王伝編集官 異伝 ベルデミン&エウルピケ ①
「王伝編集官」54話後あたりです。
*ベルデミン
*エウルピケ
白い尾は揺れてなく三角の耳も力なく下がっている。こちらに背を向けているがわかりやすく落ち込んでいる。弟は3才も下の少女に負けたのがよほどくやしいのだろう。自国では力押しなら年上にでも勝てるのだから。
ダンジョン探索も終えて街に帰還した時も呆然としていて彼女が去るところも覚えてない。客室のソファでぼんやりしている弟の頭をひと撫ですると意地の悪い質問をした。
「どうだ?なにか得られるものはあったか」
「ミン兄ぃ・・・」
「『王印』とて万能ではないということだ。あれは『観察』すらもっていない」
スキルではなく五感であれだけの動きができるのだ。むしろ訓練により使いこなすスキルより本能に直結した分年季の差か。赤子はだれからも呼吸の仕方を習うものではない。獣人の資質は十分に活かされている。しかも要所で攻撃魔法を使ったが、あえて身体強化では使っていなかった。その上まだ余力もあった。いっそ清々しいがそれを言っては気の毒か。私も身内の女達に甘いと言えぬな。慰めなど役に立たぬが一手打ってやる。さぁ、足音が近づいてくるぞ。
バターン
「おじゃましまっすー」
「うわぁ、なにしに来た」
「明日帰るからご挨拶にきたよ。でも、聞いてたのとちがうし」
「なにがだよ」
「じめじめと泣きべそかいてるって。おもしろそうだと思ってきたんだけど」
半分当たってるのだから弟は苦々しくも言い返せない。それにおもしろそうだと口にするが顔はばかにしてる風ではない。警戒していた顔から気まずさが湧き出て思わず目をそらす。こういう時、目をそらしたほうが負けになるのだが。黒髪の少女は気にすることなくにっこり微笑み
「来年から夏は武者修行に出るからそっちのお勧め聞いてもいい?」
「・・・それなら」
「うんうん」
「・・・案内してやってもいい」
「ふーん、でもそれじゃ分が悪くない?」
極力抑えて言った言葉は意外に思えたのか、弟の思惑に乗るどころかカウンターで返り討ちにした。やはり彼女に任せるのが適任だ。
「なんだと?」
「お金は賭けないからずっとただ働きになるよ?」
つまり彼女は弟がずっと負けっぱなしになると宣告した。たいした自信だ。こちらの意図もわかっている。
「では君の修行に付き合えるよう鍛えておこう」
「それはたのしみです。ベルデミン王子。」
少女はこちらに向きにっこり笑った。自信と思い上がりが違うという見本だな。私と対戦しようとはしないのだから。これなら友人の危機とあれば、こちらに来たがっているあの双子も御するだろう。国賓として来られるよう手配しておくか。先に我がイゾルダーン国の紋章入りの紙で一筆書く。
「これを渡しておく。レオングラディのどの国でも融通が利く」
「わー。ありがとうございます」
「いいや。これは迷惑料の先払いだな」
二人して弟の顔を見ると同じ笑みだろうニヤリとし、相手は来年を楽しみに思い私は来年までの修行内容に思いを馳せた。
強さこそ我らの望むところなのだから
次はテラの兄ノーリェの予定です。