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アストろじっく!聖徳太子篇  作者: 遠野紗雪
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二週間後。

曜子が居間で共同研究のまとめを行っていると、テレビからニュースが流れてきた。

「軍人と反軍人派の武力衝突が起こりました。現場は混乱しています」

 レポーターの発言を受けて、スタジオにいた専門家がこう述べる。

「北朝鮮自治区は以前から中国からの独立を試みていました。しかし、本来同じ目的を持っているはずの彼らが武力衝突したとなると、独立は遠のくかもしれません」

 それを聞いた曜子は、胸騒ぎを覚えた。真っ先に浮かんだのは星桂のことだった。故郷がこんな状態で、不安になっているんじゃないだろうか。思い詰めた曜子は、星桂に電話をした。

 電話に出た星桂は、思いのほか冷静だった。声も明るかったし、冗談を言う余裕もあった。だが最後の方になって、

「話があるから、明日の土曜日にでも会えないかな。学校の外がいい。駅の近くの土手に来てくれないか」

 と言い出した。

「うん、わかった」

 曜子は電話口で頷いた。


 次の日、曜子は土手にいた。星桂が遅れてやってくる。

「待った?」

「ううん、今来たところ」

「寒いな」

「うん……」

「とりあえず座ろうか」

 星桂はベンチに座った。曜子がそれにならう。

二人のあいだを沈黙がゆきかった。先に口を開いたのは、星桂の方である。

「俺、北朝鮮自治区に帰国するよ」

 星桂は目を逸らしながら、だがよどむことなく一気にそう言った。

「星桂……」

 曜子はショックを受けた。気持ちが暗く、沈み込むようだった。そんな曜子の思いを知ってか知らずか、星桂は言葉を連ねる。

「この一、二か月すごく楽しかった。皆で意見を出し合って、考証を重ねて。今までいつも一人だったからわからなかったけれど、友達ってこういうものなのかな、だとしたらいいものだなって、そう思った」

「だったらどうして……」

 曜子はなんとかそれだけを口にする。消え入るような声で。

「今北朝鮮自治区は大変なんだ。ここが正念場、という気もする」

「なにも星桂が行くことはないじゃない」

「北朝鮮の高官の末裔として、俺は赴かなければならない。祖父の遺志を継ぐためにも」

「でも……」

「もう決めたことなんだ」

 そこでようやく星桂は曜子の目を見た。決意に満ちた、まっすぐな視線。曜子はたじろいだ。

「曜子、今までありがとう」

 星桂が笑いかける。ギクシャクとはしていたけれど、笑顔には違いなかった。

「星桂、私……」

 曜子はとっさに言いかけるが、言葉は口をついてこない。何もかもが、突然すぎるのだ。

 星桂は曜子の言葉を待たずに、立ち上がった。

「途中で抜けることになって申し訳ないけれど、後はまとめるだけだから共同研究は何とかなるよな」

「もう行くの?」

「うん」

 曜子は星桂の表情を見た。何かをこらえているような、我慢しているような、そんな表情だった。

 曜子の視線に気づいたのか、星桂は顔を横にそむけた。

「じゃあ、な」

 その場を立ち去っていく。

 曜子は何も言うことが出来なかった。

 何を言っても無駄だと、そう感じたからかもしれない。

星桂の後ろ姿を、曜子はじっと見つめていた。星桂は、一度も振り返らなかった。


 月曜日になって、担任の教師が

「李星桂は、昨日急遽帰国した」

 とだけ伝えた。クラスの学生の視線が曜子に集まったが、曜子は普段通りの表情をして、まっすぐ前を向いていた。

 休憩時間になって、璃茉が曜子の席にやって来た。

「曜子、大丈夫?」

 気遣うような視線で璃茉が曜子を見る。

「大丈夫!」

 明るい声で曜子が答える。

「曜子は、何か聞いていたの?」

「うん、星桂とはおととい土手で会った」

「おとといって、そんな急に!?」

 璃茉は怒ったような表情である。

「仕方ないよ。星桂にも事情があるんでしょ」

「曜子……」

「それより、共同研究を仕上げないと。大学入学がかかっているんだし、ね」

 曜子の声は明るかったが、少しふるえていた。曜子が気丈に振る舞っていることに気づいた璃茉は、何も言えなかった。

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