私を読む、全ての人へ
初投稿作品となりますので至らぬ点も多々あるとは思いますが、暖かい目で見ていただければ幸いです。
此方の作品は以前私自身がTwitterで上げた詩を、細部の設定を加え小説へと作り直したものです。未だあと少しだけ続く予定です。若し興味を持っていただければ、其方の詩もご覧になって頂けると幸いです。
私は絵本だ。
それは私が私として誕生したからには覆しようのない事実であり、覆す必要も無い真実であった。
私を書いたのは、一人の絵描きの青年。
体が弱かった彼は、病床の上で私を描くことに精魂を燃やしていた。
紙面に彼自身の心を写し取るようにして描かれた私は、彼の手によってとある古びた書店の棚へと並べられた。
私を描いた青年と同年代の店主が構えるその書店を訪れるのは、主に近辺に住む御老人や子供達。
特別繁盛しているという訳では無かったが、地域民に愛される書店であった。
私は其処から、沢山の人の営みを、季節の移り変わりを眺めた。
ある時は、若い頃に読んだとある本を如何してももう一度読みたいのだと探す御老人を見た。
ある時は、学舎の図書室で見付けた本を気に入り、其れを購入する為に本の背表紙を指でなぞる青年を見た。
ある時は、家族に食べさせてやりたいのだと異国の料理の作り方が沢山載った本を買い求める御夫人を見た。
四季が何度も巡る中私の背表紙に目を留めた人が居なかった訳ではないが、直ぐに他の本に興を引かれて視線を外した。
私は、静かに待った。
何時か誰かが私を手に取り、開いてくれる日を。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、また春が来た。
暖かな陽気に店主が微睡む中、小さな軽い足音が店に響いた。
その足音の主は、以前、私をじっと見てから少し残念そうに帰って行った近隣の少年だった。
彼はうんと背伸びして私を手にし、棚から引っ張り出した。
そして、パタパタと音を立てながら店主の元へと駆け寄り、その手へと私を渡した。
小さな掌に握り込んでいた、沢山の小銭が台の上にばら撒かれる。
「このご本、ください!」
店主は幾度か目を瞬かせ、そして嬉しげにくしゃりと笑った。
沢山の皺が刻まれた大きな手が、少年の頭を撫でる。
彼の目は、何か尊く得難いものを見るように、眩しげに細められていた。
「坊やはお目が高いな。この本はね、私の昔の友人が描いたものなんだ。この本は屹度君に大切なものを与えてくれるだろう」
彼の言葉に、期待に目を煌めかせた少年は「大切にしてやってくれ」という言葉と共に渡された私をぎゅ、と折れない程度に抱き締めた。
その少年こそが、私の最初の持ち主となった。
皆さんはお気に入りの本はありますか?
以前は酷く気に入って何度も読み返していたけれど今は本棚で埃を被ってしまっている本はありませんか?若しあるならば、偶には読み返してみてください。
その本は、貴方にとってとても大切な何かを思い出させてくれるかもしれません。




