうか!

 そんなメチャデカ飛行物体を眺めていた農民の一人が、あることに気が付いた!


「あれって、教会のマークじゃないか? 教会で見たことある」


「ほんとだ。その横にも、なんかマークついてるぞ。かっこいいなぁ」


「よし、神父さんを呼んでこよう」


 あのメチャデカ飛行物体は、どうやら教会関係のなにがしかっぽい!

 なら、神父さんを呼んでくるしかない!!!

 農民二人組は、教会へと走った!!

 報告を受けた神父は、子供達の勉強用に使う問題用紙作成の手を止め、外へ出る!

 そして、飛行物体についているマークを見上げ!!

 力の限り叫んだ!!!


「異端審問局きてるぅうううううううううう!!!!!!!」


 すぐさま、村の主だった面々が招集されたのである!!!




「えらいこっちゃぁ。えらいこっちゃぁ、どうしたらいいんだこれ」


 震え声の村長!

 口にする疑問に答えるものは、誰もいなかった!

 なにしろ、みんな同じようなことを思っているからである!!


「いや、待て村長。落ち着け。これはあれじゃないか。もしかしたら呪術王関係ないパターンのやつなんじゃないか?」


「そうだよ。そういう可能性だってあるんじゃないか」


 そう! 異端審問局が来たからといって、必ずしも呪術王の件がばれたとは限らないのだ!


「だよなぁ! そうだよ! まだばれたと決まったわけじゃないよ!」


「あっぶねっ! 俺、心臓止まるかと思った!」


「別の用事できた可能性だってあるもんなぁ!」


「そうだよ! 神父を断罪しに来た可能性だってあるじゃないか!!」


「私何もしてないですよ!?」


「じゃあ、何しに来たんだ?」


 首をひねる村人達!

 船から何かしらアクションがあればまた別なのだろうが、今のところ全く何も言ってきていない!

 ただ、村の上に停泊しているだけなのである!!

 何かしてくれないと、こちらも対策が取れないのだ!

 一体どうしたものか!!

 悩むシャーチク村の住民達!

 だが!!

 案外早く、答えが出たのである!!!


「たいへんだぁあ! あのギガデッカイ船から、なんか降りて来たぞ!!」


「な、なんだって!?」


「外に飛び出せ!!」


 駆けだしていく村の住民達!!

 一見青春っぽい感じだが、全員顔が必死なので劇画感が強かった!

 もし今の彼らの絵を描いたとしたら、タイトルは「一揆」といったところである!!


「見ろ! メチャデッカイ飛行体が、光ってるぞ!」


「何かが下りてくる! なんだありゃ、玉か?!」


「いや、人だ! 人が下りてくるぞ!」


 圧倒的説明台詞なのである!!!

 実際、大きな船の船底ド真ん中あたりから、真っ直ぐに光が伸びていた!

 光の中央にいるのは、白髪白髭の爺さんである!!

 その姿を見た瞬間!


「ヴィッフェンドルフ? なんでアイツが」


 目を見開いた長老が、こぼすようにつぶやいた!!


「ひひひひ、ひかっ、“光の”ヴィッフェンドルフ猊下!?」


 少し離れたところにいた神父が、白目をむいて叫ぶ!!!

 ド辺境の農村に飛ばされる前、神父は王都にいた!

 その時に、ヴィッフェンドルフを見たことがあったのだ!

 当然、直接話したりなんかはしていない!!

 式典などの時に、お話されているのを見ていた程度!

 神父のような平坊主とは、住む世界が違うのである!!

 ゆっくりと降りてくるヴィッフェンドルフ!

 その姿に、住民達はあんぐりと口を開けている!!!


「なんだ、足場もないのにどうやって降りてきてるんだ!?」


「ヴィッフェンドルフ猊下に奉られた二つ名は、“光の”です。所持なさっているスキル光魔法は、直接光を操るのではなく、光属性の魔法を操るという能力」


「光属性の魔法って、重力制御やら身体強化、回復から攻撃、果ては超高速移動までこなすっていうあの万能魔法だろ!? マジかよ」


「ってことは、相当に地位の高いお坊様なんじゃないのか?」


「地位が高いなんてもんじゃありませんよ! 既に聖人指定までお受けになられた、文字通りの生きる伝説です!」


「おいおいおい、何だってそんな人が、こんなド辺境に来てるんだよ!」


「そんなの、こっちが聞きたいぐらいですよ!」


 完璧な説明台詞、乙なのである!!!

 突如として村の上に現れた“光の”ヴィッフェンドルフ!!

 その姿にビビるシャーチク村の住民達!

 果たして、ヴィッフェンドルフの目的とは!!

 次回に、乞うご期待なのである!!!




 そんなシリアスな大人達をしり目に!!

 ストフレッドとタップは、タップの部屋で農民ファイトのキャラクターシートとにらめっこしていた!


「はぁー、だめだ。しゅうちゅうできない」


「どうしたのさ、スーさん。あしたはダンジョンのリアル・ターン・アタックだっていうのに、らしくないよ」


 リアル・ターン・アタックとは!!

 ご存じテーブルゲーム「農民ファイト」でダンジョンに潜り!

 それを攻略するまでにかかったターン数を競うという、子供達に流行りのアソビなのである!!

 明日はシャーチク村に二つある雑貨屋の一つで、その競技会が開かれるのだ!

 参加者全員がレベル1のキャラクターを制作し!

 ブロックごとに分かれたもの同士で、一斉にダンジョン探索をスタート!!

 レベルを上げながら装備を集め、より早く最深部のボスを撃破したものが勝利をつかむ!

 当然、そのためのキャラクターの調整は非常に重要!

 参加者全員が、今頃は血眼になって最終調整をしているところなのだ!!!

 しかし!

 どうやらストフレッドは、今一集中しきれていない様子なのである!!


「じつはさ。さっきみちゃったんだ」


「なにをさ」


「ハヤトにいちゃんが、ぱんつくるれんしゅうしてたんだ」


 タップの顔から、表情が消えた!!

 真顔!

 全くの真顔である!!

 何時も大体、叫んでるか泣いているかしている、あのタップが!!

 まさかの、真顔!

 ストフレッドからもたらされた情報は、それほどまでに衝撃的だったのである!!!


「え、ちょ、いやいやいや。わかんないわかんない。どういうこと? どういうじょうきょうだったの、それ」


「ぱんやのおじさんから、つくりかたならってたんだ。バイトだ、っていってたけど、あれはなむこしゅぎょうだよ。おじさん、めがほんきだったもん」


「そとぼりかためられつつあるやつだよ、それ」


 ストフレッドは歯噛みをしながら、柱を殴りつけた!

 といっても六歳児で身体強化系スキルを持ち合わせていない拳!

「ぺちん!」って感じの音がする程度であった!!

 擬音の書き文字はカタカナではなく、可愛い感じのひらがなである!!!


「まぁまぁ、いいじゃない、スーさん。れいせいになろうよ。パンやのおじさんが、ちょっとあせりすぎてるだけさ。それよりも、もういっかいダンジョンでほれるアイテム、かくにんしようよ」


 農民ファイトのキャラクターは、二つまでアイテムを装備することができる!

 装備は、大きく分けて二種類!!

 一つは純粋にステータスをアップさせるタイプ!

 もう一つは、任意のタイミングで発動させることにより、ダイス目を操作するタイプだ!

 ダンジョンで手に入るアイテムは決まっており、潜る前にプレイヤーに公開される!

 しかし!!

 どのアイテムが手に入るかは運しだい!!!

 どんなものが手に入るかで戦略は大きく変化するので、リアル・ターン・アタックをする場合は綿密な事前考察が求められるのだ!!

 だが!

 ストフレッドは動かない!!


「どうしたのさ、スーさん」


「じつは、もうひとつみたものがあるんだ」


「なにをみたっていうのさ」


「ハヤトにいちゃんところのおばさんと、ココねぇちゃんが、いっしょにのうさぎょうしてた。で、りょうりつくってた」


 突然宇宙の話をされた猫みたいな顔になるタップ!!!

 その衝撃たるや!!

 アニメで初めて見るハマり始めた作品の推しキャラの話をしてたら、「原作と同じならそのキャラそろそろ死ぬよね!」って言われた時と同じぐらいの衝撃である!!!


「なんで。なん、いや、え。どうしてそうなったの」


「あたらしいおかずパンつくる、ざいりょうをつくるんだって。で、なら、なかみのつくりかたも、おしえるからってさ」


 おかずパン!!

 メンチカツやら焼きそば、ソーセージなど!

 さまざまなものを挟んだり包み込んだりするパンである!

 パン自体はもちろん、中身の出来も味に直結する種類のパンだ!!

 ハヤトの母親は料理上手で有名なので、習いに行ったのだろうと、通常なら考えるかもしれない!

 しかし!!!


「とつぎさきのあじ、おそわりにいってるじゃんか!」


 二人の状況が状況なので、そういう風にしか見えないのである!!!


「そうなんだよ! なんだっていうんだ!」


「でもあのふたり、つきあってないんだよね?」


「つきあってないよ」


 付き合っていないのである!!!


「なんでだよ!!!」


 ぺちぺちと柱を殴りまくるストフレッド!

 音は可愛い感じだが、その怒りは天を焦がすほどなのである!!


「もういい! ぼく、ちょっといってふたりをくっつけてくる!」


「おちつきなよ、スーさん! ちょっといってって、どこにいるかわからないし!」


「ここねぇちゃんのへやで、しんさくぱんのししょくかいとしょうして、いっしょにごはんたべてる。ふたりっきりで」


「やってやろうよスーさん! きゃらくたーなんて、つくってるばあいじゃないよ!」


 二人は親友同士!

 なんだかんだ言って、思考回路は似通っているのである!!

 ダッシュで外へ飛び出したストフレッドとタップ!

 目指すは、パン屋の二階だ!!

 しかし!!!

 いざ一直線にパン屋へと向かおうとしたその矢先!


「へぶっふっ!!!」


「スーさぁああん!?」


 ストフレッドの体が宙を舞った!!!

 地面にたたきつけられられる瞬間、タップがスキルを発動!

 寸でのところで助け起こす!


「い、いったい、なにものだ!」


 ストフレッドが吹っ飛ばされてきた場所を睨みつけるタップ!

 そこにいた人物に、息を飲んだ!!


「ミッチュン!? なんで、こんなことを!」


「そうだよ! ぼくたちは、ちょっといってふたりをいいふんいきにしてきますね、しないといけないんだ!」


 そこにいたのは、ミッチュン!!

 スキル「怒りの鉄拳」を持つ六歳女児だったのである!

 いや!!

 ミッチュンだけではない!

 ほかにも数人の子供達が、ストフレッドとタップの前に立ちふさがっているのだ!!!


「そうはさせない! あのふたりのじれったいかんじは、じゃまさせないからね!」


「じれじれがすきなひとだって、よのなかにはいるんだ!」


「なっ!!」


 そう!!

 ミッチュンと仲間達は、ジレジレ派だったのである!!!

 相いれない二つの勢力!

 もしここで引けば、不利益以外何物でもない状況!!

 互いにとって決して引くことのできない場面が訪れたのである!!!

 我慢の限界を迎え、早々にくっ付けようとする「いい加減付き合えや」派か!

 あるいは「すれ違ってる姿が胸キュン」派か!

 互いに一言も発さずとも、睨み合う視線のみで既に互いの意思は確認し合っていた!!

 そう!

 決して負けることができない!

 引くことの許されぬ戦いが!!

 始まろうとしているのである!!!


 ちなみに!

 上空にメチャクチャでっかい船が停泊しているのだ、が!

 どっちもそれどころではなかったので!!

 ガン無視だったのである!!!

どうでもいいことなんですが、「ザ・ラスト・メッセンジャー ~イノシシ~」でやった(HGP明朝E)っていうフォントネタ

誰も突っ込んでくれませんでした

切ない

いや、それ自体はどうでもいいんですが、「え、ゴジラフォントネタってメジャーじゃないの?」って若干の混乱を覚えたわけです

絶対だれか「ゴジラフォントかい!!」みたいなツッコミをしてくると思っていたものですから

まあ、そんなことはさておき


ていうか本編より子供達の戦いの方が長くなってますね

アイツらわちゃわちゃして手書くの楽しいんですよ


次回、“光の”なんちゃらさんと村人達が接触

そして、子供達の戦いが勃発します

多分ですが

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― 新着の感想 ―
[一言] 「そうだよ! 神父を断罪しに来た可能性だってあるじゃないか!!」 「私何もしてないですよ!?」 そう、危険人物についての報告もしてないんですよね。 王子、宰相、大臣、将軍などの「国王…
[一言] ゴジラフォントかい!
[一言] ミッチュンちゃん、あなたはまちがってる! じれじれなんて邪道、目を覚まして!! スーさん × タっつぁん!!! これこそが至高! まだなにもしらないミッチュンちゃんに貴腐人の嗜みを教えて…
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