かーにばる(農業)
真剣な面持ちで村長の家にあつまる大人達!!
だいぶ見慣れてきたこの光景ではあるが!
この日も皆しこたま真剣な表情であった!!
大事な話し合いの!
最中だったからである!!
「領都での農業祭か。すっかり存在を忘れてたぞ」
「めちゃめちゃ色々あったもんな、最近」
「逆にいろいろありすぎて、むしろ何もなかったんじゃないかみたいな気になってきます」
「いや、それはないけど。お前おかしくなってんじゃないのか」
シャーチク村は、オヤガイシャー辺境伯領地内に位置していた!
領都とは、その辺境伯領の中心地!
日本で言うところの、県庁所在地のようなモノである!!
村からは非常に遠いところではあるが、一番近い都会といって間違いない!
若者が外に行くときに最初に目指す場所であるだろう!
もっとも!!
シャーチク村はめちゃくちゃ居心地がいいため!
若者が外に出ていくことなどはほとんどなかった!!
もしあったとしても、近所の村に嫁や婿に行くといった場合がほとんど!
ちなみにそれは、この辺りのド辺境に住む者の多くに当てはまることであった!!
オヤガイシャー辺境領は、ド辺境のくせに住みよい農村が多いのである!!!
そんなオヤガイシャー辺境領の領都で開かれる、農業祭り!
都会でやってる、シャーチク村とは関係ない祭り
では!!
なかったのである!!!
「あの、私、領都の農業祭りって行ったことないんですけど。そんなに賑やかなんです?」
「そうか。神父って王都出身だもんな。都会っ子め」
「やめろよ。そんな悪口言ってやるなよ」
「え、都会っ子って悪口なんですか? すんごい新鮮な気持ちなんですけど」
「賑やかなんてもんじゃないぞ。領内の村全部が参加するからな」
領都の農業祭!
その目玉は、領内全ての村から集まった代表者達が開く屋台であった!!
各村の名物や特産品を揃え売り出される屋台が並ぶ様は!
まさに物産展さながらといった風情であった!!!
となれば!
各村が己の威信を賭け!!
売上競争にいそしむのも、当然のことだったのである!!!
「対抗意識や競争心を煽ることで、それぞれの村がより努力をするように仕向ける。といった側面もあるのでしょうね」
「そりゃそうだろうな。切磋琢磨するのは悪いことじゃないし」
「だからこそうちの村も、毎年がんばってるわけだしな」
「言うて今年はマジで色々あったから、それどころじゃなかったんだよなぁ」
「それな。マジで色々あったし」
呪術王とか!
銘柄野菜の下りとか!!
なんかそんな感じのアレコレである!!!
本来、シャーチク村は何事もない平穏で退屈な日々が流れていくタイプのド辺境農村なのだ!
それがこんなにいろんなことが立て続いた日には!!
他のことがおろそかになるのも、仕方ないことなのである!!!
「何やかんや無茶苦茶疲れたからなぁ」
「じいさんばあさんも手押し車で暴走とかして、がんばってたからな」
「うちの両親アレ気に入っちゃったみたいで、未だに暴走してるんだけど。何とかならんかな」
「うちのばあちゃんもだよ。ていうか段々人数増えてきてるらしいぞ」
「マジかよ。止めたほうがいいのかな」
「でもあれのおかげで、うちのばあちゃんよく歩くようになってさ。なんか元気になってきてるんだよ」
「運動はいいもんだからな」
「何かしらきっかけがあって、仲間と歩くようになるってのはいいことだし」
「最近はちょっとした駆け足もできる年寄とかも出て来たみたいだぞ」
「マジか。じゃあ、見守る方向でいいのかね」
「弊害は、若者が追い掛け回される程度だしな」
「それはやめさせようよ。なんで追いかけるんだよ」
「ていうか。今年はどうすんのよ、農業祭」
例年であれば!
今頃は準備万端整えて、出陣を待つばかりといった時期であっただろう!
しかし、今年は何の準備もしていなかった!!
今から準備をするにしても、何をするかすら決まっていなかったのだ!!
「ごめん、何も思いつかない」
「俺、ずーっと呪術王と芋のことばっかり考えてたからさ。今、呪術王と芋のことしか考えられないわ」
「それな。ホントな」
「とはいえ何にもしないってわけにもいかんのでしょ?」
「まあ、そうね。それはね。辺境伯様からのご命令って形だからね」
「何か考えないといけないわけか。どんな屋台を出すか、だよな」
全員が唸りながら考え込む!!
しかし!
その頭に浮かんでいるのは!!
子供達と芋の事だけだったのである!!!
「ダメだ。何か指針が必要だろう、指針が」
「今年って、カローシ村の連中何やるんだろうな」
カローシ村!
その名前が出た瞬間、部屋の空気が一気に張り詰めた!!
シャーチク村にとって、カローシ村はライバル!
名前が出れば、意識せざるを得ない相手なのだ!!
「カローシ村な。うん。いや、全然気にしてるわけじゃないんだけど。誰か、今年何やるか調べにいった奴とかいるの?」
「マッチュン、お前どうせ行ってきたんだろ。なんだったんだよ」
「どうせって何さ。まぁ、いってきたけれども」
マッチュンが持つスキルは、「隠密スキル」であった!
存在感を限りなく希薄にしたり、様々な場所へ侵入することへの高い補正を持った便利なスキルである!!
このスキルを使い、マッチュンは情報を集めたり、偵察をしたりすることを得意としていた!
農村でそんなもん必要なの?
と!
思うものもいるかもしれない!
だが、多くの読者方がすでにご存じの通り!!
無茶苦茶役に立っているのだ!!!
ド辺境の農村というのは、常在戦場を地で行く場所なのである!!!
「で、アイツら何やるって?」
「今回はフライドポテトの屋台やるみたいだぞ」
「は?」
「は? お前何言ってんの?」
割とガチ目の「は?」である!!
なぜ、シャーチク村の村人達はそんなに素でキレ気味になっているのか!
それには、実に明確な理由があった!
カローシ村は、トウモロコシ作りが得意な村である!
それがなぜ、フライドポテトの屋台を出しているのか!!
村人達は、そこにあるメッセージを感じ取っていた!
すなわち!!
連中はシャーチク村に喧嘩を売っているのに、違いないのだ!!!
なぜ、そう思うのか!
そもそも芋作りは、シャーチク村が得意とするところなのである!
芋で銘柄野菜を狙ったのも、それが理由であった!
そのことをよくよく知っているカローシ村が、こともあろうに領都での農業祭にフライドポテトをぶつけてくるつもりだという!!
これは間違いなく、シャーチク村を意識してのことに違いない!!
と、シャーチク村の村人達は考えたのである!!!
「ふっざけんなよアイツらぁ!」
「どういうことだよマッチュン! これ喧嘩売られてるだろ! 絶対!」
「そうだろうな。っていうか、調べに行ったとき、シャーチク村の連中の吠え面が目に浮かぶようだ、って言ってたし。ところで吠え面ってなんなの?」
村人達は激怒した!!
必ず、かの邪智暴虐の隣村の連中を除かねばならぬと決意したのである!!!
「戦争じゃぁああ!!」
「ぜってぇー奴等よりすげぇ売り上げ叩き出してやろうぜ!」
「あたぼうよ! 隣村に負けてたまるかっつーの!!!」
「売られた喧嘩は買って上等! ド辺境じゃあ、舐められたら終いなんじゃぁ!!
「でも、何売るんだよ」
結局!
最初の問題に!!
戻ってきたのである!!!
だが、どうやら今回は、何か思いついたものがいるようであった!
「ふっふっふ」
「どうした、村長」
「私に、いい考えがある!」
「「「な、なんだってぇ!?」」」
「一体、どうしようっていうんだ!」
「相手がこっちの村の名産で来るなら、こっちもむこうの村の名産をぶつけるんだよぉ!」
カローシ村の名産!
そう!!
トウモロコシである!!!
相手の村の名産品を、農業祭で売りさばく!
通常ならば正気とは思えない暴挙である!
だが!
やられたらやり返すのが、ド辺境で生きる農民の流儀なのだ!!!
「さっすが村長!」
「俺達には思いつきもしない様な残虐ファイトを、いとも容易くやってのけるぜ!」
「でも、農業祭に出せるような美味いトウモロコシ、うちの村にあったか?」
「いや、待てよ。量を考えなければ、あるぞ」
「そうか、連作障害対策用のトウモロコシか!」
連作障害とは!!
同じ作物を同じ畑で連続して栽培すると、何やかんやあって作物がうまく育たなくなることを指す用語である!
それを避けるため、シャーチク村では違う作物を交互に栽培するのだ!
非常に手間はかかるものの、そうすることで収穫量と品質を維持することができるのである!!
「連作障害を避けるためだけに植えてるから、トウモロコシ自体の数は少ないもんな」
「農協にもあんまり卸さないで、村の中だけで食っちゃう場合がほとんどだしね」
ある程度まとまった量が無いと、農協に買い取ってもらっても大きな金額にはなりにくいのである!
それなら、自分達で美味しく頂いてしまうほうが良い場合も多いのだ!
シャーチク村にとってのトウモロコシは、まさにそれであった!!
しかし!
ならば味はそれなりなのかといえば!!
そんなことは一切ないのである!!!
「元の畑がいいし、世話だってかかしてないしね」
「味自体はどこにも負けないぜ! 特に、カローシ村にはなぁ!」
「まとまった量がないから農協には卸してないが、それだけだ!」
「しかし、農業祭を乗り切れる量はあるのか?」
「大丈夫。トウモロコシの収穫をやったのは、最近だからな。ごっそり残ってるって」
「村で一年食う分あるから、それを回せば余裕なはずだぜ」
「よし! いけるぞ! 後は屋台と炭、味噌とか醤油の準備だ!!」
「「「おうっ!!」」」
村人達の心が、一つになった!
それぞれが持ち場へと走り出そうとする!!
その時である!!!
「あ。そういえば、子供達も連れて行かないといけないんだよな、農業祭って」
領都での農業祭は、子供達が都会に触れることができる数少ない機会であった!
村に住む子供は六歳を迎えると、「都会で危険に遭わないために! ド辺境の農民が都会に行くための安全講習」を受ける!
そののち、本人の希望と両親の許可があれば、領都の農業祭に連れて行ってもらえるのだ!
そう!!
六歳以上の子供!
すなわち!!!
「となると?」
「当然ストフレッドも行きたがるだろうな」
人が一杯いるところに、スキル「呪術王」を持つストフレッドを連れていく!
中々の高難易度ミッションに、もう一波乱も二波乱も!!
ありそうな気配が、漂っていたのである!!!




