出会い
いよりはすぐに見つかった。
結果は俺の予想した通りだった。いよりは中年親父とラブホに向かっていた。ストーカーのように後ろをつける俺それが惨めで仕方がなかった。
「おじさん。私、新しいバックが欲しいんだー。」
いよりが男に言うと男はすぐに返す。
「なめてんじゃねーぞ、この援交女。お前に高い金払ってやってるだけでもありがたいと思えないのか」
「何その態度腹立つ。私帰る。」
いよりが元来た道を戻ろうとすると男がその手をつかむ。
「ほう、録音してた君がさっきまで話してたこと。それと仲間がとった君の写真全部ばらまいてもいいんだけどなー」
後ろからでもふたりの空気が凍りつくのがわかった。
男はいよりの手をつかむとそのままラブホへと連れていく。いよりは下を向いたまま抵抗しようとしない。ふたりはラブホの中に入って行った。
これでいいのか?
いや、良くない。
俺は一人ラブホに突入チェックインしようとしていた中年親父を殴る。そしていよりを奪還しヒーローになる。
そう頭の中で反芻しながら走る。そしてラブホに突入。
いた、二人がいた。予想どおりふたりはチェックインしているところだった。俺はうわぁーと訳の分からない叫び声を上げながら中年親父に向かって走る。
突然の出来事にふたりはあ然として対応できない。これならいける。
予定通り中年親父の右頬に思い切り拳を喰らわせた。そこまではよかった。
「なんだてめー」
予想外。
俺のパンチは威力など微々たるものだったようだ。
気づいた時には午前一時になっていた。心配するかと思ったがそんな相手いないことを思い出す。父親がアル中になって自殺しその後母もどこかの男といい仲になって滅多に帰ってこない。
母親は生活費はちゃんと送ってくれるので別にいいと思っていたがこんな時自分を心配してくれる人がいないというのはなかなかつらい。
あのあと、ここ、つまりラブホの裏道で男に散々暴力を振るわれ気絶した。ポケットに財布の感触がない盗まれたのだろう。
スマホを男に盗られて壊されるところで俺の意識は途絶えている。ああ、予想どおり近くに粉々のスマホがある。
足音が聞こえた。見覚えのある人影が近づいてくる。そうだまだ俺を心配してくれる人がいた。
目の前にいよりがいた。
彼女は
「何あんた?誰?気持ち悪いんだけど。何やってんのあんたのせいであのくそやろうあたしに八つ当たりしてきたんだけど。」
優しい言葉を
「あんた、うちの学校の制服着てるってことは何?あたしを守ろうとしたってこと?ホント迷惑」
持ちあわせて
「あたしはあたしの意思であたしのためにお金が欲しいからやってるの」
いないようだ。
いよりは去って行った。その後遅れて男もホテルから出てきた。俺を一瞥してうすら笑みを浮かべながらどこかへ行ってしまった。
裏道で呆然としていた。もう、どうでもよかった。今、虐殺の映像をみせられても何の感情も抱かないだろう。何に対する感情も今の俺にはなかった。
どこかの低偏差高校の制服を着た三人の男子が近づいてくる。俺を見てさっきの中年親父と同じうすら笑みを浮かべている。俺は暴力をふるわれるのだろう。
なぜだろう。全てどうでもいいと思っているのに死にたくないと思った。
そうだ、俺はまだ死にたくない。
そう思ったら力が出てきた。俺は何とか立ち上がる。三人の内ひとりが何かいいながら俺を殴ろうとする。
なぜだろう。殴られて頭が変になったのか殴ってくるのがゆっくりに見える。それに体が勝手に動く。俺は拳をすれすれでかわし男ののど仏から指三本分下の位置に中指の第二関節を曲げて出てきた骨を突き立てる。男は大きくせきごみながら倒れた。
他のふたりは驚き後ろに下がる。暴力を振るうためのサンドバッグだと思っていたものに反撃を受けたのだその驚きはいかほどか容易に想像できる。
一人撃退できたが二人いっぺんに来られたら今の体力的にきつい、できれば二人にはここで逃げてもらいたい。
しかし二人は俺に向かって来た。
いつの間にか二人の後ろに薄茶色のコートを着た男がいた。男が二人の首根っこをつかむと二人は白目をむき男が手を離すとそのまま倒れてしまった。
薄茶色のコートを着た男がこっち来る。よく見ると男はサングラスをつけていた。明らかなマフィアの人だった。その姿は台湾のマフィアとして映画で出て来る男にそっくりだった。
「貴方がケン」
「えっ、何で俺の名前を?」
「初めまして我ら教団の次期教主ケン様。私は・・・」
駄目だ。意識が保てない。殴られ過ぎた。
俺はこの人は誰で自分はどうなるのだろうという疑問と少しの希望を抱き意識を失った。