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第3話

 この話の後半は刑事ものに憧れを感じたので無計画に書いています。

 何も考えずに書いているので、僅か一行で唐突に解決して終わっている可能性もあります。

 至高教は赤坂迎賓館で行われた会談で日本での布教の自由を確認し、布教活動と外交の拠点となる聖堂と大使館を兼任した建物の提供を確約されたことで目標を達していた。

 残りの期間は外交特権の具体的な範囲について詰める事務作業となり、目標を達成したため、マランギ王国やケンベルク帝国とは共闘せずに、会談中常に一歩引いた立ち位置となっていた。

 日本国内の至高教はマダカスが代表者となり、ケンベルク帝国に総本部を置く現至高教とは独立した別の宗教法人として、積極的な(・・・・)救済活動(・・・・)布教活動(・・・・)を行っていた。

 今では至高教は多くの信徒を獲得して、先の総選挙では下手な新興宗教よりも多くの票を動かし、新たな大票田の誕生を政界に印象付けた。


「司祭様、頼まれていました事務所の機材のセットアップが終わりました」

 ここ数日、PCや電話、FAX、印刷機といった機械類や書類棚やオフィスデスクやチェアといった新品の(・・・)オフィス用品を運び込んで、電気や通信配線もやり直していた作業員たちが簡素な黒い宗教服、見るものが見たら一目で生地も裁縫も高級品だと分かる逸品だが、に身を包んだ老人に向かって作業完了の挨拶をしていた。

 転移以後、輸入製品は途絶えてしまい、輸入していた原料が手に入らず国内の製造業も平時の生産力を失っている状況下で新品の製品は特別な価値がある。

 例えば、PCにしてもOSメーカが消えてアップデートなどのサポートも提供されず、ハードウェアの一例をあげるならパソコン用CPUメーカーのIntelやAMDは米国企業だ。本社は米国でも製造国は米国でないといっても、製造国は日本でもないから、輸入が途絶えて手に入らなくなっていた。

 政府主導の国内半導体産業の再編、x86互換やARM、RISC-Vなどをベースにした国産CPUの開発、半導体製造技術の獲得と工場の建設、Linuxベースの新OSや国産OSの開発といった政策を経産省主体でやっていたが、形になるにはまだまだ時間がかかった。

 国産OSや国産CPUに夢を抱いていたり、アメリカに潰されたと恨みが募っている人たちが党派や主義主張の壁を越えて一致団結して純国産コンピュータを経産省の計画に強引にねじ込んで、余計に混乱させていたのも時間がかかっていた原因の一つだった。

 それにも関わらず、転移時点での最新モデルの新品が配線やセットアップ、アフターサポートを含めて寄進された。

 この場にいる作業員はもちろんのこと、彼らの雇い主である経営者や役員、家族経営だから役員も経営者の親族だけでなく、従業員は非正規雇用も全員が至高教の信者だ。

 転移以降、日本全体が不況に喘いでいる状況下に寄進をして、それを社員が誰も咎めず、それどころかここにいる作業員のように更なる貢献を求めるほど、至高教は彼らの心を掴んでいた。


「ありがとうございます。あなた方の献身は神の身元にも届いております。これから聖堂で説教をしますから、皆も聞いていきなさい。最近は説教を録音して(・・・・・・・)それを文字に(・・・・・・)書き起こす(・・・・・)ほど熱心な方々(・・・・・・・)もおられるので私も説教に力が入ってしまいます」

 至高教の教義や経典(・・・・・)布教活動(・・・・)の熱心さ(・・・・)には国家機関からも注目を集めていた。

 公安や内調も至高教の内情調査に注力しており、外務省や防衛省とも連携して国内外の至高教組織の実態調査を行っていた。

 しかし、公安や内調の動きを尻目に至高教の勢いはすさまじい勢いで拡大を続け、今も公安が行っていた盗聴もばれるほど治安当局の中にまで食い込んでいた。


 転移以後、日本の医療制度は試練の連続だった。途絶える輸入に生産力の減退、経済危機と患者に満足な治療を提供することが困難な状況となっていた。さらに医師の多くが経済的困窮を前に高い志だけでは医療に専念することも難しい状況に追い込まれていた。

 そんな中、至高教は魔術、彼らの言い分では法術だが、という未知の技術を日本の医療現場に持ち込み、魔術を利用した現代医療の常識ではありえない高度医療や魔術的なものを利用した医薬品も入手困難になった医療品の代替品として十分な効果を発揮した。

 困っているときはお互い様だと言って至高教はこれらを格安、または、無料で信者以外にも幅広く提供していき、それらを積極的に宣伝していった。

 厚労省の認可を受けていない無認可医療だが、医療という目に見える明確な見返りがある宗教として急速な拡大を遂げた。

 彼らが並べた教義は現在の不遇を異種族が原因だと明言して、不当に奪われた自らの財を奪い返し、二度と不当に奪ったりしないように自分たちが上に立って異種族を管理するべきだと説いていた。

 国民の宗教への警戒心を引き下げるために、『魔術』ではなく『法術』と翻訳させたりと細かいところまで拘り、もとの技術水準が低かったからかSNSなどの新しいツールに特別な抵抗感は無く、若者向けの情報発信手段として積極的に活用するなど広報活動にも余念がないなど、治安当局からは強い懸念を寄せられていた。

 蜜に集る蜂のようにこの教義に惹きつけられる人もいたが、多くの人は平時ならばカルト宗教だと一蹴にして、関わり合いを避けようとしたことだろう。

 しかし、大切な誰かを救われたなら、どれだけ怪しい教義を並べていようが、入信しないにしても非難はしづらい。

 また、転移以降続く混乱状態、メディアやSNSを通してそういった混乱する様子が毎日のように流れてきたことから精神の安定や冷静な思考力を失った国民も少なくなかった。




 警視庁本庁舎に宮越義明警部が組織犯罪対策部長に呼ばれ、外務省から回されてきた殺人事件の現場写真を見せられ、所感を求められていた。

「銃を使った殺人、小口径の拳銃を使った可能性が大。害者の格好からして異世界人、それも高い地位の人物、人種はアングロサクソン系に似ておりマランギ人以外。服装の特徴からして寒冷地仕様、身に着けているアクセサリーは至高教を示しているが、伝統的な様式ではなく新様式。ケンベルク帝国の貴族、下級貴族ではなくそれなり以上の地位にある」

「その辺で十分だ。勉強熱心で大変結構。話題のマランギや至高教だけでなく、ケンベルク帝国の国内情勢や文化まで網羅していると」

 組織犯罪対策部長は手を挙げて宮越の発言を遮る。

「これは外務省を通じて警察庁に要請された案件なのだが、銃器犯罪ということでケンベルク帝国政府から本庁に捜査協力の要請があった。これに応えて鑑識と捜査員として捜査一課と公安、うちからも人を出すこととなった」

 銃犯罪の経験が無いから経験のある日本から鑑識や捜査員の応援を送るのは分かるが、組織犯罪対策部からもというのが疑問に思った宮越だが、この疑問はすぐに解消されることになった。

「道警との至高教による銃器密輸の合同捜査を覚えているだろう。状況証拠は揃っていたが、物的証拠には欠けて、至高教との関係を証明できなかった一件だ。この事件もそれに関わっていると見ている。この害者は皇帝の懐刀とされるバスティアン伯爵、強烈な至高教保守派嫌いで有名だった。保守派のマダカス司祭とは政敵の間柄だったらしく、彼が総本部から都落ちしたのもこの人物の差し金らしい。親日派貴族ということではなく、態度を曖昧にしている中立派だったが、この点では日本とも共闘できるとして現地の大使館と密かにやり取りを重ねていた。銃器密輸の一件でも共闘関係にあった。伯爵と連絡を取り合って、伯爵がケンベルク内での独自捜査を行って、情報を交換し合うと決めた矢先にこの事件だ」

「そんな人物が後ろから銃でズドンと。今時、ヤクザでもこんな分かりやすい真似をしますか」

「向こうは中世だ。敵対者は殺すと分かりやすいメッセージのほうが好まれるのだろう。公衆の面前で頭を切り落とさないだけ控えめなやり方なのかもな」

 自分たちに敵対していた敵対者を自分たちしか持っていないだろう武器、それも敵対者が調べていた武器を使って殺す。状況証拠だけなら十分だが、日本では状況証拠だけでは足りない。ケンベルク帝国も国内に総本部があり、全国民の生活に根付いている一大組織を相手にするには状況証拠以上のものが必要だった。

「うちと公安は殺人事件の捜査にはもちろん協力するが、最優先するのは日本と異世界を繋ぐ密輸ネットワークの摘発だ。外務省や防衛省もこの一件に全面協力を約束してくれている。自衛隊の輸送機を手配していつでも現地に飛んでいけるし、現地での案内と通訳も用意してある」

 宮越は部長の明かした任務内容よりも今回の協力団体のほうに気を取られている。

「やけに大盤振る舞いですね」

 部長は指で上を指しながら

「官邸からの強いご意向があった。今の民自党で武器と輸出は禁句だ。それに管理外、密輸が加わっているんだ。宗教組織と武器、テロから連想されるものにかなり敏感になっている。本庁でも上は至高教には警戒度をマックスに上げているからな。今なら、輸送機どころか戦闘機を足に使えるし、武力が必要ならSATだろうが、自衛隊の特殊作戦群だろうが自由に使い放題だぞ」


 この翌日、宮越は一緒に捜査する捜査員たちと顔を合わせて、海上自衛隊のUS-2でケンベルク帝国まで向かった。

 この時、宮越や組織犯罪対策部長も教えられていなかったが、密輸とバスティアン伯爵殺人事件のどちらにも警察内部に裏切り者がいる可能性があり、監察官による内部調査が密かに行われていた。

 身元不明のタレコミが監察があり、それに部外秘の捜査資料が添付されていたことで内部調査が始まった。

 始まりは警視庁管内で広域指定暴力団が武器を北海道に集めては包んでいるとの情報を得て、北海道警察との合同捜査本部が設立されたことだ。

 密輸そのものは輸出直前に拳銃などの銃火器に大量の銃弾が押収され、暴力団の拠点にも捜索が入り、多くの逮捕者が出たにもかかわらず、至高教との繋がりを証明する物的証拠だけが見事なまでに見つからなかった。

 密輸現場を抑えるのと暴力団への捜索は連動して行われており、証拠隠滅するような猶予はなかった。

 至高教へと繋がる証拠を隠滅は暴力団との連絡の必要性と捜査の進展状況を考えれば、捜査本部内部に内通者がいるとしか思えないタイミングの良さであった。

 警察が密輸現場を抑えること、どこまで掴んでいて、どういった証拠を求めているのか、そのために何をするのか、といったことを知っていたから、密輸がご破算になる前から、今後の取引にも支障が出ることを承知で証拠の隠滅を行えたと考えるのが自然だった。

 捜索された事務所で至高教関係者の指紋などが採取されたが、布教活動の一環で訪れたことがあると白を切られ、忌々しいことに公安の尾行がそれを裏付けていた。

 至高教の関与を裏付けるには指紋や訪問記録以上の証拠が必要だったが、その必要な証拠は見事なまでに消えていて、指紋や訪問記録といった存在して当たり前の証拠だけは残されていたため証拠隠滅を裏付けることも難しかった。


 更に忌々しいことに魔術という未知の技能に警察は大いに翻弄された。

 物的証拠が足りないのなら証言を得ようと、逮捕した容疑者は厳しく取り調されても全く口を割らず、まるで本当に記憶が無いとしか思えないという調書ばかりだった。

 密輸で捕まえた容疑者たちも銃器の密輸は認めるも、どこに密輸する予定だったのか、だれに頼まれたのか、これらを全く覚えておらず、逆に捜査官たちにそもそもどうして自分たちは密輸しようとしたのかと聞き返した者までいたほどだった。

 科学捜査研究所だけでなく、大学病院や理研などの国内の研究機関にも協力を要請して、全容疑者の精密検査を行い、既存、または、未知の何かしらの薬物や異常が検出されないか調べても何も出てこなかった。

 そういう風に困っていたら、公安がどこからか身元不詳の魔術の専門家を連れてきて、魔術的な知識を借りることができた。

 その専門家曰く、記憶を操作するような魔術は習得していないため断言できないが、詳細不明の何かしらの魔術がかけられていた痕跡があるため、日常的に記憶に作用する魔術を掛けられていたのではという見解だった。

 ただし、専門家が裁判などの表に出せる人物ではないのと、仮に召喚できたとしても、裁判で証拠能力が認めらるかどうか怪しいという理由から起訴には持ち込めなかった。

 この一件で警察は今まで日本や地球には存在しなかった技能がこの世界には存在していること、そしてその技能は何が出来て、何が出来ないのかがまだはっきり分かっていないことを理解し、早急なる解決が求められた。

 なお、TRONは?といった質問は受け付けていません。

 x86のデッドコピーかARMを使って、OSはLinuxベースになると思うよ。

 各社が独自仕様で出してきて規格が乱立して、共倒れになる気もするけど。独自仕様は当たればデカイから夢があるよね。外れた時は考えたくないけど。


至高教関係者「辞書を調べたら『魔』という字は悪い意味があるが、『法』だと秩序になるな。なら、『魔術』よりも『法術』のほうがイメージが良いから、我々が使うのは『法術』」

 『法術』の日本語訳はこうやって決まりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっ早期更新、やった!(・∀・) チュレードはポルポトみたいな事まで・・・どの道、器でなかったな。 >魔術を利用した現代医療の常識ではありえない高度医療 即戦力に成りそうと言ったらコレ…
[一言] さすがに一時期は窓互換になるんじゃあないですかねー?>OS というよりもアプリ資産が使えないのが痛すぎるので窓とリンゴ互換になるしかないという。 UNIX系かAndroid系に移植するなりし…
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