サフィ①
始めましたサイドストーリー。
最初はサフィ。ヒロインかと思いきや違いましたねー
風が頬を押すのが気持ちいい。今感じるのはそれだけ。ただ目を閉じてじっとしている。でも風を受けてない側に接している人にはわかっている。私が震えている事を。
「サフィ、そのまま寝ちゃってて。ほらほらふかふかでしょ」
「ミン兄の頭は枕じゃないぞ」
「かまわん」
三者三様の声色だ。私を気づかってくれる、ここにいるのも強引に決められたようでもいやじゃない。それがテラという子。次はまだちょっとお兄さんに甘えたい、ピケ君もテラのペースに巻き込まれてるね。
私とテラを抱えて光の届かない森の中を疾走するこの人は・・・
「・・・眠ったようだな。嫌ってる訳ではないのか」
「サフィのお兄さんたちが原因だけど、ラディはこれには対応しないって言ってたから」
サフィは年上の男の人が怖い。眠ったというより恐怖に耐えているうちに意識を失ったのが正確だが、正直だけが美徳ではない。テラはこの人に任せた自分は間違ってなかったと心の中でも偉そうだ。自分の兄の時のような予感にわくわくする。ちらりと視線を白猫王子に向けると、こちらは別のわくわくの出番。テラは日々の生活を満喫する天才だ。そこに待ち受けるは大森林に潜む強敵。弱いものはそもそも向かってこないのだから。
「前方変異種込み15体接近ー。倒すよー。あ、変異種の回収よろー」
森はかつてない事態に普段はテリトリーから動かないものまで刺激される。怒気というわかりやすい感情はあっという間に通りすぎた相手にではなく、小賢しく壁の内に潜むものたちに向けられた。
*サフラン・サフィーレ・リデル
私の家族は両親と10才上の兄2人。母方の祖父母も同居です。つまり父が婿養子な感じ。父の祖父母は遠方に住んでいるのでなかなか会えない。はずだった。私が生まれるまではそうでした。遠方との行き来には大樹の元にある転移門が最大のものですが、あれは大樹同士で門を設置した地点間のみです。でもルシネイラにはないので大陸間の移動となると、アラスティに一旦移動してからになります。そう他の大陸、父方の祖母は魔族なのです。祖母は私に会いたいがために、自宅に個人用の転移陣を置いたのでした。祖父?識別にはいれてもらえず毎回頭を下げて祖母につれて来てもらってますね。
祖母はことさらサフィをかわいがる。女の子がほしかったが恵まれたのは息子一人。孫を待ったが恵まれたのは息子似の双子。それに息子も孫達も祖父似だ。黒に近い茶の目とまっすぐの髪。愛しいだんな様だけど、私にも似て欲しいと切に願う祖母だった。彼女は輝く紅い髪と金の瞳の持ち主。そこに生まれたサフィは髪質こそ母似の巻き毛だがその色は念願の緋色。成長につれ色はやわらかくなったが巻き毛もまた魔族には珍しいので感激は爆発したという次第。
「サフィちゃん、このお菓子おいしいわよー」
「サフィちゃん、このお人形かわいいでしょう?」
「サフィちゃん、このお洋服にあってるわー」
生まれてすぐこんな感じだったため、サフランは自分をサフィだと思ってしまった。サフィーレは祖母が付けた名だ。ミドルネーム自体はよくあるがそこまでなら父母も微笑ましく見守っていた・・・12歳になった兄達もまたかわいい妹にかまいたかった。気を引きたくて、笑って欲しくて。覚えたての魔法はとても役に立つはず。だった
「ほら、サフィお花いっぱい飛んでるよー」
「ほら、サフィきらきらシャボン玉だよー」
お庭の芝生にちょこんと座ってきゃっきゃと喜ぶサフィ。「にーにー」とようやく兄達を呼んでくれるようになり、調子にのってしまった。火はだめよと母に言われそれも守った。だから誰のせいでもないのだろう。
「「ほら、サフィ、ピカーだよー」」
ドーーーーーーーーーン
近くの木に落ちたそれは後で聞くと街を守る結界を破壊し、間近でその衝撃と閃光を浴びたサフィはパタンと後ろへ倒れた。