王伝編集官 異伝 テラネーゼ①
王伝編集官36話の続きです。
ダンジョン攻略そのものは未定です。
きっと早すぎて記憶に残らない予感。
*テラネーゼ・フォレスライ
ズズズーーーン
100m四方はあるダンジョンボスの間の主、キマイラが口から血を流し床に伏す姿はとてもいい。自分で倒したんでもないけどね。一人だったら「ひれ伏せよ!」とか叫んでたかもしれない。サフィが持っていた拘束用の呪符で身動き取れない巨大な魔獣から憎憎しげににらまれニマニマと頬をゆるませていたら
「なに笑ってるんだよ、きもっ」
「・・・6対4、お供の黒牙狼を倒した数は変わらないよ」
「あれはっ、最後の1匹ずるいぞ!」
やぁねぇ、誰が倒してもいいじゃないの。この兄上大好きっ子のエウルピケ王子君、ちょっと「きゃー、ベルデミン王子すてきー!」って言ったらよそ見したし。よかったねぇ、なにも賭けなくて。私はこの負けず嫌いな獣人王子君を手段選ばず叩きのめすのがやけに楽しい。これは私の祖先に獣人と魔族がいたことが起因らしい。獣人の強さを求める根底はまけず嫌い。対して魔族の強さを求める根底は知的好奇心。めったにないことに私は両方もってしまった珍獣中の珍獣。
「でも卑怯だと思わないでしょう?」
「・・・わかってるよ、次は負けない」
プイと横を向いた。フフフかわいい、ツンテレ白猫だ。耳だけこっち向いてる。わかるよぉ、くやしくて情けなくなったんだね。私の潜在能力は獣人も魔族も超えている。1対1なら「王印」でも勝てるかな。しかしそんな私も普段はあの万能無敵王子に煮え湯を飲まされておる。奴はいつか絶対倒す!
「のーりぇにーさまー。テラがみつからなーい」
「ご苦労さま、サンド、アクア。またどこかで隠れたまま寝てるね」
たかがかくれんぼというなかれ。夢と希望のパラダイス、フォレスライ邸で行われているのは仁義なきサバイバル。さてさて、テラの育った環境をご紹介いたしましょう。
テラさまはご両親と兄上の4人家族でございます。お父様は代々ルシネイラ国で要職に就かれている家系です。ですからご自宅は各国の要人をもてなせるよう立派なものです。テラさまがご誕生の際も家人共々たいへんお喜び申し上げたもので・・・し・・た。(どこか遠い目してますよ)
テラ、3才
「テラさまー、テラさまー、・・・どこにもおられませんわ。」
「ただいま。どうかしたの?」
「おかえりなさいませ、ノーリェさま。またテラさまが・・・」
「お昼は食べたんだね。じゃ、探してくるよ」
そうなんです。ノーリェさまが学院に通われるようになってから、一人あそびが派手になられまして。ある日はクローゼットの中、別の日はリネン室のシーツかごの中。と、まぁ日々の成長が楽しみでもあり・・・。こほん、正直に申し上げれば私共の手には負えなくなってまいりました。一緒に遊ぶお友達も5才になるころにはサンド君とアクアちゃんだけになってましたものねぇ。あら、もう戻られましたわ。今日は食料庫のジャガイモ袋の中でしたのね。ではお着替えしていただかないと。
ノーリェはサンドとアクアをつれて庭のとある木の下に来た。ルシネイラ国には離宮がないためフォレスライ邸の庭は公費をつぎ込みやたら豪華だ。王家の外戚であるアスコーディ家は警備の兼ね合いもあり、敷地の多くは訓練場や騎士のための設備で埋まっている。それでも森レベルの広さではない、テラの最近のお気に入りはというと
「あれ、ここさっき探したんだけどなぁ」
「サンド、よく聞いてごらん」
木の葉のさわさわという音に混ざって「う~ん、おやつぅ」と、かすかな声。じーっと木を見上げてもみえない。登ろうかと木に手をつけると、頭をなでられた。ん?とノーリェさまをふり返れば人差し指を唇に当てて、待つよう目が言ってる。アクアが待ってるところまで下がって彼が始めることをわくわくしながら待つ。必然という言葉がふさわしい、テラ捕獲用の。まさに魔法。
「わたしにできることってなんだろ」
「・・・やりたいこと見つけるのが先だろ」
「!!サンドがいいこといってる。そのとおりなんだけどね」
他愛ないけど大事な日常。両手を広げたノーリェさまの元にふわふわと丸まったテラが降りてくる。こんな風にテラと関わっていると何か見つかるかな。
テラが余計なことを言ってますね。倒すんですか。「いいでしょう、遊んであげますよ」(あ)