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領都・マックス ~怒りのデス・ポーズ~

 農業祭まで時間が無い!!

 シャーチク村の大人達にとってそれは、由々しき問題であった!

 このままではろくすっぽ準備もままならぬ状態で、カローシ村との戦いに挑まなければならない!!

 準備が整わざれば、まともな戦などできるはずもないのである!!!

 かといって、時間が無いものはどうしようもないのでは!

 そんな絶望的な雰囲気が漂うシャーチク村であったが、解決策は己の中にあった!


 時間が無ければ!!

 作ればいいのである!!!


 幸い、シャーチク村は農村である!

 一次産業ならお手のものなのだ!

 とはいっても、具体的な方法はよくわからないであろう!!

 ごく簡単に説明するならば!

 シャーチク村の大人達は、光の速さで仕事をしたのである!

 光の速さで動くと、時は止まる!

 時が止まるということは、どんなに時間が足りなくとも!!

 その時間さえ過ぎていなければ、間に合わせることが可能なのだ!!!

 とはいえ!!

 実際に光の速さで動くのは、かなり難易度が高いアクション!

 ゆえにシャーチク村の大人達は妥協に妥協を重ね!!

 めちゃくちゃ頑張ることで光速に近づくことにしたのである!!!

 どんなに時間がなくとも、気合いと根性でやり切る!!

 必死こいて期限内に終わらせれば、遅れることはないのだ!!

 体力と気力をいけにえに捧げ、無茶ぶりな納期に間に合わせるのである!

 当然、体と心がやられそうになるのではある、が!!

 そこは気合と根性でカバーするのである!!!


 かくして!

 農業祭への参戦準備は!!

 領都へ出発する前日に、ギリギリで完了したのである!!!




「いやぁ、案外何とかなるもんだな」


「なぁに、本番はこれからだぜ!」


「そうさ! 隣村になんてぜってぇーに負けねぇ!」


 そう!

 農業祭へ向けての準備は、あくまで準備!

 お楽しみは!!

 これからなのである!!!


「そういえば、子供達は?」


「全員いくってさ。神父さんがきちんと諸注意とか準備するものとか伝えてあるってよ」


「あ、はい。ちゃんと伝えてありますよ。冊子を作って渡してあるので、大丈夫なはずです」


 臨海学校のしおり的なやつを作って渡していたのである!!

 その時に、諸注意などもしておいたのだ!

 神父は意外とできる男なのである!


「たしか、全員参加するんだよな」


「よかったよかった。ストフレッドも、なんか呪い対策できたって言ってたし」


「それだけが心配だったからな。まあ、どうにかなるべ」


 かなり制約こそあるものの、呪い対策は一応確保できていた!


 解呪の呪い(ストフレッドのスキルによって掛けられた任意の呪いを、掛けられたものの了解を得た場合に限り解除することができる)


 これがあれば、万が一呪いが暴発して知らん人をツルッパゲにしてしまったとしても!

 なんかうまいこと誤魔化せそうな雰囲気があるような気がするのである!!

 何かあったとしても、村の大人達もいるのである!

 呪いさえ解けてしまえば、なんやかんや誤魔化してしまえるはずだ!

 なんだかんだいって、シャーチク村の大人達はスキルも充実している!!

 やってやれないことはない!!!

 はずなのである!!!


「なぁに。子供のやったことのツケをしっかりとるってのも、大人の権利ってもんさ」


「おうとも。将来感謝してもらわねぇといけないからな」


「はっはっは! そりゃそうだ! 将来、カッコイイ大人だったってな具合で、思いだしてほしいからなぁ!」


 自分のために何かをしてくれた大人として、覚えておいてもらう!

 そういう機会を持つことができるのは、大人の権利といってよい!

 もちろん本当にそう記憶して置いてもらうためには、少々の努力が必要なのである!!

 シャーチク村の大人達は、そろいもそろってカッコつけしいであった!

 子供達にかっこいい大人として覚えておいてもらうためには!!

 努力を惜しまないのである!!!


「よぉし! 明日に向けて今日は各自家でぐっすり休んでくれ! 酒飲んで暴れるのは祭りが終わってからだ!!」


「「「おうっ!!!」」」


 村長の命令一番、大人達はダッシュで自宅へと散っていく!

 目的はもちろん!!

 ベッドに飛び込んで眠ることである!!!

 彼らももういい大人!

 明日が楽しみで眠れなくなる、なんてことはないのだ!

 もちろん!

 それは大人の場合であった!!

 村の子供達はド緊張とワクワク感で、眠れぬ夜をすごすのである!!!

 もちろん、最終的には眠ることができるのだが!


「だいじょうぶ。このぐらいならはこべるよ」


「やめろよぉ、かむなよ、とかいぃ」


「とかいがぁ! とかいがぼくたちをさいなむんだっ!」


 たとえ眠れたとしても、うなされたりするのである!!!

 ちなみに大人の方はというと!!


「うう、炭に、炭に火がつかないぃ! なんでぇ!」


「かみさんに頼まれた買い物がみつからねぇよぉ! 都会ってなんでこんなに入り組んでんだ!」


「ああ! 窓にっ! 窓にっ!!」


 やっぱりそんな感じで、うなされたりしていたのである!!

 この子供達にして大人達あり!

 シャーチク村は、似たもの仲良し村なのである!!!




 夜が明けて、次の日!!

 村の広場に鎮座する巨大な船!

 その前に整列するシャーチク村の一同!!

 もうお分かりだろう!

 この船は農協から派遣されたトラックと!!

 農業祭に参加する村人達である!!!

 村人達のは緊張の面持ちで、姿勢を正し村長の言葉を待っている!

 その整然とした様子たるや、まさに歴戦の勇士の風格であった!

 もちろん、農協の職員である船の乗組員達は、そんな村人達に困惑しきりである!!


 え? なに? どういうこと?


 みたいな顔の船員さん達を完全に置いてけぼりにして!!

 村長はキリッとした顔で演説を始めた!


「いよいよ農業祭への出陣の時である! 今日この日を迎えるまでに、諸君は多くの犠牲を払ってきた! やっとこの時を迎えたという思いを持つものも多いだろう!」


 大人の中には、直立不動で涙ぐむ者もいた!

 別に、何かを思い出しているわけではない!

 そんな雰囲気だったから、それっぽいリアクションをしているのだ!

 シャーチク村の村民は基本的に!!

 めちゃくちゃノリがいいのである!!!


「しかし! 戦いの本番は、農業祭! カローシ村を打倒せんと皆がしてきた苦労は、そこを目指してのものであるということを心に留め置いてもらいたい!」


「「「おうっ!!!」」」


「そして、もう一つ! 村に帰ってくるまでが農業祭だ! 各自、怪我などの無いよう、気を付けてもらいたい! もちろん、シャーチク村の恥になるような行動も慎むように!!」


「「「おうっ!!!」」」


「はい、じゃあね、これから搬入作業に入りまーす。重い荷物が多いんで気を付けてください。それと、ナマモノは冷蔵庫に入れる形になりますんでね。気を付けてくだっさい。では、作業始めてくださーい!」


「「「はーい」」」


 遊ぶときは遊ぶ!

 仕事をするときはきっちり仕事をする!

 そういう切り替えの早さも、シャーチク村の特徴なのである!!




 空を行くトラック!

 農協の基準では中型となるそれは、しかし!!

 全長30mを超える船は、シャーチク村の子供達からすれば超巨大!!

 いやがうえにも!

 テンションが上がろうというものなのである!!!


「うわぁー! すっげぇー!!」


「とんでる! とんでる!」


「おえぇえええええ!!!」


「スーさぁーん!?きをしっかりもって!!」


「新婚の家に花束とワイン置くのが駄目なら、初デートのカップルにやるのはOKかな?」


「ダメじゃん?」


 はしゃぐもの!

 船酔いするもの!!

 いつもと全く変わらないもの!!!

 これだけ騒げば船員さんに迷惑ではないかとも思われる、が!

 そこは船員さんも慣れたもの!

 そんなに邪魔にならないようであれば、お祭りに浮かれる田舎者に水を差すことなど、しないのである!!

 なにしろ、領都での農業祭に参加するというのは、ド辺境の農村にとっては一大行事!

 人によっては、一生に一度参加するかしないかというものなのだ!!

 船員さん達もそんな気持ちを、察してくれているのである!!!


 トラックはその後も快調に飛ばし!

 夕方ごろ!

 ついに領都へ、到着したのである!!!


「そとへとびだせ!!!」


 早速、子供達は船から飛び出した!

 場所は、領都のすみっこにある駐船場!

 周囲を見渡せば、いくつものトラックが停まっている!!

 少し離れた場所を見れば、大きな建物が!

 倉庫より大きな建物を見たことが無い子供達を圧倒する、巨大建築物!!

 それは、トラックで集められた物資や人を収容するターミナルであった!

 著名なデザイナーによって設計されたオシャンティなビジュアル!!

 それって機能的にどうなの?

 と思わなくもない外観ではあるが、お上りさんマルだしなシャーチク村の子供達には、バカ受けなのである!!!


「でっけぇー! すげぇーでっけぇー!」


「まさか、あれがくうこう!?」


「しっているのかミッチュン!!」


 まさに大興奮!

 子供達のテンションは!!

 うなぎ上りなのである!!!


「はぁー! 久しぶりに来たけど、やっぱりでっけぇーなぁー!」


「ビール飲んでいい!? ねぇ、ビール飲んでいい!?」


「なぁ、あそこの花壇! 肥料何使ってるのか見に行こうぜ!!」


 言うまでもなく!

 大人達だってMAXハイテンションなのである!!

 しかし!!!

 そんな気分も一瞬で吹き飛ばすものが、すぐそばにあったのだ!!


「まて、皆! あれを見てみろ!!」


 隠密スキルの持ち主であるマッチュンの声!

 その指さした先にあったのは、隣の駐船場にあるトラックだ!!

 周りにいるのは、見間違えるはずもない!

 カローシ村の住民達である!!

 距離があるので、互いに声は聞こえない!

 だが、向こうもこちらに気が付いたようであった!!

 にらみ合う両者!

 隣村を敵視しているのは、何もシャーチク村だけではない!!

 カローシ村も、隣村には絶対に負けないと思っているのだ!!!

 無言でメンチを切り合う両者!

 しかし、残念かな!!

 遠すぎて相手が何をしているかよくわからないのである!!!

 当然、メンチを切っても意味がない!!

 このままではラチが明かないと、両者ほぼ同時に同じような行動に出た!

 そう!!

 ボディーランゲージでの威嚇である!!!

 鯖折をキメるグリフォンのポーズ!

 ドラゴンを右にのポーズ!!

 狂乱する農家のポーズ!!!

 大人も子供も!

 コッチの村もアッチの村も!!

 皆揃って相手を威嚇しまくっているのだ!!!

 そして!

 お互いに同じ結論に行きつく!!


 こいつら・・・できる・・・!!!


 なんかよくわかんないポーズの取り合いで!!

 なんとなくお互いを認め合う感じになったのである!

 お気づきの方も多かろう!

 そう!

 争いとは、同程度同士の間にしか起きない!!

 つまるところ!

 シャーチク村もカローシ村も、大体同じようなノリの村だったのである!!!

 こうして!

 領都を舞台にした、ドングリの背比べ的な争いの火ぶたが!!

 切って落とされたのである!!!

今回の話を書いてて気が付いたんですが、“怒りの鉄拳”ミッシェルのあだ名である「ミッチュン」と、“隠密スキル”使いマッチュンって、名前似てるんですよね

全くの無意識でした

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― 新着の感想 ―
[一言] 火蓋が切られるんじゃなくて切って落とされる感じ好きです
[良い点] 全て [気になる点] なし [一言] さいっっこう
[一言] カローシ村も他の村も同じ様なテンションで同様な他村への敵対意識を持ってるんだろうなー
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