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3話

国連軍:国連憲章第7章に基づいて編成される軍隊。

多国籍軍:安保理決議に基づいて編成される国連の指揮下ではない各国の連合軍。

有志連合:安保理決議などが無い国連の指揮下ではない各国の連合軍。

平和維持活動(PKO):各国から兵力の提供を受けて行われる国連の指揮下の国連の活動。PKOに関する明文化された条項は憲章には無いため、6章半の活動とも言う。


 それぞれの言葉の意味です。

 多国籍軍と有志連合に明確な定義はありませんが、こういった意味で使われています。

 イラク戦争では有志連合から、占領統治に安保理決議が出たため多国籍軍に名称を変えています。

 自衛隊PKO派遣のための国連総会決議が賛成多数で可決された。

 日本国内でも人権問題は今も燻ぶっているが、PKO協力法を含む安全保障関連法の改正案も可決されたことで国内法的に必要な準備も完了した。その日の内に、アテトリ王国自衛隊派遣案は国会に提出され受理された。

 野党からは安保理決議に基づかず、国連の指揮下で行われる活動では無いため平和維持活動(PKO)という名称はおかしいから改めるべきだという意見もあったが、国民の理解を得やすく、臨時国連総会で国連アテトリ(UNM)王国ミッション(IKA)の設立が決まったという理由から平和維持活動(PKO)のままになった。

 国連アテトリ(UNM)王国ミッション(IKA)は在日米軍に竹島に駐留していた韓国武装警察、各国大使館からも要員が派遣されるが、国連事務総長不在を理由に日本国政府が代行するように総会決議では勧告されていた。

 平和維持活動(PKO)名称問題で一日ほど議論していたが、自衛隊の派遣準備は粛々と進んでいた。


 自衛隊派遣部隊は三自衛隊全てが派遣されることとなったが、主体となるのは陸自だ。

 その陸自では派遣した観戦武官やロシア軍将校からアテトリ王国での一連の戦闘を検証しつつ、米軍や各国の駐在武官から占領に必要なノウハウの習得を急いでいた。

 ロシア軍の戦闘データから現代兵器の有用性は見て取れ、特に平野での敵部隊との正面戦闘では無類の強さを誇ることが証明されていた。開戦前に心配された魔法などの未知の技術については脅威とはならず、正面戦闘ではロシア軍は無被害での完勝を収めていた。

 しかし、戦争全体ではロシア軍に死傷者は皆無ではなく、絶対数では多くはないが死傷者数の割合では市街戦時が突出して大きかった。

 市街地での不意の遭遇戦では銃火器に有利な射程を確保できず、剣や槍などが有効な接近戦が発生しやすく、また家屋が多い地形では曲射が可能な弓による銃火器では反撃不可能な位置、例えば遮蔽物越しなど、からの射撃による被害によるものだった。

 また、ロシア軍のアテトリ王国での戦いだけに限らず、米軍などの戦訓から民間人に扮し武器を隠し持ち接近された場合など銃火器が有効では無い状況も発生していた。

 地球では明確に禁止している戦時国際法があり正規軍などでは行われない戦法だが、この世界にはこういった非合法戦闘員を禁止している国際法は無いため合法であり、非合法であるはずの地球でもこういった非合法行為が無くなってはいなかった。

 こういった不意の襲撃や治安維持に対するノウハウを自衛隊以上に積んでいる警察にはノウハウの提供が求められ、幹部教育や教官の派遣、警察官の現地派遣が決定していた。

 幸いなことに、アテトリ王国でのロシア軍は平野で行われた会戦に完勝したことから、多くの都市は無血開城を選ぶか抵抗しても小規模の抵抗で済み、大規模な市街戦とはならずに済んでいた。市街戦を行って市民を巻き込んでいないこととアテトリ王国王太子という王権の正当性から占領下の市民からの支持を得ているという点は非合法戦闘員の警戒と占領統治への大きな助けとなった。

 また、抵抗を選んだ領主たちも抵抗そのものが体面のためといえるほど微々たるものだったこともあり、それなりのペナルティは課せらることとなったが引き続き統治させたことも大きな意味合いがあった。


 装備面でも白兵戦用に鎖帷子を調達するなどの可能な限りの準備を整えていた。

 しかし、自衛隊そのものが大規模派遣に備えた組織ではなかった点と日本全体が資源不足なことから、自動車化された陸自部隊を派遣することは可能であるが、民間からタンクローリーを多数借りていても維持することは困難と予想された。このため、自動車化部隊だけでなく自転車や徒歩、現地徴用した馬を主体とする非自動車化された部隊に再編された。

 騎兵の編成には警視庁や京都府警から騎馬警官が派遣される以外に自衛官が馬を乗りこなせる必要があるため、競馬学校をはじめとする騎手育成機関は自衛官で満員となっていた。

 これ以外にも戦車や歩兵戦闘車、戦闘ヘリといった重装備も、兵站面による理由もあるが、復興支援と治安維持というPKOの建前から派遣が断念された。だが、戦車トランスポーターなど重装備のための支援車両は輸送任務のために派遣部隊に含まれていた。

 自衛隊が保有する戦車トランスポーターなどの輸送車両は資源開発に必要な重機類の輸送任務に割り当てられる、自衛隊の派遣予定先が港と油田地帯、それらを繋ぐ一帯に集中するなど、資源開発という真の目的を一切隠す気が無い自衛隊派遣となった。

 また、借用したタンクローリーや車両類の多くは自衛隊ではなく、現地に派遣される資源開発企業の輸送用途に割り当てられるか、又貸しされていた。

 無い資源を確保するために資源不足の中で派遣される無い無い尽くしの派遣に口さがない識者やマスコミから『足らぬ足らぬは工夫が足らぬ派遣』という非公式名称まで付けられる始末だった。




 ロシア軍による軍政が敷かれている港町に一隻の貨客船が入港した。

 ゼネコン各社や資源開発会社による名目上は競争入札、実態は強制的な開発事業となった一連の計画は一社だけでは到底出来ないことは明らかだった。

 港湾、道路、パイプライン、油田開発、どれか一つだけでも国家プロジェクトとなる規模の計画をまとめて短期間でこなす必要があるのだ。

 それぞれの計画は独立して発注され、発注元も日本政府やロシア政府、国連など様々だが、全ての計画は独立して機能するものではなく、それぞれの計画が繋がり大きな計画を形作っており、資金の流れも辿れば日本政府が全ての大元となっていた。

 主契約企業のゼネコンや資源開発企業から現地に派遣される人員も皆無では無いが、ほとんどの作業員がその下請けから出されており、自衛隊の護衛で新天地に足を踏み入れようとしていた。

 本来なら日本から末端の作業員のほとんどを派遣せず現地で住民を雇用するのが相手国の心象や経済、地元住民の感情、経営的にも良かったのだが、義務教育は高望みにしても教育らしい教育を受けておらず、機械も見たことが無い彼らを雇用して教育するよりは日本から日本人作業員を連れてきたほうが工期の短縮につながった。

 ロシア軍からの港湾建設を受注した大手ゼネコンの港湾建設用の重機や作業員は既に現地入りしており、各所で重機が稼働して港湾自体の拡張工事をしているのが目に入った。

 しかし、建設を開始したばかりで直ぐに使えるようになるわけは無く、当面はロシア軍による簡易埠頭での荷揚げとなった。

 今回到着した彼らは内陸におよそ100kmほど進んだ先にある油田地帯に作業員用の宿舎やインフラを整える予定となっていた。

 油田地帯まで人と機械、荷物を運搬経路の選定まで含めて無事に運ぶのが彼らを護衛する陸自の仕事だった。

 決して正確でも鮮明でも無く座標系も無い地図を頼りに100kmほど進んだ先にあるまともな目印も無い地点を目指すのだ。地図を使って進むのは今日到着したばかりの日本人と数日前に到着したばかりの陸上自衛隊の自衛官たちだ。

 陸自の護衛部隊はロシア軍との折衝を経て地図には無い情報を得られ、現地人のガイドも雇っていたが、現地では誰も夢想したことさえないであろう重機や燃料、資材などの荷物を満載にした数十トンもあるトレーラーが走れるかどうかは実際に見てみないことには誰にも分らないことであった。

 それに、今回だけ走れれば良いわけではなく、今回の道程を今後も使っていくことになるのだから、今の時期以外はどうなるのかも含めて調査しながら進んでいく必要があった。

 今回の船では油田調査を行うための地質学者やボーリング調査などをするための機材も持ち込んでおり、彼らは一足先にヘリコプターで目的地に向かい、テント暮らしをしながら油田を探すこととなっていた。

 わずか100km、されど100km。

 目的地である油田地帯の宿舎設営予定地に到着したのは港を出発してから2週間後であった。

 1日10kmも進めなかった要因は道の悪さであった。

 平時でも整備されているはずの街道で馬車の脚がぬかるみに嵌るということがよくあったのに、戦時で街道の整備をする余裕が無くなり、馬車とは比較にならない重量物である満載のトレーラーが通るのだ。

 道程には川も流れていて、現地基準では立派な橋がかけられていたが、トレーラーが通れるほどの耐荷重は期待できなかった。幸いなことに川幅も水深も大したことが無い場所が見つかったため、強引に川を渡れた。


 日本から家族と所属する企業、環境保護団体からそれぞれ違った形で盛大な見送りを受けつつ、海路で陸路を経て作業場までようやく到着したのだ。

 鎖帷子?と思った人は『german police chainmail』で画像検索してみよう。

 ドイツ警察はマジですよ。

 ということで、刃物相手だと鎖帷子は使えるんですよ。

 この話は鎖帷子を登場させたかっただけです。初期の頃からぜひ登場させたいと思っていたのでかなり満足しています。もうゴールしてもいいよねと思えるくらいです。


 環境保護団体は日本から異世界に外来種が持ち込まれることへの批判です。(日本在来種に限らず、外来種も含む)

 国際自然保護連合が出した侵略的外来種ワースト100でも日本在来種が混じっています。ワカメとか。

 猫もワースト100に入っているなど、リストを見ると意外に見落としていた種もあります。


 次話は一気に2年以上時間が飛びます。

 ここから先はひたすら開発ばかりなので、とりあえず成功したという設定にしてあります。

 開発に成功するガス田・油田は100本に3本くらいだろという現実的なご意見には、賦存条件が厳しくなった昨今では技術進歩で100本中10本程度まで成功率が上昇しています。

 また、これらの成功率は採算性を加味した成功率であって、資源不足の日本でとなると採算性のハードルが低くなります。

 現代の地球と違い未開発地帯ですから、賦存条件は緩くなっています。ただし、地質調査どころか地図すら作られていない。

 ……失敗しましたという確率のほうが高い気がしますが、ストーリーの都合から成功してもらっています。

 ストーリーよりもリアリティという人は自分で書いてください。そして書いたら教えてください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 武器使用するならPKOではなくPKFですよー。
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