第2話
今更ながら、この作品はフィクションです。
現実の政党とは一切関係ありません。
政党名は名前を考えるのが面倒くさかっただけです。
作品内に登場する政党の政治スタンスも、この方が物語は面白くなる気がする、という直感で決まっています。
私の政治スタンスはリベラルと左寄りです。
日本ではタカ派に分類されると思いますが、個人的にはハト派だと思っています。
以前テストを受けたら、左派、自由主義寄りと予想通りの結果となり、社会自由主義に分類されました。
旧アテトリ王国北部を領有する現アテトリ王国はアテトリ王国再興宣言を行い、治安は回復し、往時の安定を取り戻しつつあった。
日本からの支援と資源輸出で経済も廻りはじめ、かつて以上の繁栄も一部では得られていた。
相次いだ内戦で荒れ果てた王都の治安は極度に悪化していたが、ロシア軍や自衛隊、米軍のみならず日本から派遣された警察官が警邏を行うことで回復していた。
王宮にはどうにか内戦を生き延びた貴族たちが続々と臣従儀礼のために参内していた。
また、アテトリ王国再興宣言は事実上の終戦宣言であり、アテトリ王国南部を放棄していた。
ただし、リザードマンの国であるターサイト亜竜国の占領と領有権を認めているわけではなかった。
交戦相手国のターサイト亜竜国はアテトリ王国再興宣言を受けて、改めてアテトリ王国に宣戦布告し、アテトリ王国の再興を追認した。
そして、宣戦布告直後にも関わらず、ターサイト亜竜国はアテトリ王国に停戦を申し出て、停戦交渉が始まったが、ロシアや日本からの非常に強い速やかな平和的解決の要望にも関わらず、交渉は今も続いていた。
交渉開始あらしばらくして、実効支配されているアテトリ王国の南部の領有権を正式に放棄する譲歩案で双方一旦は大筋合意したのだったが、譲歩案に正式な認可を得る段階でちゃぶ台返しが起きた。
「トカゲどもに国土を蹂躙されて黙っていろと。国土の守護者たる王侯貴族の誇りは貴卿らには無いのか。貴様たちの血の色は何色なのだ」
「ロシアの友はトカゲの血を国土の糧としたが、トカゲどもは今も国土と臣民を蹂躙して汚しているのだぞ」
ターサイト亜竜国との交渉からしばらくして、交渉の妥協案を上申する場で貴族の一人が大声で怒鳴った言葉だ。
貴族とは土地を守るために戦う存在であるという共通した信条があるから、反論はしづらく、感情的には共感してしまう言葉だ。
それと、血の色を問うのは、本当に同じ種族の仲間なのか、裏切り者ではないのか、といった意味を持った多くの種族に共通した言葉であり、人間相手に青い血が流れていると言えば『お前は人類の裏切り者だ。血が青い種族の仲間だ』という相手を侮辱する最上級の言葉になる。
「されど我らは相次いだ戦で消耗しつくし、国土を奪い返すどころか、トカゲと戦うことすらままならぬ。如何にしてトカゲと戦うのか?」
中には彼を知り己を知る貴族もいるため、戦いどころか領地の統治も危ういのにどうやって戦う気かと問う声もあった。
「ロシアの友は我らがアテトリ王国の敵はロシアの敵と言われた。彼の軍は数千ものトカゲを打ち破るも、未だに無傷で健在である。ロシアの軍と我らの軍が轡を並べて戦えば、国土を奪還するのは容易いのは道理」
清々しいまでの他力本願だったが、自分たちのリスクに対するリターンを考えてリターンのほうが大きいと考えた貴族は非常に多く、停戦妥協案は撤回されて、代わりに国土奪還のための攻勢案が上申された。
この時のロシアは安定した統治のためにも余裕を見せていたが、すでに資源は枯渇しており、ロシア軍はもはや動くに動けない状況だった。
だからこそ、ターサイト亜竜国がロシアを警戒している隙に停戦したく、ターサイト亜竜国からの停戦交渉は渡りに船であり、アテトリ王国をせっついてでも早々に停戦交渉を纏めさせようとしていたのだ。
しかし、ロシアの意思を理解していない貴族の暴走でアテトリ王国の貴族社会は停戦反対、戦争継続で固まってしまった。
ターサイト亜竜国では国主の大族長や族長、リザードマンの戦士たちの代表者の戦士長、祭事を司る神官たちが集まっていた。
議題はアテトリ王国との戦争の出口戦略についてだ。
「すでにアテトリ王国南部は我らが支配している。北部まで無理して攻めては犠牲は五千では済むまい。それに、なによりマランギ王国と国境を接することになるのだぞ」
「五千もの輩の仇を討つべし」
族長の一人が停戦への積極的な賛同を求めていたが、戦士長が継戦論を言い、場に緊張が走った。
「戦士たちは敵討ちを求める者が多い。例え、勝てず故郷とは違う土に還ろうとも同胞の無念に応えるべし。今は儂が抑えておるが、この者どもは儂らが芋を引いたと見れば隊を抜けてでも敵討ちに走るぞ」
「ううむ。ロスアと申したか。余計なことをしてくれもうたな。もとよりアテトリの南方より先に興味は無いというのに」
戦士長の声に別の族長がボヤいていた。
「そうじゃ、そうじゃ。我らはこのままじゃと飢えてしまうゆえに飢えを凌げる土地が奪えれば充分。それ以上の欲をかいて、マランギ王国と接する愚を犯す気は無かったのにのぉ」
リザードマンは非常に好戦的な種族で、戦士階級を中心とした部族社会を築いていた。
好戦的な性格に、戦士階級の発言力が強い構造から、農業に勤しみ自分たちの食い分を自分たちで作るという考えよりも、すでにある所から奪うべしという考えのほうが強かった。
要するに、リザードマンの社会と経済は略奪で成り立っていた。
今回のアテトリ王国攻めもアテトリ王国が蓄えている食料を奪い、土地と農民を奪うことで、人口増加で抱えきれなくなったリザードマンの食い扶持を確保するためだ。
とはいえ、支配層である族長たちともなれば、目先の略奪以上のことを見据えていたから、国力で大きく上回るマランギ王国と直に接する気はさらさら無く、弱体化して奪いやすくなったアテトリ王国を今まで通り間に挟んでおきたかった。
適度に国土を切り取って、そろそろ満足できたから切り上げようとしたタイミングでのロシアの介入だった。
火事場泥棒で奪い放題だった中、五千もの同胞を失い、生き残った戦士たちの憎しみや怒りで揚がった気炎によって戦争は出口を見失いつつあった。
リザードマン首脳陣からすると五千の戦死も余剰人口の口減らしと考えれば決してマイナスではなく、それどころかアテトリ王国も再興してマランギ王国との緩衝国となり、欲しかった当座の食糧も得られたからには講和する絶好の条件が揃っていた。
「戦士たちには戦場で散った輩たちは獲得した土地の人柱になったのだ。輩たちの尊い犠牲であの土地は我らの土地となったのだ。とでも言っておけば誤魔化せるでしょう」
神官長の言い分に戦士長が食い下がった。
「それもアテトリの猿どもが儂らの言い分を受け入れればの話じゃ。受け入れねば戦士たちは納得なぞせぬぞ」
「まったくじゃ、アテトリの猿どもがロシアとかいう龍の陰に隠れて己が龍になったと思い違いをしおって。土地を返せ、賠償金を寄越せ、とのたまいよって」
「ロスアの連中のほうがよほど空気が読めておった。ロスアと軽く話せたが、いくらか詰める点はあったが概ねこちらの望み通りになりそうだったのにのぉ。あの猿どもさえいなければ」
ロシアとリザードマンの両者は講和で一致していたのに、アテトリ王国の強硬姿勢で講和が成立できないでいた。
「宜しい。アテトリ王国とは南部支配域の割譲を認めさせるべく交渉の継続。これでよろしいな、皆の衆」
今まで黙っていた大族長が意見は出尽くしたと鶴の一声を発して、リザードマンの基本姿勢を決めた。
順風満帆とはいかないアテトリ王国の情勢だったが、ここにきて日本での総選挙という一大イベントだ。
アテトリ王国の治安維持や復興に自衛隊は欠かせない戦力だったが、日本世論が派遣の長期化に嫌気を見せつつあった。
再開したテレビでは派遣中の自衛隊が特集されて、自衛隊のやることなすこと針小棒大に取り上げていた。
例えば、銃剣を付けていれば、市民への抑圧だの、軍靴の音がだのと報道されて、政権批判に結び付くのだ。
銃という武器が一般的な地球とは違って、一部の国がマスケットを開発した程度の異世界で銃が武器だと一般人が認識できると考えるほうがどうかしていた。
霞が関や永田町はマスコミの政権批判キャンペーンのみならず、一つの区切りと考えていた警察機構の組織が一切着手できていないということに苛立ちが出ていた。
現地からすればこれは当たり前の話で、警察官の成り手がいないのだ。
義務教育が整備された日本ではなく、義務教育なぞ影も形も無く、教育とは特権階級だけが享受でき、特権階級のためにあると言える異世界だ。
内戦で優秀な人間から失っていき、王国を支えるはずの貴族でさえ教育不足だった。
特権階級の貴族さえ教育不足で、教育しようにも教育者になれる知識人たちが絶滅危惧種になっていた。
謀反で天下人となったチュレードは知識人は学問の基礎は尊王思想と考え、尊王思想だと謀反は悪であるため、知識人は反体制派、知識は敵、知識人は敵だ、教育は謀反人の育成、と飛躍した思考の持ち主だった。
知識人や文官はいの一番に粛清の対象となり、膨大な数の書物が例外抜きに焚書となった。
その結果、教育不足の貴族たち、教育者不足で次世代の育成もままならない状況が誕生した。
ここから警察機構の組織するには、スラム街でたむろしているごろつきやチンピラに竹やり持たせて警察官にするのなら話は別だが、義務教育から始めて警察官を一から育てるという時間と労力が必要だった。
これを二年未満で達成しろというのは無理難題だった。
何よりも義務教育程度でも教育を受けた人材は警察のみならず、どの行政組織でも喉から手が出るほど欲しい人材だった。
喉から手が出るほど欲しがっているのは政府だけでなく民間でも教育を受けた人材は欲していた。
戦争が終わり、治安も回復して、復興も始まり、景気も上向いてきたのだから、事業拡大に人材が必須なのに肝心の人材がまるで足りていなかった。
好景気と人手不足を背景に、高給高待遇で手間暇かけて育てたばかりの人材を盗っていく。
政府と民間と人材の争奪戦に勝ち、政府内の争奪戦にも勝たないといけないほどの人不足だった。
貴重な教育者のお仕事もアテトリ王国民の人材育成だけではなく、日本人やロシア人への現地教育もあり、ただでさえ人手不足なのに更なる人手不足に苦しむことになっていた。
この結果、教育を受けた日本人やロシア人がアテトリ王国民に識字教育を施すという不思議な光景となった。
ロシア政府は日本語教育でも構わないから日本からソフト援助を求めていたが、政府が民族浄化という批判を恐れたのと、教職員組合が派遣された教職員の安全や待遇面から拒否していた。
そんなアテトリ王国ではロシア軍に自衛隊、米軍が呉越同舟していたが、その関係も総選挙とその後の連立政権によって暗雲が垂れ込めていた。
連立相手の変革の会と日本の良心党の両党は外交では強硬姿勢を党是として、地球にいる時から北方領土の4島即時返還、4島以外の妥協案の断固拒否を強く主張していた。
外交の主軸に日米同盟を置いていたが、戦後支配からの独立のためにも自主憲法への改憲も党是には含まれており、親米を名乗っていたが違う見方も出来る政党だった。
転移してからは流石に4島即時返還要求は言わなくなったが、北方領土は日本固有の領土であり、いずれは日本に返還されるべきという考えは変わらず、ロシアにしてみれば、ロシアは日本に併合されろ、としか聞こえない要求に反露政党と見なされていた。
今回の連立は首相の椅子のための数合わせとはいえ、ロシアに警戒心を抱かせ、経済や産業では資源の主な輸入元であるアテトリ王国の宗主国のロシアとの関係悪化による悪影響への懸念させていた。
自衛隊、米軍、ロシア軍の中では2番手、遠征能力ではトップになる米軍もこの連立政権には警戒心を抱いていた。
なお、瞬間火力では核を保有しているロシアがトップに立つ。
すでに米軍は防衛省の監督を受け入れ、士官学校は自衛隊と共通化、統幕にもオブザーバー参加していたが、外国軍として一応の独立性はまだ保っていた。
将来が一番暗い組織は間違いなく米軍であり、軍を離れる将兵が相次いでいたが、新兵募集は思うように進んでいなかった。
そういった状況で、占領時に押し付けられた憲法の改憲による真の意味で『戦後』を終わらせると主張する政党が政権与党の一員になったのだ。
呉越同舟のアテトリ王国での協力関係は複雑だった。
内戦前からアテトリ王国では貴族にも文盲が混ざっている程度には教育不足が目立っていました。
大粛清となった焚書坑儒は止めの一撃でした。
その後の内戦による荒廃は死体蹴りです。
水戸藩「尊王は当たり前ですよね。将軍は天皇の一臣下ですよ。幕府よりも朝廷のほうが偉いに決まってますよ」
大陸海兵隊「人が足りない?酒場で泥酔させてからサインさせれば集まるよ」
酒場で飲んだくれの若者を泥酔させて無理やり入隊させて誕生したのが米海兵隊、初代総司令官はその酒場の店主。
当時の兵士はごろつきや犯罪者が多く、海兵隊だけが特別だったわけじゃないですけどね。