黒い神様の拾われ子
ぽつり、ぽつり雨が降る。
歳は25歳くらいだろう女性は、赤子を乗せた籠を片手に持ち、もう片方には傘を持っていた。
木々の生い茂る誰もいない公園の一番大きな木の前でピタリと足を止めて、そっと木の下に持っていた籠を置く。
籠の中で赤子はすやすやと眠り、夢でも見ているのか手足をもぞもぞと布団の中で動かしていた。
女性は一歩後ろに下がり目を伏せる。
――――――ぽつり、ぽつり。
雨の音だけが聞こえて静かに時が流れる。
何分そうしていただろうか、やがて女性は伏せていた目を上げ赤子をまっすぐ見つめる。
「ばいばい。」
それだけ言うと振り返ることなく赤子の前から去っていった。
その様子を見ていた長い黒髪が美しい男はのっそと赤子に近づき、身をかがめて赤子をじっと見るとぽつりと言葉を発した。
「捨てられた、か。」
男の静かな声が木霊する。
赤子はぱちりと目を開けた。
男は驚き、泣くか?と思ったが赤子は男の方を向きニコッと笑って見せた。
目を見開いた男はしばらく固まり、そして唐突に籠に手をかけた。
「――――――一緒に来るか?」
長い沈黙の後に静かに告げたその言葉にただの赤子が返事もできるわけなく、時間だけが過ぎてゆく。
やがて、男は何も言わずにそっと籠に手をかけ無言ののちに姿をくらましたのた。
公園はもとの流れを取り戻し、また季節に影響を受けながら今は雨を降らすばかりなのだった。
時は過ぎ、3年後…。
その少女は今日も意気込んでいた。
(よぉーし、今日こそ!)
3歳児には長すぎる廊下を慣れたようにパタパタと走っていく。
その様子を見た羽を持つメイドは転びそうで危なっかしいなと思いながら少女が通りすぎるのを見ていた。
白を基調とした神殿にも似た白い大理石の西洋の建物はよく手入れをされており、足元にも見事な赤いカーペットが敷かれている。
そのため、身軽な少女が全速力で走ったとしても足音一つしない。
同じような景色がびゅんびゅんと音を立てながら過ぎていくとやがて目的地としていた重々しい雰囲気を放つ扉の前に着いた。
少女は立ち止まり、大きく深呼吸すると勢いよく扉を開け、叫んだ。
「おはようござゃいましゅ!かみしゃま!!!」
まだ舌足らずな高い声が執務室に響く。
中には書類を片手に持ち、少女の声に眉を顰める黒髪の20ほどの男性がいた。
「…また、お前か。いい加減にしてくれ、仕事の邪魔をするな。」