私が持つ全てを、君に
少年は毎日のように私を読んだ。
何百回も読んだら普通は飽きるだろうに、毎回目を煌めかせ、興奮した様子で。
少年が成長して青年になり、結婚してもそれは変わらず、自らの子供達にも私を読み聞かせた。
子供達は嘗ての少年のように私を読み聞かされては頬を染め、また読んでほしいと何度も少年に強請っていた。
普段は外で跳ね回って遊ぶ2人が唯一家の中で嬉嬉として行うことが、私を見ることだった。
少年の妻であり子供達の母である女性はそんな子供達を見て苦笑し、何時も私を丁寧に本棚に直していた。
彼女は私を自分から開きはしなかったが、少年が子供達に読み聞かせるのによくじっと耳を傾けていた。
やがて少年は、子供達に私を与えた。
子供達は少年のように私を何度も読み返した。その度に嬉しげな様子で私の表紙を撫でた。
長い時が経った。
少年も子供達も居なくなり、何時しか私は倉庫の中で埃を被っていた。
明り取りの窓から入る陽光に照らされ、色褪せながら、私は待った。
再び私を手に取る存在を。
昔は誰にも触れられず古書店の片隅に居たのだから、待つのには慣れている。
そして、窓から見える景色が何度も巡った、ある春の日。
淡い桃色に色付いた花弁が窓から見えるその日、倉庫に一人の少女が足を踏み入れた。
その少女は物珍しげに倉庫の中を見渡しながら歩き、私に目を留めた。
大きな目を丸くして、私に駆け寄る。
服が汚れてしまうのにも構わず埃が積もった私の表紙を袖で拭い、本を開いた。
瞬間、星屑のような光を宿す瞳。
この瞳は、あの子達と一緒だ。
却説、これから君に、私が持つ全てを与えよう。
君が私を開く度、私は君に教えよう。
優しい心を。優しい絵を。優しい言葉を。
私を読む、全ての人へ____。




