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風変わりな第3王子


ある朝、私は侍女にいつもより早く起こされた。


眠い目を擦りながらいつもよりも少しフォーマルな白いドレスに着替えさせてもらい、髪を整えられ、支度をする。

朝に弱い私はずっと不明瞭な思考を漂っていたが、口にロールパンが入った時にようやく意識がはっきりとした。


『…バターの風味が大変美味。』

「おはようございます、ミュリー様」


私の世話を任されている侍女・ナナがいつもの朗らかな表情で言う。

私はよく噛んでから嚥下した。


『おはよう、ナナ。今日はなにか用事があったかしら?』

「用事が飛び込んで来ましたので、恐縮ですが早くから起きていただいております。」


気がつくと目の前には私の大好物のオンパレード。

思わずフォークを手にいただきますを言う。


もぐもぐと咀嚼しながら嫌な予感をひしひし感じる。

料理長は毎食私の好きな食べ物を出す。

しかし、目の前にあるのはカリカリベーコンのシーザーサラダ、コーンドレッシングのサラダ、季節の野菜ごまドレッシングサラダ、ロールパン。

明らかに異様。

こういうときは経験上、私にとってストレスなことが待っている。


『あっこのシーザーサラダ…とってもおいしいわ…。』

「本日の御予定ですが、昼前には元婚約者様の第3王子、ダミアン様が当家にいらっしゃいます」

『こっちのサラダもおいしい…さすが料理長ね…』

「昨日の夜にお知らせするべきでしたが、使いのものが来た時にはミュリー様は既にお休みでしたので」

『どのサラダもすてき…私料理長と結婚しようかしら…』


遠くから、喜んで!!!!!!!と料理長の声が聞こえたがナナは構わずに続ける。


「トーマ様とシャアル様は本日東方よりお出での教師に剣を習うとのことで、同席はできません。ダミアン様とミュリー様おふたりになりますが、このナナ、必ず馳せ参じますので危ない時にはお呼びください。」


婚約破棄をしたと言えど、まだあちらも8歳。

単独で来るのならあまり問題は無いだろう。

…ないだろうか…?私はため息を吐きそうになるが淑女らしからぬことはできない。我慢した。


『わかったわ…王家のご子息様ですもの、公爵家令嬢として丁重におもてなしします。』

「できるだけのお力添えをいたします」


運ばれてきた食後のオレンジジュースを飲み干し、私は立ち上がった。




あれからまた支度をして、今は外で王家の馬車が見えるのを待っている。

外と言っても玄関の傍、決して広い広い庭の端の門で待っている訳では無い。


料理長がこっそり私に耳打ちしてくれた、夜は腕によりをかけて豪華なサラダを作りますという言葉に救われて立っている。サラダはおいしい。良い文明だ。


「見えましたね」

『見えたわね』


馬車がゆっくりと来て、私たちの先でとまった。


王子は少し微妙な顔で優雅に降りてきた。

私たちを視界に捉えると今度はにっこり王子様スマイルになり、数歩歩み寄る。

私がカーテシーをすると彼は驚いたように言った。


「ミュリー、そんなにかしこまらなくたっていいよ。僕と君の仲じゃないか!」


『ご機嫌麗しゅう、ダミアン様。』


私にはどんな仲かわからないが、とりあえず顔を上げる。

黒髪が美しい彼こそ、この国の第3王子だ。

私と同い年と聞いている。


「急にすまないね、ちょっと…急ぎで用があって」

『いいえ、問題ありませんわ。ダミアン様とのお話はとても勉強になりますもの。今、庭園のクレマチスやアマリリスが見頃なのでそちらでお茶にしましょう』


こちらですわ、と案内しようとすると流れるように手をとられ、エスコートされる。

芝生はしっかり管理されているため転ぶ心配なんてないのだが、まあそういうものなのかもしれない。

さらに言えば家主は私なのだが、まあそういうものなのかもしれない。


『最近とてもいいお天気で、あたたかいですね。』

「そうだね。」


優しい声、だがとても素っ気なく会話が中断する。

沈黙が苦手な私は続けて話した。


『ダミアン様は春はお好きですか?』

「いや、あまり好きではないよ。君に振られてしまった季節だからね。」

『いやですわ、ダミアン様ったら。そうやって私を期待させるのがお上手ですね。』

「ミュリーこそ、僕を弄ぶのがとても上手いじゃない?」

『うふふ、またそういうことを仰るんですもの』


夢のおかげで対人スキルがやけに上がっている気がする。

ここまで言い淀むことなく答えられる8歳児はきっといない。

そしてこんなに嫌味を言う8歳児もいない。


可愛い草花のアーチをいくつか潜るとナナが見えた。

お茶を用意してくれていたらしい。

助かった…。お茶を飲むのであれば少しの沈黙も耐えられる。

いざとなれば相手がカップから口を離した時にこちらもカップに口をつければいいのだ。会話の先延ばしができる。


『ほら、あちらですわ。春の花を見る時はここでお茶をしますの。素敵なところでしょう?私、時間があればいつもここにいますわ。』

「へぇ、君は花を愛でるのが趣味なの?」


ここに来てようやくまともな会話ができた気がする。

私は嬉しくなって大きく頷いた。


『愛でもしますが…本を読んだり、お喋りをしたりが主ですね。年中いろんな花が楽しめますよ。庭師がとても良く剪定や手入れをしてくれていますからね。』


茂みの向こうで ありがとうございます と庭師の声が聞こえた気がした。気の所為だろう。


「そうなんだね」


王子、次に私がナナの引いてくれた椅子に座る。

ナナは手際よく紅茶を準備すると、一礼して去っていった。


安心したらどっと疲れが姿を現した。

それを浸隠すように温かい紅茶を1口飲むと、ダミアン様は相変わらずの王子様スマイルで言った。


「それで…僕の何が不満で婚約を破棄したの?」



(見た目追記)

ナナ

茶髪茶目ボブカット


ダミアン

黒髪赤目一つ結び

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