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第5話

自分時間では2週間以内だった。

自分時間では2週間以内だったから、前回の言葉を破っていない。

「一尉!」

 フォースリコンのマークスマンが鋭い声を出す。

 洞窟内から声が聞こえてきた。話し声ではなく、怒声である。

 硬いもの同士が勢いよくぶつかり合う音も聞こえている。

 こちらに向かって走っている足音も一つではなく、複数ある。

「散開して、警戒しろ」


 洞窟の出口に火線を集中できるように散開したところで、山賊風の男たちが出てきた。

 男たちは槍や斧、剣、杖など様々な武器を手にして、皮鎧を鉄板で補強したものを身につけ、生まれてから一度も風呂に入ったことが無いくらい汚れていた。

 洞窟の奥を警戒するように出てきた男たちは怪我人だらけで、一目で致命傷だと分かるほどの深い怪我を負った者もいた。

 肩で息をしながら洞窟に意識を集中していたため、草原は無警戒であったため、男たちは鈴木たちに気付いていない。

 山賊同士の抗争で攻め入ったところを返り討ちにあったという予想をしながら、気付かれる前にこの場から立ち去るように隊員たちと目配せをした。

 しかし、男たちが洞窟に意識を集中して他が無警戒になったように、鈴木たちも男たちに意識を集中しすぎていた。

 洞窟を中心に男たち、合同部隊と半円状に展開していたが、その外側に突如として穴が空いた。

 穴からは10歳くらいの子供たちが出てきた。

 子供とはいっても、手には槍や弓を持ち、包囲している男たちよりも汚れている。

 それに明らかに人間の子供ではなかった。肌は緑色で、耳も尖って、鼻も長く伸びている。

 そんな謎の生き物であったが、槍と貧相であっても皮鎧を身に着けたものが先頭で、その後ろに弓を持った者、更に背後に杖を持ったものがいるという明らかに知性を感じさせる陣容を整えていた。

 更に言えば、警戒されている洞窟ではなく、穴を掘って後方から迂回したことからも人間並みの知性を有しているのは間違いなかった。


 男たちも背後の穴から出てきた子供たちに気がつき、同時に合同部隊にも気付いて、慌てて陣形を整えていた。

 鈴木からしたらいつの間にか族同士の血みどろの抗争のど真ん中に立たされ、混乱していた。

「Freeze!」

「止まれ!」

「動くな!」

 隊員たちもそれぞれ銃口を向けながら、母国語で警告している。

 鈴木が警告射撃をするべきか、迷った時間が最後の機会であった。


 最初に動いたのは子供たちであった。

 洞窟から出た男たちの背後を襲うつもりで出てきて、予想外の連中もいたとはいえ、どっちも包囲してしまっている。

 弓を引き絞り、矢を放った。

 弓はお世辞にも上等とはいえない素人が作ったような代物で、射手の腕も良くないのか、狙いは甘く、飛ばない矢もあったが、飛んで命中すれば十分な殺傷力を有していた。

 いくつかの矢は合同部隊と男たちに命中し、鈴木も腹をくくって反撃命令を出そうとしたが、目を疑う光景に一瞬ほうけてしまった。

 最後尾にいる杖を持った子供が杖を前に倒して集中していた。

 それまでは指揮官だと思っていたが、杖の先から真っ赤に燃える火の玉のような何かが現れたのを目にして、鈴木に限らず合同部隊は咄嗟の行動を取れずにいた。

 実戦経験が豊富なフォースリコンでさえ、こんな状況に混乱してしまっている。だが、経験があり、米軍所属で法的な拘束も緩いため、反撃に出ている隊員もいた。

 弓を持った子供狙い、出来るだけ致命傷を避けるように手足を狙って発砲する。

 銃声というこの世界の住人が始めて耳にする轟音に、今度は子供たちと男たちがほうけてしまった。

 杖の先に火の玉を作っていた子供は集中を解いて、何事かと周囲を見回している。集中を解いたと同時に火の玉も消えてしまっている。

 弓を引き絞っていた子供たちは轟音と轟音と同時に手足に怪我を負ったのを見て、怯えていた。

 槍を持った子供たちも怯えて後ろに下がりながら、警戒している。

 包囲網の中心にいる男たちも謎の集団からの轟音に、千載一遇のチャンスを生かせずにいた。


 鈴木はこの誰もが睨み合うだけで身動きが取れない状況を生かすべく、口を開いた。

「総員、」

 鈴木の最後の言葉となった。

 今度は洞窟から子供たちの増援が到着したのだった。

 先頭にいるのは杖を持った子供たちの中でも断トツの体格を持って、男たち以上にマトモな皮鎧を着ていた。

 彼が洞窟から放った火の玉が鈴木に命中して、彼の命を奪ったのだった。

 新たな増援と先頭のものが発した怒声で、包囲していた子供たちも慌てて動き出した。

 合同部隊は隊長である鈴木は顔が炭化してしまって、止む無くマット・ジョーダン中尉が指揮を変わった。

 マット中尉は増援の先頭にいる子供の胴体に銃弾を惜しまず打ち込んだ。

「Open Fire!」

 まずフォースリコンが、続いて特殊作戦群の隊員たちも生き残るため命令通り射撃を開始する。

 自衛隊史に残る初の陸戦は不意の遭遇戦となった。




 マット中尉が撃ち殺したのが増援だけでなく、子供たちのリーダーだったようで、戦闘はリーダーを失い恐怖に震える相手に一方的な展開となった。

 鳴り止まない轟音に、増え続ける死体、統率者も無くした子供たちは一人が逃げると全員が一斉に逃げ始めた。

「Hold Fire!Hold Fire!」

しかし、合同部隊に包囲されていた男たちは鳴り響く轟音に身動きがとれず、包囲されていたため逃げることも出来なかった。

 唯一ある逃げ道も洞窟であり、逃げ道ではなかった。

 残された唯一の道が武器を手にして、警戒しつつも声をかけることだった。

「お前らは何者だ!どこの魔法使いだ、魔法使いがどうしてこんなにもいるんだ!」

「What? Say again. Who are you?」

「何言ってんだ?おい、シルヴァイン、連中が何をいっているか分かるか?」

 重傷の男に尋ねるが、首を横に振られる。

「すまない、ガイ。聞い、たこと、が無い、言葉だ。杖を、支え、てくれ。翻訳魔法を、試す」

「すまねえが頼む。おい、シルヴァインの杖を支えてやれ」

 シルヴァインの杖から出る不思議な光が、男たちと合同部隊を包む。この光に合同部隊は鈴木一尉を殺されたことを思い出していた。

「Stop!What are you doing?If you don't stop,We shoot you!」

 光っただけで、何事も無く終わり、マット中尉はほっと胸を撫で下ろした。

「これで通じるだろう。おい、お前らは何者だ。ここで何してやがる」

 今まで通じてなかったのに突然、男が発している言葉が分かるようになり、合同部隊は誰もが驚いていた。

 耳から聞こえてくる言葉は相変わらず意味が分からないが、頭の中では何故か彼の言葉の意味が理解できているのだった。まるで優秀な翻訳機が頭の中にいるような現象だった。

「さっきの火の玉に今度は言葉か、まるでゲームだな」

 特殊作戦群の隊員が発したぼやきを耳にして、中尉は再び驚いていた。中尉は士官として、駐留先の言語も学んでいたが、完璧には程遠かったが、今は日本語のぼやきの意味すら理解できていた。

「おい、お前らは何者だ。くそ、今のシルヴァインは無理だったか。いや、そいつの言葉は理解できたから成功しているのか。おい、お前、何者だ、目的は何だ」

 ぼやいた特殊作戦群の隊員に剣を向けて聞いてくる。

「中尉、どうしますか?」

 尋ねられた隊員はマットに丸投げしてくる。

「Hey, I'm Matt Jordan First Lieutenant,USMC.Identify yourself.」

「俺か?俺はガイって者だ、俺ら『草原の斧』のリーダーをやっている。この辺じゃ名の知れた冒険者ってやつだ。ゴブリン退治を依頼されたがご覧の有様で助けてもらったことには感謝する。次はそちらさんの番だぜ、マット・ジョーダン中尉様、貴族様がここに何しに来られたのでしょうかね?」

「ガイ!シルヴァインがもう持たない、薬草でもいいから、誰でもいいから何か持っていないか?」

 シルヴァインを看病していた真っ青な顔の男がガイに声をかける。

「助けろ、ダン。それがお前さんの仕事だろ」

「無理言うな。法力は残ってないし、薬も無い、それにこの怪我で翻訳魔法をさせたんだ。くたばらなかった方が奇跡だ」

「Medic, Treat him.」

 弓矢を受けた隊員を見ていた特殊作戦群の衛生兵にシルヴァインを診させる。薬や見たことも無い道具、一見しただけで高額だと分かるものを使っていることから、敵意は無いと判断してガイは武器を下ろした。

「中尉、彼は重傷だ。『いずも』に連れ帰る許可を」

「お医者様よ、その『いずも』ってとこならこいつは助かるのか?」

 衛生兵からの無茶な要求であったが、現場判断の域を超え、司令部の判断が必要な案件だった。

「Radio Man.Call HQ,now.」

「HQ、こちらヴィクター1。どうぞ」

『ヴィクター1、こちらHQ。感度良好。どうぞ』

 『いずも』に設置された司令部が応答したところで中尉がマイクを変わる。

「We have a KIA Shouichi SUZUKI and three WIA.We contact wounded native. Request Helo pick up. over」

『Roger that. What are they status? over』


 『いずも』内の司令部は地上部隊からの定時連絡より早い連絡に何事かと思っていた。

「鈴木一尉が戦死、並びに負傷者も3名。現地人との接触があり、現地人は『いずも』の医療設備が必要な重傷だということです」

 派遣となれば可能性があるとは考えられていたが、考えていたのと実際に出るのとでは違いすぎる。

 室内では誰もが口を開かず、身動きすら取れないでいた。

「海将、合同部隊から現地人の負傷者の『いずも』への収容要請への返事を」

「許可する。合同部隊も直ちに帰還させろ。私は遺族への手紙と市ヶ谷への報告書を纏める。鈴木一尉の資料を持ってきてくれ。あと、部隊が帰還したら報告を」

貴重な自衛隊の戦闘シーンが僅か一話で終わった。

次からは視点を日本に戻すか、それともこのままにするか考えてます。


そういえば異世界には天然痘があるという設定なので、天然痘によるパンデミックエンドというのも考えたのですが、諦めました。

ワクチンの確実な備蓄量で250万人分、5600万人分を目指して量産中という2006年の資料だったので、既に備えていたので諦めました。

派遣された自衛官も天然痘ワクチンを摂取済みです。

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