其の1
三十路過ぎた事だし…
こんな話をしてもいいよね。デビュー以来、浮いた話なんて一つもなかったけど…
今の俺には自分の全てを投げ打ってでも守りたい女性がいるんだ。
できれば最後まで読んでほしい。
まず彼女との出会いから…。
半年前、ドラマの主題歌のオファーを頂いたんだ。
その打ち合わせをしに出向いた先で彼女に初めて会った。
女優をしている彼女の事は知ってるけど、ブラウン管越しじゃない本物に会うのは初めてで
えらく緊張したなぁ。
でさ、いろいろ話を進めてたんだけど
彼女は、ひとっことも喋らないのよ。
結局、二時間近く打ち合わせしたんだけど最後に演出の方が
彼女に
「何か ご希望とかありますか?」って振ってくれて その時初めて彼女が喋ってくれた。
「お二人が創って下さる曲が流れるドラマで、私は新しい私になれるんですね。よろしくお願いします。」
喋ったよぉ!!
生声 聞けたよぉ!
瞬間、打ち合わせの内容
ぜーんぶ飛んでしまった。
残ったのは彼女が言ったコトバ…。
なんか、引っ掛かった。
今まで そんな風に言われた事なかったし。
「出来上がるの楽しみにしてまーす。」とか
普通に
「よろしくお願いしまーす。」
とか、こんな感じがだいたいなんだけど…
彼女みたいに具体的に言われたの初めてで、俺の中で
「ん???」がてんこ盛りになった。