王伝編集官 異伝 エイドリアン①
「王伝編集官」54話後の話です。
「―――――このたび[三大陸会議]の呈示により、エイドリアン・カルツを新領「カルスティン」の領主に任ずる。」
「謹んで承ります。」
この日アラスティ国王城の王の間にて式典が行われた。新ダンジョンの発見に伴い、付近の安全を考慮し[三大陸会議]は新領を置くことにした。任地への赴任は街道と街の整備が済む2年後だが、開拓の指揮も彼が取るため先に任命式となった。ひざまずき頭を下げるエイドリアンの耳に伯父である国王マクスウェルの告げる言葉は高らかに響く。しかし内心は領主となる際に提示されたとある言葉に苦悩していた。
「なお、任地に着任の際には夫婦そろっていること」
「・・・善処します」
顔を上げたエイドリアンの前には努力の跡が見える口元と、笑いを堪えていない目元をした王と目が合った。言いたいことがあるなら言えばいい。と、目で押したが貫禄の差で押し返される。すぐに親しみある顔になるが、思いやりにもならない一言をささやいた。
「まぁ、がんばれ?」
*エイドリアン・カルツ
ひとつの起点はあったが、それ以前もそれ以降も変わらず抱く想いがあった。
当時、エイドリアンは13才。学院の休日いつものように庭園で剣の素振りをしていると、これまたいつものように妹メイフェリアがタオルをもってやってきた。7才のあの子は近頃だれかれ構わずお手伝いしたいと言って周囲を困らせているらしい。家令が使用人たちの総意をまとめた所、これが一番害がないとのことだ。
「エドにーさまー」
「フィー、今日は早いな」
「お父さまが私たちを呼んでます」
私たちの父はアラスティ国の王弟。その父が子供を城に呼ぶということはかなりの賓客が来られたということになる。朝食時になにも言われなかったから先触れもない。それが通る相手となると・・・
「そうか、では着替えておいで」
「はーい」
案内されたのが貴賓室でなく父の執務室であった事や、ノック前から聞こえる雄雄しい笑い声。推測は確信へと変わる。そわそわするフィーを横目にノックすると会話が止まり扉が開いた。中にいたのは見知った顔の父ユージンと伯父マクスウェル、そして初めて見る顔が二人。しかし、まず最初に声をかけるべきは5才と3才になる従兄弟たちを両腕に抱えているお方だ。
「お久しぶりにございます。フェルダー王」
「おぉ、エイドリアン久しいな。だが」
一度話を止め少し気恥ずかしげな兄のウィルと、高い視線に喜色いっぱいのジェノをゆっくり下ろした。一国の王子ともなると気軽に抱き上げられたりしないので慣れていない。次は私の番だと笑顔で迫られたが、いや、さすがにもうそんな年では・・・残念そうにしないでください。
「わしはもう王ではないぞ。ほらほら」
まだ迫ってきますか。仕方なく私の後ろに隠れていたフィーをそっと前に差し出す。子ども扱いすると機嫌が悪くなるが、すまない。しかし女児の成長期などお見通しな彼は見事にあやす。
「おぉ、メイフェリア姫はすっかり大人になられたなぁ。もう抱えさせてはもらえぬだろうか」
「そ、そんなことありませんわ」
7才児に跪き本気で落とすとは。このマラストーリス国の(元)王は私にとって父や伯父より尊敬している方だが、時々微妙になる。うん、時々。ウィルやジェノとちがって抱えて体重の話をしないのはさすがだと思うが。
フェルダー公からあと二人の紹介があり、しばらく雑談した後本題へと移った。
そこで聞かされた話は耳を疑うような内容だった。
『王印』が暴走しかけたと
自分の手にあるのはそんなに危険なものなのか
まだ幼い従兄弟たちにその可能性があるというのか・・・
受け入れがたい事実に
これまでよりさらに強く誓おう
もっと強く在らねばと
この後「王女と補佐官」に関わりますが彼の出番が多いかは未定です。
なぜなら別のシリーズ出す準備ちゅ・・・ペースが遅いのになにやってんだかとか思わないでー