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アストろじっく!聖徳太子篇  作者: 遠野紗雪
2/14

放課後になると、四人は図書館に集合した。

「さて、何から調べましょうか」

 はずんだ声の璃茉。

「まずは聖徳太子の概略について説明してくれないか」

「アナンは社会科選択、日本史じゃなかったっけ?」

「社会は日本史選択だけど、教科書に載ってる知識だけじゃ不十分だよ。聖徳太子は日本人にとっては有名なのだろうけれど、タイ人の僕からしたら、誰それ? って話だよ」

「そうなんだ……。じゃあ私から」

 曜子はコホンと咳払いをする。

「聖徳太子は五、六世紀に活躍した日本の政治家。推古天皇の皇太子で、摂政だったの。身分は皇族」

「えっ、聖徳太子って皇族だったのか」

「そうよ」

 曜子と璃茉が口を揃える。

「星桂知ってたか」

「当たり前だろう」

 星桂は呆れ顔だ。

「あと、摂政ってなんだ?」

「天皇を補佐する人、かしら」

「皇太子ってことは、聖徳太子は推古天皇の息子だったのか」

「聖徳太子は推古天皇の甥よ。聖徳太子は優れた人物だったらしくて、それで推古天皇は皇太子兼摂政という身分を与えて聖徳太子に自分の補佐をさせたの。推古天皇は女性だったから、拍付けのためにも聖徳太子の力が必要だったのよ」

「推古天皇って女性だったのか! てっきり男性だとばかり」

「アナン、アンタ本当に日本史選択なの?」

 璃茉は怪訝な顔をしている。

「あんまり真面目に授業聞いてなかったんだ、実は」

 アナンが頭に手をやって笑う。

「でもあれだな、そんな昔に女性の君主がいただなんて、日本は進んでいたんだなあ」

「なぜ推古天皇が天皇位についたのかは学者の中でも意見が分かれているんだけどね。群臣の勧めを受けて、って古記録には書いてあるらしいのだけれど、それも真実かはわからないわ。ただ、推古天皇は舒明天皇の皇女で敏達天皇の后だったから、朝廷において強力な発言権を有していたのには間違いがないらしいの。……このあたりのことは説明すると長くなるから、聖徳太子の事績について説明するわね」

「わかった」

「有名なのは十七条の憲法と冠位十二階の制度、それと仏教の興隆ね」

「十七条の憲法ってあれだろ? 『和を以て貴しと為し』!」

「正解。それが全てではないけど」

「意味は何よりも和を重んじよ、ってとこだろうな」

 星桂が口を挟む。

「他には?」

 アナンが聞く。

「篤く三宝を敬え、が確か第二条だったんじゃないか」

「三宝って?」

「仏と法と僧」

「へー、法が真ん中ってのが日本らしいね」

「確かにそうね。普通は法を一番に持ってくるか、一番下にするかだと思うわ」

 璃茉がそこで口を開いた。

「私は特に意味はないと思うけどなあ」

「あとは下の者は上の者に従え、とか、官吏は不正をするな、とか。そんな内容だったんじゃないか? 俺が気に入っているのは、第十七条かな。内容は『ものごとはひとりで判断してはいけない。かならずみんなで論議して判断しなさい。ささいなことは、かならずしもみんなで論議しなくてもよい。ただ重大な事がらを論議するときは、判断をあやまることもあるかもしれない。そのときみんなで検討すれば、道理にかなう結論が得られよう』ってやつ。当たり前のようだけど、これが案外重要なんだよな」

「まあ、ここで全部を紹介しても頭に入らないだろうから、アナンは自分で復習しておいて。なんなら本貸すから」

「曜子は優しいね」

 アナンが目を細めて曜子を見る。曜子はなんだか照れくさくなって、とっさに目をそらした。

「次は冠位十二階の制度ね」

「これはこれまで実質世襲制だった身分秩序を、能力主義へと転換させたものなの。能力によって位階が上がっていくっていう、ね」

「なぜ十二階なんだ」

「いい質問ね。この数字は徳・仁・礼・信・義・智の儒教の六つの徳目で分けられたものなの。紫・青・赤・黄・白・黒が濃淡二色ずつ充てられているわ。紫以外の色は陰陽五行説に基づいていて、ここに陰陽道を知る手掛かりがあると思うの」

「陰陽道を知る、手掛かり?」

「そう。私は陰陽道がどこからやって来たのか、そのルーツが知りたくて、この共同研究に参加することを決めたの。陰陽道の定義は星桂のいうもので間違いないけれど、私はもっと広義の意味での陰陽道について知りたいっていうか……。なんていうか、陰陽道を現代において生かすには、その成り立ちについて詳しく調べる必要があると思うのよ」

「へー」

「漠然としているけれど、つまりこういうことか? 陰陽道がどこから来て、どのようにして人々の暮らしに根づいていったのか。現代において陰陽道を生かす鍵は、そこにあるんじゃないかと、曜子は考えている、と」

「そう、そうなの」

 星桂の発言に曜子が顔を綻ばせる。

「曜子も曜子のお兄さんみたいなことを考えているんじゃないの」

「まあ、なんていうか兄さんの日頃の発言を聞いてたら私もそのことを考えるようになっちゃって。自分なりの考えをまとめたくなったの」

「曜子は家族想いなんだな」

 星桂がぽつりと言う。

「それに、陰陽道についての造詣も深い。曜子が璃茉の問いに答えられなかったのは、陰陽道について研究途中だからなんだな。俺は君のことを誤解していたみたいだ。悪かった。謝罪するよ」

「えっ、いいわよ。勉強不足なのは本当のことだし」

「そんなことないだろう。聖徳太子の時代に陰陽五行説が存在していたなんて、俺は知らなかった」

 星桂の率直な発言に、曜子照れて鼻を少し赤くした。

「ありがとう、気持ちだけ受け取っておく」

 そう言って口角をあげる。

「仏教の興隆については?」

 アナンが少し早口で曜子に聞く。

「仏教を広める詔の発布を推奨したし、寺院もたくさん建立したわ。仏教を教える学問所を設けてもいるし。そもそも十七条の憲法自体が仏教の教えに基づいているの」

「ごめん、ミコトノリってなに?」

「天皇の命を伝える文書のこと」

「聖徳太子の事績についてはだいたいわかったよ。そろそろ占星術的なアプローチといこうか。聖徳太子の誕生日っていつだい?」

 星桂が曜子とアナンの会話に割って入ってきた。

「敏達天皇三年の一月一日」

「元旦生まれ?」

「そう」

「それホントなのか? なんかリアリティがないなあ」

 アナンが呆れたような声を出す。

「でも記録にはそうあるよ。なんて書名だったかなあ。せっかく図書館に来てるんだし、調べましょうよ」

「それもそうね」

 四人は検索システムのある所に移動した。

「聖徳太子、と」

 アナンが検索システム搭載のパソコンにキーワードを入力する。すると途方もない数の書物名がヒットした。

「こんな数の書物、全部は調べきれないわ!」

「読み物系の本や小説が入ってこの量になっちゃったのね。原典に絞りましょう」

「はいはい、原典、と」

 アナンがパソコンの検索対象の項目を原典にすると、数字は一ケタになった。

「上宮聖徳法皇帝説に、聖徳太子伝略。他にもあるね」

「じゃあまず上宮聖徳法皇帝説から」

 パソコンで文章を閲覧する。めぼしい記事はなかった。

「次は聖徳太子伝略」

 四人がそろって閲覧し始める。

「『誕む』という字と『正月』という字がある文章、これじゃないか?」

「どれどれ?」

「漢文で読みにくいけど、確かにそれっぽいね。曜子、これ?」

「たぶんそうだと思う。漢文なら璃茉の方がわかるかな。訳せる?」

「そうね、ちょっと待ってて。今日本語に直すから」

 璃茉が画面に見入る。

「文章の内容は、こうよ。『三二年辛卯春正月甲子の夜に、妃は夢を見た。その夢には金色の麗しい僧が出てきた。僧はこう言った。私には久世の願があって、あなたの腹に宿ることにした。妃があなたは誰ですか、と尋ねると、私は救世菩薩であり、家は西方にあると言った。妃が私の腹は穢れています、どうして貴い人を宿せるでしょうか、というと、僧は私は穢れを厭わない、ただ望むらくは少し人間を感じていたいのだ、と言った。妃はともかくも命に従わねばと、敢えて何も言わなかった。僧は歓んで妃の口の中に入った。妃は驚いたが、口の中のものを飲みこんだ。妃はこのことを夫である皇子に話した。皇子は、君は必ず成人を生むだろう、といった。また、この妃の言葉によって皇子は初めて妃の妊娠を知った。妊娠八か月のときにはお腹の子供の声が聞こえるほどだった』、って」

 璃茉はそこで一呼吸置いた。

「文脈からすると、この話の続きは数行後ね。続きはこうよ。『元旦になって、妃は厩において皇子を生んだ。ここから皇太子のことを厩戸皇子というのである』厩戸皇子って書いてあるから、妃の生んだこの皇子が聖徳太子ってことで間違いないわね」

「なんとなくわかったけれど、整理したいから璃茉それ紙に書いてくれないか」

「いいわよ」

 璃茉が紙に文字を書いている間、アナンが曜子に話をふった。

「ねえ、このおとぎ話、信じるの?」

「おとぎ話じゃないわ、事実よ」

「事実というか、伝承だよな」

 星桂が口を挟む。

「星桂まで……!」

「別に否定しているわけではないよ。伝承には意味がある。それが語り継がれるに至った、経緯や背景なんかがね。ただ百パーセント鵜呑みにするのは危険かな、ってことさ」

「出来た」

 そこで璃茉が筆記用具を使う手を止め、振り返って三人に向き直った。

「私も聖徳太子の生年月日はこれでいいと思う」

「璃茉まで」

「なんていうかさ、聖徳太子って、実在の人物ではあるけれど、人々の理想が過分に含まれていて、存在からは遠いところにいると思うのね」

「だったらなんで」

 アナンの言を遮り、璃茉はこう続けた。

「だからこそ占う意味があると思うの。その結果によって、当時の人々のこうあってほしいという理想の姿が、どういうものなのかがわかるというか。現実の占いだってそうじゃない? こうありたい自分と、実際の自分の間には誰だって距離があるでしょう。まずこの生年月日で占ってみて、それをより現実的なレベルに修正していく方法をとるのはどう?」

「どうやって?」

「西洋占星術では、生まれた時間によって診断結果が変わるんでしょ?」

 璃茉が星桂に話しかける。

「そうだ。分単位で変わる」

「おおまかなのはアナンのタロットと私の数秘術で占って、微調整を星桂の西洋占星術で行う。曜子にはこの生年月日を今の暦に直してもらう」

「いいじゃないか」

 星桂は得心顔だ。

「僕のタロットで、どう占うっていうのさ」

「それは、そうね、うーん」

 璃茉が考え込む。すると曜子が口を出した。

「兄さんたちの研究では、タロットの担当者が出生時間タロットといってタロットカードで出生時間を調べる方法をとっていたわ。でもこの研究では出生時間を微調整に使うから、アナンには聖徳太子はどんな人物だったかを、カードで占ってもらいたい。そういう質問、受けることあるでしょ?」

「あるよ。顔も見たことのない相手、なんてこともざらさ」

「じゃあそれで」

「他の占術とも組み合わせるなら、シンプルな方がいいよな。スリーカードかな」

 アナンが一人でぶつぶつ言い始める。

「研究のやり方が決められたんじゃないか」

「これで計画が一応立てられたわね」

 曜子が星桂に向かって満足げに頷いた。

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