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アストろじっく!聖徳太子篇  作者: 遠野紗雪
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数か月後、共同研究の発表会が開かれた。発表会には大学の名誉教授も招かれており、先生たちも緊張しているようだった。曜子たちはグループ発表ということで順番は最後だ。発表者の曜子が朗々と、よどみなく研究成果を発表する。

「私たちは、占いを用いて聖徳太子という歴史上の人物について考察しました。タロット・数秘術・西洋占星術の観点から聖徳太子の人物像に迫りました。お手元の資料をご覧ください」

 そう言って曜子は事前に配布していた資料に目を落とす。そして資料を見ながら出たタロットカードについて説明をし始めた。

「……中でも注目すべきは、グランホース・シュースプレッドの最後の束。遠い未来を意味するこの束で出た教皇・コインの十・ソードの三の逆位置というカードです。教皇は聖徳太子そのものの姿を現しているように感じられます。教皇には神の代理人、という意味がありますから。また、コインの十には『莫大な遺産』といった意味があります。莫大な遺産。それは個人的なものにとどまらなかったのではないでしょうか。国家の遺産、あるいは業績、と読み取ることも可能なように思えます」

 そこで曜子が一呼吸を置く。

「詳しくはお手元の資料をご覧ください。次に数秘術における検証結果に移ります。数秘術では、聖徳太子は七の人だという結果が出ました。この数字の人を一言でいうならば、『探究者』でしょう。深い探求心を持って真実を追求する人、常人とは少し違うと思われていた『聖人』聖徳太子のイメージと結びつくものです。次に西洋占星術における検証結果に移ります」

 曜子が配布資料をめくる。皆がそれにならう。教室内の人全員が発表に聞き入っているようだった。

「聖徳太子のホロスコープを出したところ、水瓶座に惑星が集中していました。博愛精神の塊であり、冒険心・探求心に富んだ人物。先の数秘術での占い結果とも矛盾しません。私たちは、惑星のマジョリティー惑星の集合体のことですがーに注目し、それがどのハウスに入るかで聖徳太子の出生時間を算出することにしました。聖徳太子は五時二十分ごろ、早朝に生まれたのではないかと、私たちは考えました。また、アスペクトにも注目しました。聖徳太子のホロスコープでは、太陽と月が重なっていました。意志と感情の方向性が同じだったことから、迷いの少ない人であったように思われます。性格的な偏りはもちろんあったでしょうが」

 曜子の話し方は本当に流暢で、発表の練習を丹念にやったことがよくわかるものだった。それが璃茉とアナンには痛々しくも感じられた。研究結果をまとめるとなると、どうしても星桂のことが思い出されるだろうに、と。

「……総括します。聖徳太子は探求心が旺盛で、視野の広い人でした。博愛精神に満ち溢れ、人と人とのつながりを大事にする人でした。物事を、広い視点で多角的に捉えるところもありました。そのようすが常人よりもずっと先を見ているように周囲の人からはみられ、それが『聖人』聖徳太子を形作り、今日における超人的な太子像につながったのだと思います」

 曜子が落としていた視線を上げ、前を向く。璃茉とアナンに目配せをする。二人は軽く頷く。

「以上で発表を終わります」

 三人がそろって礼をする。一瞬間があってから、拍手があった。

担任の教師がコホン、と軽く咳払いをする。

「質疑応答の時間だが、その前に私から一言」

 担任教師はやや早口で言う。

「私にはこの研究は評価できない。近代ならまだしも、古代の、それも伝説に近い人物を占う。それ自体、研究としてなっていない。タロットカードでのリーディングには粗が目立つし、数秘術を用いた考察は読み方が浅い。西洋占星術はまだよい方だが、レクテイファイ(人生上の出来事やタイミングから出生時間を調べる方法)が勘案されていない。それに、資料に載っているこの小説もどきは何だ? 研究とは全く関係ないじゃないか」

「それは……、あった方がわかりやすいと思って……」

 璃茉がたどたどしい声で返答する。

「こんなものは必要ない」

 担任教師は一刀両断した。

「李星桂が帰国して発表の場にいないことには同情するが……」

 担任教師のぼやきを聞いたとき、曜子の表情が変わった。

「星桂……」

 璃茉が曜子の肩に手を置く。アナンがその様子を心配そうに見つめる。

 堪えているものがあふれ出てきてしまったのか、曜子はしくしくと泣き始めた。

 教室中が静まる。曜子の嗚咽だけが辺りに響く。

「私から、一言いいかな?」

 そこで一人の初老の人物が、小さく手を上げた。

「徳田名誉教授!」

 担任教師が驚いた声を上げる。

「高校生にレクテイファイまで求めるのは酷というものだろう。それに、私はこの研究を面白いと思ったよ。確かに論証に雑なところはある。だが、良いところもたくさんあった。まず、着眼点が斬新だった。多彩な占術で、また多角的な視野を持って一人の人物について考察するというのも面白いと思った。君たちのそうした探求心・柔軟なものの考え方はそのままに、ぜひ今後も占いに携わっていってもらいたい。アストロジカル・アカデミーで、私は待っているよ。それに君。発表者の、宮川君と言ったかな?」

 そこで徳田名誉教授は曜子を見た。曜子が顔を上げる。

「何があったかは知らないけれど、発表の場で泣くのはよくないな。君の発表はとても素晴らしかっただけに、とても残念だ」

「すみません」

 曜子がか細い声を出して謝る。

「まあ、高校生なら仕方ないか。大学ではこういうことのないように。わかったね?」

 徳田名誉教授はそこでにっこりと笑いかけた。

「は、はい」

 曜子がさっきよりも大きな声で返事をする。

「私からは以上だ。最後の発表が終わったことだし、これで失礼するよ」

「わかりました」

 担任教師が頭を下げた。

 徳田名誉教授が教室から出て行ったあとで、担任教師はこう言った。

「なんとか及第点ということにはしておく。だが大学ではこうはいかないからな」

 三人がそろって返事をする。


 発表が終わり、三人は一緒に学校を出た。

「来月からは大学生か」

 アナンが呟く。

「楽しみね」

 曜子が笑って言う。泣きはらした顔で。

「大学にも進学できそうで、本当によかったわ」

 璃茉が曜子の方を見る。

「うん」

 すると突然、アナンが少し緊張した面持ちでこう言った。

「曜子、璃茉」

「なに?」

 二人はそろってアナンの方を向く。

「共同研究に協力してくれて、ありがとう」

「なによ改まっちゃって」

 璃茉が茶化すような声音でいう。

「いや、ほんとうに共同研究が出来てよかったなって思ってさ」

「そうね私も楽しかった。二人ともありがとう」

 曜子がそういうと璃茉も重ねて

「私の方こそありがとう」

 と笑った。

「星桂も、同じ想いだったと思うよ」

 アナンが曜子の方を向いて言う。

「それはわかってる。星桂自身がそう言ってたから」

「そうなんだ」

「どうしてるんだろうね、星桂」

「元気にやっていると思うわ。というか、そう信じるしかないよ」

「そうね」

「じゃあ僕こっちの方角だから」

 アナンが右の方向に行こうとする。

「うん、じゃあまた明日」

 曜子と璃茉は右の方に視線をやる。

「またこのメンバーで共同研究がやりたいな。願わくば、星桂も一緒に」

「そうだね」

 そうは言ったものの、それがかなわないことは三人全員がわかっていた。

「じゃあさよなら」

 アナンは軽く片手を上げると、すぐに早足で歩き去っていく。

 曜子と璃茉は談笑しながら帰っていった。


   参考文献

〈占い関連〉

正統占星術入門 一九九五 秋月さやか 学習研究社 

石井ゆかりの星占い教室のノート 二〇一三 石井ゆかり 実業之日本社

数秘術完全マスターガイド 和泉龍一・斎木サヤカ 二〇〇九 駒草出版

心理占星学入門 二〇〇八 岡本翔子 アスペクト

ソウルフルタロット 二〇〇五 鏡リュウジ 説話社

鏡リュウジの占い大辞典 二〇一三 鏡リュウジ 説話社 

鏡リュウジのタロット占い 二〇一五 鏡リュウジ 説話社

鏡リュウジ星のワークブック 二〇〇六 鏡リュウジ 講談社

陰陽師たちの日本史 二〇一四 斎藤英喜 KADOKAWA

占術―命・卜・相― 一九九五 高平鳴海(監修) 新紀元社

現代・陰陽師入門 二〇〇〇 高橋圭也 朝日ソノラマ

もっと深く知りたい!12星座占い 二〇一六 月星キレイ・芳垣宗久 説話社

占星学教本 一九八六 流智明 JICC

完全マスター西洋占星術 二〇〇四 松村潔 説話社

最新占星術入門 二〇〇三 松村潔 学研マーケティング

日本陰陽道史話 二〇〇一 村山修一 平凡社

占星学 一九九五 ルル・ラブア 実業之日本社


 〈歴史関連〉

聖徳太子―実像と伝説の間― 二〇一六 石井公成 春秋社

日本の歴史第〇三巻―大王から天皇へー 二〇〇一 熊谷公男 講談社

人物叢書聖徳太子 一九七九 坂本太郎 吉川弘文館

日本史を学ぶための〈古代の暦〉入門 二〇一四 細井浩志 吉川弘文館

上宮聖徳法皇帝説 二〇一三 東野治之 岩波書店

和国の教主聖徳太子 二〇〇四 本郷真紹(編) 吉川弘文館

推古朝と聖徳太子 二〇〇五 森田悌 岩田書院

聖徳太子 二〇〇二 吉村武彦  岩波書店

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