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第2話

 異世界最強の敵がついに姿を現す。

 一歩間違えれば、日本が、日本人が絶滅しかねない最強最悪の敵の登場回。

 総理官邸、総理執務室


「全ての漁港で水揚げ量の内未知の生物が占める割合が過半数を超えました。この割合は漁港へ水揚げされた重量を基準として、海産物を中心とした漁港に限定したものになります。具体的な漁港とその詳細についてはお手元に配布した資料をご覧ください。未知の海洋生物は獲れた際に海に廃棄されることも多く、実際の水揚げ量はさらに多いと予想されます。水揚げ量に占める割合は予想を上回るペースで増加しており、このペースでは既存の魚は年内にはほとんど獲れなくなる恐れがあります」

 農林水産省の官僚が説明を終えると厚生労働省の官僚が続きを引き継いだ。

「海洋生物は研究機関に送って分析させていますが、今のところ人体に有害となる物質が検出された検体は少数です。しかし、行った分析は簡易的なもので、また、水揚げされた海洋生物の種類は多く、今も新種らしき海洋生物が見つかり分類も出来ていない状況ですから、当面はこのまま全量破棄を続けるべきと厚労省は考えています」

 閣僚の一人である総務大臣が疑問を呈した。

「数日前から未知の海洋生物を試食する映像と記事がインターネット上で配信されているが、これについて何かあるか」

「該当ページと思われる動画と記事については把握していますが、厚労省がページ作者、サイト管理者、プロバイダに命令や削除といったことを強制させるといったことは検討しておらず、そういったことについては各都道府県警察の所轄だと考えています」

 厚労省から丸投げされ、注目を受ける中、国家公安委員会委員長は少々慌てつつも答えた。

「警察が動くにも法に違反していない内は無理でしょうし、そうでなくても未知の海洋生物に伝染病の疑いがあると厚労省から報告を受けたなら動きますが、今のところそういった危険性は確認されていないのですよね。それなら、インターネット上のことですから総務省が対応されるべきかと」

 回り回って戻ってきたことに驚きつつも総務大臣は普段通りのペースで意見を述べる。

「試食程度でページの削除といったことをしたら言論の自由との兼ね合いもあって難しく、やはり政府がインターネット上で真似をしないように注意喚起をしつつも、当該サイト運営者には病院で診察を受けるように勧めるべきかと」

 妥当な線で落ち着いたところで、総理である山之内が口を出した。

「先ほど伝染病と言っていましたが、伝染病ではないにしても未知の海洋生物から既存の魚を通じて寄生虫や病気といったことは大丈夫でしょうか」

「その危険性はありますが、既存の魚から一定の割合でサンプルを摘出して検査しても今のところ何も出ていません。今は注意しておく程度でよろしいかと思います。一応、生魚は避け、火を通してから食べるように注意喚起するようにマスコミ各社と卸売業者に根回ししています。政府からこういった注意をしてしまえば、大騒ぎになりかねませんから」

「危険性があるから魚を食うなと言える状況ではありませんから、仕方ありませんね。ただし、未知の海洋生物は食べないようにという警告は政府が徹底して行っておいてください」

 厚労省から説明に仕方なしといった表情で了承の意を示した。

「総理、それよりも大きく、火急な問題があります」

 話が一段落したのを見た環境大臣が議題を変えた。

「沖縄から北海道までにかけて複数の新種と思われる鳥類が目撃され、猟師が捕獲した鳥が保健所に持ち込まれました。調査途中ですが、鳥には菌類や微細な物質が付着していることが確認されています。引き続き、種類の特定や危険性の有無の確認を続けますが、今後も日本に飛来する未確認の鳥類は増えると思われます」

 これには山之内も頭を抱えて唸ってしまった。

「とりあえずの対策でも出してもらえますか?」

「各省庁とも協議し、警察庁にも協力してもらっていますが、狩猟法の改正で人口密集地でも空砲の使用や猟銃の使用時間の撤廃といった規制緩和による各地の猟友会の献身を主体とした案となります。あとは、警察官等けん銃使用及び取扱い規範の改定と警察官による駆除協力となります。

 また、猟友会には狩猟時には普段より注意し、素手では決して触らず、密閉容器に入れて保健所に提出、回収後は消毒液を散布するように指示を出しました。予算は必要ですが、手袋とマスク、可能なら簡易的でも防護服、密閉袋、消毒液といった駆除後の回収に必要な物品の配布を行うといった案も出ています」

 山之内は腕を組んで考え込みながらも応えた。

「出来る限りは自助努力で揃えてもらって、足りない部分については猟友会に国からの援助するという線で進めてください。防護服までとなると難しいでしょうが、それ以外の手袋や消毒液といったものは必須でしょうからね」

「その線で法案を作成させ、今日中には草案を出させます。近日中には閣議にかけて、国会での成立に総理からもご尽力をお願いいたします」

「それと、防衛省にも害鳥駆除の協力要請をしておいてください。訓練の代わりに定期的な駆除ですね。これも国民を守る大切な任務だということを防衛省と自衛隊にはよく伝えてください」

 言葉の上ではお願いだが、言外に拒否は許さず、実質的には命令した伝言を伝えた山之内に休憩を取る間も無かった。外務大臣が次の話題を出し、その隙に環境省の官僚が退室していった。

「マランギ王国からの使節団は予定通りの日程でウェストフォーレンで飛鳥Ⅱに乗船して、『かしま』の護衛で日本に向けて出港いたしました」

 この一報に悪い話題続きだった山之内も喜色を浮かべて言った。

「そうですか。久々に聞く良い知らせですね。北海道の石炭が使えると言われたように思えるくらいです」

 この一言には誰もが渋面を作り、確かにそれに匹敵する話題だと再確認した。


 北海道の石炭。

 昔の日本では炭鉱が栄え、一大産業だった時代があったが、石炭の枯渇や採掘の難易度、外国との価格競争で現代では北海道で辛うじて採掘を続けている状況だった。

 しかし、日本が異世界に転移したことで状況が一変した。

 日本にある資源、エネルギー資源としてだけでも石炭は有力資源に再びなったのだ。

 かつては黒いダイヤと呼ばれ、環境問題から避けられ、石油に立場を取られてからも安価なエネルギー資源として、製鉄では欠かせない燃料として現役で使われ、重要度は低下したが今もなお戦略資源の一角を担うのが石炭だ。

 日本においても発電量の3割ほどを占め、製鉄に欠かせない燃料として年2億トン弱ほど輸入していた。

 そのうえ、石炭は液化させて石油の代用品として石油製品やガソリンにすることも可能だった。

 国内の炭鉱は海外との競争に敗れて細々と続いていただけだったが、推定埋蔵量は十分な量があった。北海道を中心に予想を含めた総埋蔵量は約200億トン、確定埋蔵量だけでも約50億トンあった。

 この数値に政府は最初は政府もエネルギー問題の救世主として諸手を上げて歓喜しながら、マスコミを通じて国民に公表して、先行きの見えない現状に対する安心感を与えた。

 しかし、すぐに政府は石炭に抱いた光明が単なる幻想だったことに気付いたが、国民に安心感を与えるためにも幻想を垂れ流し続けていた。

 石炭の埋蔵量が多くても、経済性も加味しているが、可採埋蔵量が3.55億トンと現実に採れる数値は多くは無かった。また、利用しようにも発電所や高炉は石炭の種類に合わせて設計されているため、外国産から国産への切り替えには利用先の改修が必須だった。

 さらには、もともと年間生産量が100万トン強ほどだったのを、必要だからと突然に数億トン級まで増やすことにも無理があった。

 石炭の液化も効率的とは言い難い現実もあり、政府と産業界では早々に石炭という幻想から目を覚まして、新天地に可能性を見出そうとしていた。

 また、推測段階だったが、世界が消えたのではなく、日本が地球からこの世界に移転したという推測が確定的になるにつれ、一つの疑問が生じた。

 地下資源も日本と一緒に転移したのか、という疑問である。

 地下街や地下鉄は一緒に転移しており、坑道も多くがそのままであることが分かっているが、手つかずの石炭も必ず一緒に転移しているとは言えなかった。約50億トンの確定埋蔵量も今となっては推定埋蔵量となったのだ。

 北海道の石炭に夢を抱き、高騰する北海道の地価に警戒心を抱きつつも、国民に現実から目を逸らさせて、暴走させないために政府が見せている夢が北海道の石炭の正体だった。

 北海道の石炭は幻のようでも、石炭そのものは非常に重要な戦略資源であり、石油に並んで最優先課題だったが、ウェストフォーレンでの会談で提供された石炭のサンプルと内容に大きな注目が集まり、希望が出ていた。

 日本の主要輸入先だった豪州の石炭とよく似ており、マランギ側からの説明では相当な規模で露天掘りが可能と推測され、調査は必要だが、豪州産石炭の代替輸入先として有力視されていた。


 現在、総理執務室にいるのは全員がこれを正しく理解しているがゆえの反応だった。

「あと、マランギの方々にこちらの用意したサプライズは喜んでもらえるでしょうか?」

「とても良い表情で喜んでもらえると思いますよ。しかし、」

 一旦は安堵した表情を見せた山之内だったが、まだ続く言葉に顔を再び顰めさせた。

「事前に伝えられていた使節団の名簿と今回の使節団の名簿がまるで違っており、使節団には前回の会談の出席者も含まれていますが、どうやら今回の使節団はマランギ王国の中央からの使節で固められているようです。おそらくですが、総理が以前懸念されていたように前回の会談では地方が独断で行ったもので、今回は中央が介入した結果ということだと思います」

 山之内は自分の懸念が当たったことに苦虫を噛み潰したような表情で応える。

「今度は主権を、最高権、最高決定権を有する政府からの使節団かどうかの確認を事前に徹底しておいてください。またしても、実はマランギ王国の正当な政府からの使節団では無いことが発覚して、正当な政府が介入して一からやり直しというのはごめん被りたいですから」

「外務省から腕利きの外交官を派遣して出航前に何度も確認しておきました。向こう側には主権という概念がまだ無かったようですから、確認には苦労したようですが、マランギ王国は主権国家であり、最高決定権を有する国家元首の国王が自身の代理として派遣した正規の使者だという信任状も確認しました。向こうも主権という概念を興味深く受け取っていたそうですよ」

 外務省も一度目は不意の遭遇だからと失敗できても、二度目は許されないとばかりに微に入り細を穿つ確認だった。

「それなら、到着を待つばかりですね」

「それなのですが、普段の移動手段はどういったものが良いかで外務省も判断に悩んでいまして、総理は何かお考えがあるでしょうか。使節団の方々に聞こうにも車やヘリというものを知りませんから、日本側で判断してくれと言われまして」

「報告を読む限りでは、産業革命以前の文明ですから移動手段は馬車といったものでしょうね。それなら、国内の移動は容易ですし、車を引く動物がいなくても慣れ親しんだ馬車に近いですから車が良いと思います。車なら交渉を有利に運びやすくなりますからね。ヘリはよほど好奇心が旺盛な方でないと金属の塊が空を飛ぶという本能的な恐怖心には勝てないでしょうから、止めておいた方が無難ですね」

 山之内も漸く安心した表情を見せて、久しぶりに肩の力を抜ける議題に楽しみさえ覚えた。

「あと、防衛省とも相談中なのですが、礼砲や栄誉礼についても、空砲の音は慣れていないでしょうから発砲は避けるべきではないかと」

「出来るだけ刺激したくは無いですから、空砲は省くようにしてください」

「刺激しないようにですか。それならサプライズはよされたほうがよろしいと思いますよ」

「向こうも事前に通告されていた名簿を白紙にするというサプライズを用意されていたのですからそのお礼ですよ」

 今の日本にとってマランギ王国は親密な関係を構築しなければならない重要国であり、その重要国との外交は総理が微に入り細を穿つくらい掌握すべき重要案件だった。

 ドラゴンよりもミドリムシの仲間やその辺の野鳥のほうが脅威とか浪漫の欠片も無い。

 自衛隊が異世界で最初に戦う脅威が害鳥とか浪漫が無いよ。

 え?、特殊部隊がゴブリンと、DDGがクラーケンと戦った?あれは浪漫を優先した結果。

 冷静に考えたら、特殊部隊を出すにしても宇宙服みたいな完全防護の防護服でしょ。

 一応、事前に完全防護の調査班を出して人類に無害かを確認していたという設定だけど、調査する日本側の安全だけでなく、日本から持ち込まれた物で異世界が汚染される危険もあるから安全確認後も防護服は必須だったよね。

 未開の地に住んでいる原住民族と接触調査で調査する側は事前のワクチン接種とかで万全だったけど、調査される側は文明圏から持ち込まれた病気で深刻な被害を出したということもあったみたい。

 けど、浪漫の欠片も無いということで必然性や妥当性は無かったけど、ああいった展開になりました。

 異世界の安全よりも日本の速やかな安全確保の方が大事なんだよ、と思えば納得できないこともないよね。

 正直にぶっちゃけると異世界の安全まで考えて書いてなかっただけなんだけどね。

 けど、地球由来の病原菌で倒れたら無人の地を手に入り、倒れなくても主目的の調査結果は得られる、どっちに転んでも不利益が無いね、と思ったら人として駄目なんだと思うよ。




 今後の展開に悩んでいるため、この話はもしかしたら変更するかもしれません。

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