第5話
これも閑話のようなものです。
眠気に襲われながら書いたので所々おかしいとは思いますが、気にしないで下さい。
気が向いたら、書き直すかもしれません。
ストロングフォートでは謎の閃光に、城を攻めていた敵軍は警戒して攻略を一時中止していた。
思わぬところで助かったが、人間というのは一旦は決まった覚悟に水を差されたら、再び同じ覚悟を決めるのには前回以上に勢いが必要だった。助からないからこそ決まった覚悟だったのに、敵が一時的でも引いたため、助かる希望が覚悟を決める邪魔をした。
ストロングフォート首脳陣も同様で、城を枕に討ち死に、と決まっていたが、少数精鋭で敵包囲網を突破すべし、という意見が再び噴出していた。
「モスフォード侯爵がここから西にあるラヴィンフォートに侯爵家だけで2万の軍勢を率いて防衛線を構築しています。閣下と我ら首脳陣が精鋭を率いてモスフォード候と合流して援軍を要請するのが上策だと愚考いたします」
先ほどまでは退路からも敵が押し寄せており逃げ道が無かったから、この場にいる誰もが如何に勇敢に戦い名誉を守るか、どうやって敵に犠牲を強いるか、を熱心に議論していた。
されでも、今では如何に逃げるか、彼らの言い方では援軍を要請しにいくだが、が議題の中心となっていた。
「ルドルフ候を連れて尻尾を巻いて逃げるつもりか、貴様らは」
城を枕に討ち死にを主張するのは極少数となってしまっていた。
「我らを愚弄するつもりか。モスフォード候と集結しているはずの連合軍を引き連れ戻ってくるといっておるであろうが。モスフォード候を説得し、援軍を率いるには同格であられるルドルフ候をおいて他にはおられないのは明白であろう」
「貴様らがルドルフ候と共に援軍を要請できたとしても、ここからラヴィンフォートまで早馬でも一日二日では着かんぞ」
逃げることにどう反対しても、直ぐに別のものから反論される。
「それこそ貴君らが団結してストロングフォートを守り時間を稼げばよかろう」
「そうだ。こういうときのために貴君ら武官がいるのであるぞ。ルドルフ候がおらずとも見事守り抜いてこそが貴君らの職務である」
逃げ出せる機会を得た以上は逃げ出したいものとどう議論しても無意味であった。
このため、先ほどから黙ったまま、難しい顔をしているルドルフに直接伝える。
「閣下、主無き城が保てるとお思いですか。モスフォード候のもとに逃げ延びたとしても閣下の御威光を保てるとお思いですか。モスフォード候が領地を見捨てた閣下を侯爵としていつまで遇して下さるとお思いですか。閣下が侯爵としての威厳を保ち、侯爵家を存続させるにはストロングフォートを敵の血で染め上げるしかございません。閣下の奮戦振りと壮絶な最後を耳にすれば、陛下は無論のこと諸国も閣下のご子息を英雄の一族として遇してくださいます」
「閣下、惑わされてはなりません。ストロングフォートが敵の手に落ち、我等が死した後、誰が我らの戦いぶりを、死に様を伝えるのですか。これは単なる自己満足でしかありません。真の傑物とは例え破れ恥辱にまみれようが命を繋ぎ、恥辱を晴らす者のことです。命を惜しまぬことは猪武者でも出来ること、されど誇りを知る者が恥辱にまみれても命を繋ぐことは猪武者には出来ません」
正反対の意見を聞かされ続け、どちらにも惹かれていたルドルフは後々まで語られる愚行をすることとなった。
「皆の者、よく分かった。されど、この場での決定はせず、一人になってよく考えてから皆に伝える。皆は脱出する場合と死守する場合の両方に備えておくように」
この決断には誰もが異議を唱えたが、ルドルフはさっさと奥に戻ってしまった。
止む無く、命令通り死守と撤退の両方を兵に命ずることとなった。
至高教でも同様の議論が行われていたが、マダカスは撤退を早々に決めてしまった
トップのマダカスが決断したことと、狂信者からマダカス以上に信頼されているハイドロも脱出を支持したために意見の統一は早かった。
最低限の食料と水、地図、武器などの旅道具だけを纏め、着の身着のままの脱出になるが、時間のほうが惜しかった。
相反する命令を受け混乱する侯爵軍からも軍馬や軍需物資を奪うことまでしたのだった。
「神殿騎士団は馬上槍を掲げ突撃して血路を開け、教会騎兵と至高信仰団は側面を守れ、教会歩兵は後方を守りながら血路を抜けろ、その後は至高信仰団は捨て駒となって時間を稼げ」
マダカスの命令でマダカスとハイドロをなどの神官を中央に、前方には重武装の騎士である神殿騎士団が長大な馬上槍と鎧で馬まで覆った精鋭部隊を置いた。側面は神殿の警備を名目にした教会の私兵である協会騎兵がおかれ、武装や錬度、信仰心では騎士団には劣っていても、数では勝る教会の機動戦力の主力であった。同じく側面を守る至高信仰団は汚れ仕事を担ってきた狂信者たちをこの支部が独自に編成した部隊であった。装備はバラバラであったが、マダカスとハイドロの命令ならどんな命令でも喜んで聞く命知らずの集まりであった。後方には教会歩兵が控えている。教会騎兵とあわせて教会兵といわれ、チンピラに多少の信仰心と毛が生えたようなものであった。
作戦は単純明快であった。
敵が最も警戒してそうで、油断していて、なおかつ、集団行動が取り易い正面から都市の脱出する計画であった。
犠牲は織り込み済みで、騎士団や教会兵、至高信仰団だけでなく神官たちが殲滅されても、マダカスやハイドロといった高位神官さえ脱出して、ラヴィンフォートまでたどり着くための計画であった。
ストロングフォートや領軍、住民たちも見捨るどころか、時間稼ぎの駒にまでした計画であった。
正面の大門を警備していた領軍を早々に蹴散らし、教会勢力は正面から堂々と出陣した。
近くで見たらバラバラの雑兵の集まりでしかなかったが、大急ぎで教会とストロングフォート大聖堂を示す紋章の入った大旗を後ろにいる教会兵に持たせ、先頭を進む神殿騎士団も日の光に輝く鎧に、金糸や銀糸を使ったマント、手に持った馬上槍には穂先に旗を括り付け、天に向けたままであった。
まるでパレードのような軍勢に、都市を囲む敵軍も警戒して手を出せなかった。
軍勢が敵軍の中央部隊の目の前を通り過ぎたころには、敵の総大将もこれが都市からの脱出だということに気付いて、迎撃を命じた。
敵軍に動きだしたのを確認したマダカスは手を大きく振り上げ、叫びつつ振り下ろした。
「突撃!」
たった一言だったが、敵軍に取り囲まれつつパレードのような行軍に緊張しきっていた兵士たちには朗報であった。
既に最も厚い守りを誇る敵軍中央部隊を無傷で抜けてしまっている。
目の前にいる敵後方部隊さえ抜ければ、西に走り抜けるだけであった。
後方部隊とはいえ数や装備、錬度でも敵部隊は教会勢を大きく上回っているから油断は出来ず、決死の覚悟で血路を切り開かなければならなかった。
敵軍を装備と錬度で唯一上回っている騎士団による騎士突撃が開幕であった。
先頭の敵兵を馬上槍で突き刺し、その勢いで二列目も突き刺すが、その反動で馬上槍を保持しきれず手放し、三列目からは馬にまで鎧を着けた大質量による突進で突き飛ばし、腰から剣を抜いて突撃を続ける。空いた穴には教会騎兵と至高信仰団が突っ込んで穴を塞がない。後ろから続く歩兵が敵の対応を鈍くさせていた。
もともと勝ち戦で気が緩んでいたこともあり、全滅も辞さない不退転の覚悟で挑んだ突撃に突破を許してしまった。
敵陣を貫通した脱出路を高位神官がいち早く馬を駆けさせて脱出し、その後を至高信仰団が続いていく。
教会騎兵や歩兵どころか、大きな犠牲を払って敵陣を突破した騎士団まで放置された。
当初、マダカスの説明した計画では、至高信仰団が後ろに残り、騎兵と歩兵が通り抜け、騎士団が重たい鎧を捨てて身軽になる時間を稼ぐはずだった。
しかし、マダカス、ハイドロを含めた高位神官と至高信仰団だけが知る本当の計画があった。
騎士団が血路を開いて、生き残った騎士団と教会兵を囮にして、高位神官と至高信仰団だけがその時間に十分な距離を稼ぐというのが本当の計画であった。
ストロングフォートの高位神官にとっては自分たち以外は替わりがある駒でしかなかった。
騎士団は上位階級に生まれ、才能に恵まれ、長年の研鑽を積んだ精鋭だったから惜しかったが、時間と金はかかっても騎士団ですら補充できないことも無かった。
特に重要なのは騎士団と教会兵は至高教の正規軍であって、ストロングフォート大聖堂、つまりはマダカスの兵士ではなかった。
至高信仰団も補充は出来るが、それはストロングフォート大聖堂が健在で、マダカスがその責任者だったらの話である。
ストロングフォートが陥落した現状では至高信仰団の補充は困難であった。
マダカスや他の高位神官も、どう言い繕っても、都市を捨てて逃げた連中である。
ルドルフ候同様、ラヴィンフォートに逃げても今度はラヴィンフォートの神官たちとの政争が待っている。
そのとき、役に立つのが教会の正規軍ではなく、マダカスが個人的に動かせ、汚れ仕事が得意な私兵である至高信仰団である。
高位神官と至高信仰団は後ろから聞こえる怨嗟の声を無視して真っ直ぐ西に駆け、ラヴィンフォートを目指す。
これで第一章は終わりです。
次章からは時間の進みが速くなると思います。
第二章は日本と異世界の接触となると思います。
資源問題も本格化する予定です。
マダカスとハイドロは今後も登場する予定です。
これからもちょっとしたことをやらかす予定となっています。