『彼』の願い
なぜ生きなくてはいけないのか
なぜ善と悪はあるのか
もし それを知らずに生きるほうがいいのなら
この先は見ない方がいい
知らなくても生きていくことに変わりはないのだから
『命あるもの』
彼らは世に現れるとき『命ならざるもの』を内に宿して生まれた。
『命ならざるもの』
彼らは『命あるもの』と共に生まれながら命になれなかった。生きたいという『願い』を持ちながら、叶えられない想いはいつしか形を変えた。『次』は自分がそうありたいと。
彼らのいう『次』とは次に生まれるとき
ある日、彼らは気づいた。
「あぁ、この『器』さえなければ」
『命あるもの』は知らない。
あなたたちは愛されている。そして同じだけ妬まれてもいる。
『命ならざるもの』に知る術はない。
『器』を壊しても『命あるもの』になれないことを
『彼』以外は言う。
「これは『理』である」
『彼』は問う。
「ならばこの胸の痛みは義務であろう?」
『彼』以外の声はない。『滅しないもの』であることもまた同じなのだから。
『彼』は告げる。
「我が『半身』と共に証明しよう。彼の地、トゥーリライルで」
こうして『彼』は自らの『半身』に『命ならざるもの』を受け入れ、彼らの願いを叶え続ける。
―――滅したい
ただそう願い続ける愛しい我が子たち
おいで
かりそめの血肉をもって叶えるといい
貫かれるのは痛みですらないのだから
この地に名はない。陽の恵みのない地に育つものもない。満天の星空とただ茶色のみが広がる地に風が吹き抜ける。弔う者も墓標もない。ゆえに名をもっても意味はない。
きらめく星々のおかげでうっすら見える人影にはそよそよと風に流される長い・・・ヒゲ。長いローブを着た姿は齢を重ねた賢者の風格がある。彼はゆっくりと手に持つごつごつした杖を掲げると、その先に小さな光の粒が灯り上空へと向かった。そしてその口から紡がれるはなんとものんびりした声だった。
「でわぁ はじめぇー」
上空へ消えたかに見えた光は声を合図に昼間のごとく輝き、刹那この地にあらゆる音が舞う。いつからいたのかこの地に数多くのうごめくものたちが踊り狂い戦う。そこにいくつかの人影。動かずなりゆきを見つめている。こちらを向いているのが敵、背を向けているのが味方、しんぷるいずべすと。一人目の年若い女性、言動と行動から女の子と呼んでほしそうです。
「ねぇねぇ、見たことないあの背の高い人だれ?」
「あれはエルフ族、隣の小柄なのはドワーフ族、どちらも私たちの界にはいないよ」
答えたのは青年。白と青系の装束はこちら側の旗印でもあるのだろう。対して向こうは黒と赤を基調としている。いずれ乱戦になってもわかりやすい。2人目の女性も年若く、先の子の短い黒髪に対し鮮やかな紅い髪を腰までゆるく三つ編みにしている。彼女が気になるのは味方ではなく敵だ。
「骸骨を操ってるのね。浮いている黒いのはなに?」
「あれはリッチ。あの辺はアンデッドの一団だよ」
「死者を操るなんてどうかと思ったけど、資源を再利用してると考えればありか」
かわいく首をかしげてるが倫理観も効率の前では黙する答え方だ。あれ何、これ何に答えているうちにますます乱戦になりいくらか数も減ってきた。そこに上空からこちらに背を向けて竜が降りてきた。自然と地上で戦っていた場所に空白ができつつある。あちらからもそれ相応の相手が出てくる。
「うわぁ、三つ首わんこだ。よし、もーらい」
とてもうれしそうに駆け出した。「それケル」聞いてないし。
「しようがないわねぇ」
もうひとりも付き合う。まだまだ宴は終りそうもない。ふと、紅い髪の子が振り向きほほえんだ。
「いっとくけど、なにも賭けてないからね」
再び前を向いて去る背に、青年はつぶやく。
「本当に頼もしい友だよ。君達も」
「私たちは生まれるときに『魂分けしもの』をつれていかれました。そのときに『寂しさ』は生まれたのです。『寂しさ』をだいじにしてくださいね。それがあなたたちをお友達にしてくれるのですよ」
「「「 はーい 」」」
初等科1年の最初の授業は『歴史』。これは史実として伝えられていること。今年もたくさんの子たちが知る。
あなたたちは愛されている
本編に入れようか迷いましたがこちらにしました。