決闘中
レイ「姉さん!頑張って!」
「なあ、止めとけって。魔法が使えるから勝算があると思ってるのかもしれないが、アイツらも魔法が使える。それに素行が悪いせいであまり評価されていないが、冒険者として実力も折り紙付きだ。」
私が表に出ようとしていると一人の男が私を説得してくる。あっ、あれって一応冒険者なんだ…。
『大丈夫よ。他にも勝算があるから。』
「ん?嬢ちゃん、声が出せないのかい?じゃあ、さっきのは…」
この人と話しているとその勝算がバレてしまいそうだからさっさと表に出る。
「それじゃあ、正々堂々一対一で戦おうぜ?俺が相手になってやるよ。」
三人のうちの一人が前に出てそんなことを言ってくる。三人同時でもよかったのに。
「俺達は大人だからな。先手を譲って…ぐえっ!?」
言葉に甘えてウォーターボール、直径二メートルサイズの水の玉をぶつける。はい、私の勝ち。威力は車に跳ねられた程度よ。とはいっても死なないように気をつけてぶつけ方を少し工夫したけど。えっ?良心が働いたからかって?違うの、殺す価値がないの。
『私の勝ち。約束守ってね?』
ポカンとしている二人に紙を見せる。すると、二人の顔が赤くなる。
「こんなの認められるか!」
「不意討ちしやがって!」
『堂々と正面に立って、先手を譲るって言ったから仕掛けただけ。どこが不意討ちなの?どこが認められないの?』
「ガキが口答えしてんじゃねえ!」
一人が突っ込んで一人が詠唱に入る。結局こうなるのね…。前衛と後衛で戦いの基本ね。六歳の子供相手に大人気ない。合計二十歳超えてるけど。今度は二発同時に発動。一発ずつ当ててやる。
「ぐはっ!?」
「ぐほっ!?」
はい、今度こそおしまい。でも、気がつくのを待ったところで奢ってくれそうにない。
『すみません、私に負けたら奢るって話、皆さん聞いてましたよね?』
野次馬達に紙を見せる。『言ってたな。』とか『負けると思ってなかったんだろうな。』とか聞こえてくる。
『約束守ってくれる様子がないので、勝手に財布を漁ってお金を頂いていきます。これは相手が約束を守ろうとしないがための措置。認めてもらえますよね?』
「そうだな、ちゃんと互いに了承したがための正当なものだ。持っていくといい。」
あっ、さっき私を止めようとしたオッサン。あれ?野次馬達の反応が…。
「ああ、野次馬達の反応が気になるか?俺はこの国で三本の指に入る実力者と呼ばれているから発言力が高いんだ。見たところお前はまだ幼いし、俺のこと知らないだろう?ここで自己紹介しておこう。ジオだ。よろしくな、お嬢ちゃん。」
まさかのお偉いさんでした!
『はい、初めまして、新人冒険者のシアンです。向こうにいるのが、同じく新人冒険者で弟のレイ。』
「冒険者?こんなに幼い子供を採用するなんて何を…」
『私が無理を言ったんです。お金に困ってたので。』
私のせいであの受付嬢さんが何かしら注意されそうだったので、私が弁明しておく。ジオさんは私達の身なりを見ると納得したように頷いた。
「そうか…、だが無理はするなよ?今回は勝てたがあまり調子に乗ってこういう輩を相手にするのは良くない。それで失敗してきたやつを俺はたくさん見てきているからな。」
確かに自分の実力に慢心していたかも。私より遥かに強い実力者の可能性は確かにあったし。
『ご忠告、感謝致します。』
「それと、さっきの決闘…いや、手札を見せてくれというのは冒険者としてタブーだな。何でもない。コイツらのことは俺に任せてくれ。気をつけてな。」
無詠唱のことを訊ねようとしてたけど、ジオさんは自重してくれた。私は、お金だけ頂いてレイのところへと戻った。
改めて食事を済ませた私達は再びマテネの森へと向かっていた。
『思わぬ収入が入ったし、この国から出ていく日が一気に近づいたわね。』
「姉さん、これからは…」
『うん、無理はしない。』
今度からは実力を測ってからにするわ。
「ところで何でまた森の中に?まだ依頼受けてないよ?」
まだ言ってなかったわね。
『しばらく野宿になるでしょう?だからね、森の中に簡易版の家を建てるの。』
「森の中で?何で?」
『町の中に勝手に建てるわけにはいかないでしょ?魔物が少なくて近くに川がある場所、探すわよ!』
「えっ!?うん、わかった!でも、もし無かったら…」
『そんなのは無かったときに考える!ほら、探しましょ!』
レイって何か気が弱いなあ…。私が弟が欲しいと願ったのは私を頼って後ろについてくる感じに憧れていたからかな?いつか姉離れできるといいんだけど…。姉離れ…、自分で言うのもなんだけど初めて聞いた。 こうして、しばらく拠点になるであろう場所を探すことにした。
シアン(魔物出ないで、出ないで…。フリじゃないのよ…。)




