王伝編集官 異伝 ディナリィ①
王伝編集官51話に連なる内容です。
本人は口数少ないので第3者が全部語っております。
アラスティに3ヶ所ある屋台広場
そのうちのひとつ、王立学院のある北地区の屋台広場で僕はこの春卒業してから働いている。中肉・中背で茶色い髪と目。とくに目立つ風貌ではない。商家の次男。料理が好きで将来はその道に進むものだと思っていた。
商会や商人の出す公設市場とちがい、屋台広場の店は卒業したての学生や在校生によってギルドとして管理・運営されている。そして僕の肩書きは北地区主任。肩書きは立派だけど要は何でも屋。食材の仕入れは周囲の飲食店などからでる半端や市場の規格外品が主だけど、他はメニューの相談や目利きに技術指導。もちろん忙しい時間は店頭も手伝う。おかしい、なんでこんなに忙しいんだろう。あと週2で学院の講義もやっているし。誰だ。「魔法料理学」なんて学科作ったのは。ただ僕はディーにご飯食べさせていただけなのに。
*ディナリィ・シューデホーン
妹・友人・家族
僕からみた4つ年下のディナリィはそのどれにも当てはまらない。今のところは。彼女からはどう見えているのだろう。もう8年たったのか。もし「お母さん」って言われたら複雑なとこだよ・・・
どうやら討伐は終ったらしい。ほんの一日顔を見なかっただけなのに、帰ってきたディーは少し疲れたのかぼんやりとした足取りでこちらに来た。学生で第一部隊に行ったのは彼女だけだ。実力は知っているが、無事でよかった。軽く食事していくらしくトレーにサラダボウル(それ皿用ではないからね)をのせ料理を自分で盛り付ける。学食と同じく学生は無料なので、好きなだけ食べていいのだが・・・それ軽くかい?
まずガーリックライス、これでボウル半分埋まってる。その上にハーブソルトで軽く味のついた葉野菜。もう器の容量からはみ出した。そこにほぐした蒸し鶏が山に・・・。4つ割したミニトマト、ローストナッツ、クルトン、彩りもバランスもいいけど量が半端なくなっている。最後に僕の前にきてそれを置いた。はいはい。生卵をひとつ取り、魔力をこめる。こんこんとテーブルの上で割れ目をいれ、小山の上にほろほろと薄黄色の花のように振りかけた。
「おかえり、ディー。怪我しなかったかい?」
「ん」
なんでもない顔をしているが彼女の髪が一筋額に張り付いていた。ディーが汗をかくほどの戦闘であったのだ。改めて全身を見直す。年頃の女の子にそんな見方すると怒ってしまうだろうに。今の彼女はそんな女の子たちよりは少し?他の部分に肉付きがよくなっている。これも僕のせいだけど。強くなりたいと願った彼女は14才で学院最強となった。口数は少ないが近寄りがたくないので男女問わずもててる。「白薔薇」なんて二つ名に、僕のほうがもしかしなくてもお母さんな気分を自覚した。
僕が初めてディナリィに会ったのは彼女が初等科に入学した日だった。アラスティ王立学院の建物の大きさにびっくりの好奇心と知らない場所への少しの不安が見えた。同じ新入生たちと比べると背も高く、いやひょろ長いと思うほど細身だった。髪は絹のような白銀で肩まであり、目は鋼色。だから僕の最初の感想は表情を含めて(なんか硬そう)だった。目線を合わせるためにしゃがんで家族仕込みの笑顔を浮かべた。
「こんにちわ」
「・・・・」
僕たち上級生は保護者の方たちから彼女達の制服の受け取りや学院内の案内を託されるのだけど、ディーは僕と目が合うと一緒に来たお父さん?の後ろに隠れてしまった。うーん、まいったな。他の子たちはご近所さんか兄弟とかで見知っているけど、この子はそれがいなくて僕に任されたんだけど・・・なんか気の引くものあったっけ。とポケットを探ると。あった、魔力操作の練習で作ったゆで卵。あとで食べようと一つもってた。きれいに殻をむいて塩をひとつまみ。包み紙に持ちやすくつつんでそーっと差し出す。するとそれを見ていたディーから警戒心らしきものは消え「ありがと」と受け取ってくれた。
「おいしぃ」
まるで卵すら初めて食べたかのような顔。この子はいったい・・・。後になって聞いたけど一緒に来たのはお父さんではなく、知人の子を預かっているということだった。自分では子供に必要な食事が用意できないと。それって今後もこの子の食事管理するってこと?なるほど、だから僕なのか。
当時の僕は魔法操作をあとで食べられる料理と組み合わせることがお気に入りだった。その中でも卵が多く、硬ゆで・半熟、どれもその日の気分で作り分けていた。そのうちゆでた後割らずに中だけ切ったりほぐしたりと色々な食べ方ができるので自由研究でレポートにしたりもしていた。それをだれかに食べてもらって喜ばれることで、僕もうれしいと気づいた。知らずに僕はさっきまでの営業スマイルを止め心から笑っていた。
「それじゃ、制服もらいにいこうか」
「うん」
不覚にも、僕はディーの一言で人生を決めてしまった。そしてこの決断は生涯僕を後押ししてくれていた。半ば料理科と魔法科の教授に丸め込まれて「魔法料理学」の学科設立に関わる僕はそもそも押しに弱かったな。僕だってわかっている。これが人々の生活に大きく関わることを。でも僕が見たのは少女の小さな笑み。他の人にもそれを届けられる可能性。
でも僕はそれがどうにもだいそれた事だと思うこともなかったんだ。それも入学後、彼女から聞いた言葉が原因だった。食事がよくなって彼女の頬がようやく子供らしいふっくらしたラインになった。いろいろ話もした。将来どうしたいかって聞くとまるでお嫁さん!って言う他の子みたく笑顔で
「おおきくなったらおとうさんにあいにいくの」
おとうさん?
「おとうさんのいるとこはあぶないからつよくならないとだめなんだって」
おとうさんてなにしてるの?
「ディーのおとうさんのおしごとまじんなんだって」
なにそれ、そんなしごとあったっけ?
彼をメインにすると帰ってこれなくなりそうなので、今は
このくらいの扱いで止めてます。