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第3話

この辺りから進行速度優先にしています。

 日本と異世界との最初の外交交渉であり、日本と異世界のその後を決めた数日間でもあった。

 この後の日本と異世界がああなると予想した会談の出席者は誰もいなかった。日本側はこの会談でその後の運命が決まるなどとは会談前も、会談中も思いもしていなかった。

 異世界側は日本を利用して王国のその後や大きくても人類の生存圏内での地位向上くらいを思い描き、予想していた。

 日本側は異世界に対する知識を少しでも得て、不足物資を調達するための交渉の前準備程度に考えていた。

 日本側は代表者を杉山博史、副代表が護衛隊群司令の石川正樹海将補、陸自や米軍からも代表者が出席していた。

 異世界側は至高教の代表がマダカス、副代表にエリック司祭、西部貴族の代表としてフィリオン伯爵ジーリーコ、副代表がドンツェリ子爵トーニョロであった。

 日本にとっては異世界との初外交だったが、異世界にとっては至高教と西部貴族、日本の三者会談だった。

 この三者会談では至高教と西部貴族は手を組んでおり、日本は異世界についてまともな情報を得る前に1対1のつもりで1対2の会談に臨む羽目になったのだった。




 会談当日の早朝、マダカスは腹心を連れて、日本側の上陸予定地の近くにある倉庫に身を隠していた。

 もう一人の代表であるジーコーリは会合場所の聖堂で待機しており、この場にはフィリオン伯爵に代々仕え、先代からも厚い信頼を寄せられていた老家令が来ていた。

 対等な相手とは正式な会談まで顔を合わせないのが異世界側の外交儀礼であったため、日本側を歓迎するのは副代表であるエリックとドンツェリ、聖堂騎士団と伯爵、子爵両家から選抜した騎士たちからなる儀仗隊であった。

 すでに彼らは正装で桟橋に集まり、日本側の到着を待ち構えていた。

 マダカス、ジーリーコは歓迎式典には不要であり、本来なら外交儀礼として顔を合わせないように会場である聖堂で待機しているべき立場であった。そんな彼らが倉庫に隠れてまでこの場に来たのは謎の勢力、日本に関する情報を少しでも得るためであった。

 無論、エリックとドンツェリは無能とは程遠く、儀仗隊や文官にも信頼できる有能な部下を配置して、日本に関する情報収集を命じていた。

 マダカス、ジーリーコは集めさせた情報を使って判断する立場の人間である。

 一次資料と二次資料だと、マダカス、ジーリーコが本来なら使うのは二次資料で、一次資料は余程のことが無い限り使うことは無い資料である。一次資料のほうが編集される前だから信頼できると勘違いされることがあるが、一次資料は間違いや勘違い、恣意的な情報操作がそのままであり、編纂されていないため使いにくいのである。信頼性に難のあり、使いにくい一次資料を纏めて、信頼性があり、使いやすくしたのが二次資料である。

 日本との交渉では実際に出向いてでもいち早く情報を得ることが肝要だと判断したから倉庫に身を隠して、観察していた。

「マダカス殿、海上自衛隊と申しましたか、時間通りに到着したようですな」

 老家令は懐から取り出した懐中時計を見ながら、断定した口調でマダカスに確認を取った。

 向かい風でも小舟はおろか、高速船すら上回る速度で動き、櫂や帆を持たない小舟などこの異世界には存在していないのだから、姿形を知らずとも一目見れば分かるというものだ。そのため、マダカスも当たり前だとばかりに返事すら寄越さなかった。

 それよりも、マダカスは老家令が取り出した懐中時計の方を苦々しい顔つきで睨みつけていた。この時代には王国に限らず人類の生存圏では機械式時計は開発され、製造もされていた。極めて高額で所有者が貴族や大商人、至高教などに限定されている物だったが、機械式時計そのものは珍しい物では無かった。

 しかし、それらは持ち運びに適さない大型の据え置き時計であり、老家令が持っているような懐中時計はこの異世界の人類にとってまだ未来技術だった。だが、ドワーフなど人類以外は懐中時計を開発、製造に成功していた。マダカスは懐中時計の出処を想像し、かつ、老家令に預けた伯爵家の資金力とそれに見合わない献金額に表情が現れてしまった。

 だが、老家令が懐中時計をマダカスに見せたのは嫌がらせでは無いことくらい理解していた。老家令は出立前に時間を合わせ、ここに到着してからも時計の時間を確認して狂いが無いことを確認していた。船にもかかわらず、誤差無く時間通りに到着した日本という未知の存在に改めて気を引き締めた。


 桟橋に着いた複合型作業艇から杉山が上陸許可を求める声を張り上げる。

 すでに翻訳魔術を展開済みであったため、日本側との会話に大きな支障はなかった。副代表であったが、ドンツェリ子爵が港を治めていたため、当主であるトーニョロが上陸を許した。

「来訪歓迎する、海上自衛隊殿。余はこの地を治めておるトーニョロ・ドンツェリという。代表者不在ゆえ、互いの紹介は聖堂で代表団が揃ってから改めてさせてもらおう」

「歓迎感謝します、トーニョロ・ドンツェリ殿。日本国政府から臨時代理大使に任命された杉山博史です」

 最初の顔合わせは穏やかであった。目に見えたトラブルらしきものは杉山が差し出した右手の意味を理解できず、トーニョロが困った顔でそういった挨拶だと思い、右手を前に出して右手の手のひらを向け合ったことだけだった。

 しかし、用意された馬車に分乗して、聖堂へと続く道にかき集められるだけの兵を完全武装で並べさせ、歓迎の体を取ったあからさまな威圧するなど交渉は既に始まっていた。

 聖堂に到着した一同を迎えたのは、聖堂の外で整列している騎乗した馬も鎧で覆った重騎士隊と聖堂内にも見事な装飾で覆われたフルプレートアーマーで全身を包んだ神殿騎士団が壁に沿って並んでいた。

 現代では絶滅した本物の騎士というものを見た杉山は驚きつつも珍しさに興奮しつつ、石川をはじめとする自衛官と米軍士官は本物の戦場で戦う騎士たちが醸し出す雰囲気に身構えてしまっていた。

 開けられた聖堂の正門前に正装したマダカス、ジーリーコが待機していた。日本側代表団を案内したトーニョロとエリックがマダカス、ジーリーコに控え、挨拶と自己紹介となった。

「マランギ王国西部守護職、並びに、マランギ王国西部貴族連合の代表であるジーリーコ・フィリオンという」

「マランギ王国西部貴族連合副代表のトーニョロ・ドンツェリ、ジーリーコ伯の務めさせてもらいます」

「至高教代表のカベン大聖堂司祭マダカスである」

「至高教副代表でこの聖堂を預からせていただいているエリック・ジョリー司祭といいます」

 異世界側からの挨拶に杉山も応えるために、聖堂正門前の階段を無警戒に昇ろうとして石川から腕を掴まれた。石川は杉山はじめ代表団の生命を守る義務があったため、思わず取ってしまった行動だった。

 杉山から睨むような目に石川は自分がとった行動を後悔したが、後の祭りだった。

「そこからでは遠いでしょうから、どうぞ階段を昇ってここまで来られてはいかがでしょうか」

 すかさずエリックが親切を装って階段を昇るように提案してきた。

「お心遣いありがとうございます」

 杉山も失敗を引きずらず切り替えて応じる。

「日本国より派遣されました臨時代理大使の杉山博史です」

「副代表を務めさせてもらいます日本国海上自衛隊海将補の石川正樹です」

 代表者同士の挨拶に続き、他のメンバーの挨拶が済まされた。


 挨拶も終わったタイミングで、エリックから声がかかる。

「いつまでもここで立っているのも疲れますから、中に入って食事でもどうですかな」

「ご配慮くださりありがとうございます。皆様に会えると思うと緊張のあまり食事が通らず、会談で腹が鳴らないか心配していたので、ご相伴に預からせていただきます」

 もちろん嘘である。代表団は出発前に食事を済ませていたが、こういった展開も予想されていたため、満腹まで食べてきた者は誰もいなかった。

「それは良かった。王国一、いえ、世界一の港町ウェストフォーレンに集まる天下の珍味を用意しておりますのでご堪能くだされ」

 一行はエリックに案内されるように聖堂内の会場へと向かう。

 正式な会談の始まりは会食からだった。

実のところ、これを書いていたころに考えていた流れと第6話以降に予定しているお話って違っているんですよね。


 9月9日

 階級を間違えていたので訂正しました。

 海将→海将補

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