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曜子と星桂の二人は歩いているあいだずっと無言だった。が、先に曜子が口を開いた。
「ねえ、星桂」
「なんだ?」
「星桂のことを、もっと教えてくれない?」
「俺のことを?」
星桂はそこで立ち止まった。横にいる曜子と目を合わせる。
「やっぱりいい」
曜子は少し恥ずかしくなったようで、そう言うと星桂の方を見ずにまた歩き出した。
「いや、話すよ」
星桂が慌てて同じ方向に歩きだす。
「どんなことを知りたい?」
「そうね、家族のこととか」
「家族は三人。母と妹がいる。父親は俺が五歳の頃に亡くなった。祖父もいたんだけど、去年他界して。母と妹を故郷に残して留学するのは心配だったんだが、祖父が『俺がいるから安心してお前は行け』って背中を押してくれたんだ」
「いいお祖父さんね」
「ああ、自慢の祖父だった。厳しいところもあるけれど優しくて、おおらかで。祖父は北朝鮮の元高官で、北朝鮮が破綻する前に亡命したんだが、そのことをいつも悔いていた」
「そう……」
「祖父はいつも言っていたよ。自分は高官として、あの国を是正するべきだったのかもしれない。破綻したのならば、建て直すべきだったのかもしれない、って」
曜子は横目で星桂の方を見た。星桂は遠い目をしていた。
「こんな話はよそう」
そう言って星桂は首を横に振った。
「曜子の話を聞かせてくれないか」
「私の話?」
「そう。それこそ家族の話とか」
「私は四人家族。父と母と兄。父親は宮司で、母は専業主婦。兄さんは大学院生。どこにでもあるような、平凡な家庭よ」
曜子がつまらなそうな顔をして言う。
「平凡か。その『平凡』が俺には羨ましいよ」
そう言って星桂は笑った。皮肉や屈折が込められているでもない、快活な笑い方だった。
それを見て曜子の胸は高鳴った。頬が紅潮しているのがわかって、顔を前に向けた。星桂はそんな曜子に気づいているのかいないのか、何もしゃべらなかった。ただ、口角が少し上がってはいた。
その日から二人は一緒に帰るようになった。三日目で、距離が少し近くなった。一週間目で、手をつなぐようにもなった。二人はいろいろな話をした。兄弟のこと、占いのこと、それぞれの国のこと。初めはたどたどしかった星桂も、だんだんと流暢に自分のことを話すようになっていた。曜子には星桂の変化がうれしかった。
二週間ほどたった頃に、星桂は三人をコンピューター室に呼んだ。
「小説書いてきたから」
その表情は共同研究を始めた最初のころと違って、随分と柔らかい。璃茉もアナンも、星桂のそんな変化がうれしい。もちろん口には出さなかったが。
「どれどれ」
三人が星桂の持ってきた紙に手を伸ばす。それにはこう書いてあった。




