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アサシン・エムブレム  作者: 銭田さん
1/6

現実

 懐かしい感じがする。

 

 公園には灰色の物置がある。木に登り木から物置の屋根に飛び移る。そこで無邪気に遊ぶ同年代の奴等を見下すのが俺のお気に入りだった。


 「馬鹿だな。そんなことしてどうすんだか。俺みたいに大人のようにしてあきらめて生きていくのが正しいのにほんとガキしかいねなー」


 誰にも聞こえないようにしながらそんな独り言をつぶやく。


 「みんなケンみたいだったら世の中終わりだろーねー」


 俺の独り言は聞かれていた。俺より大分身長が高いその女は易々と屋根の端をつかみ握力一つで俺のところまで上ってきた。


 女の名前はいより。

 

 身長は学校で一番高くいわゆるモデル体型というやつだ、と言っても小学生なので大人のモデル体型とは身長が大分足りないがそれでも中学生と比べても問題にならない程の身長だった。

 

 それでいてデカ女などと言われないのは彼女の雰囲気による物だった。彼女のどこか大人の雰囲気が彼女を馬鹿にしようとするものに抵抗力を与えそれをさせまいとする。


 同年代の奴より、いよりは大人だった。


 「うるせーな他の女子と遊んでたらいいだろー。俺は一人でゆっくりしていたいんだよ。」


 「そんなことばっかり言ってるから、健太も英治も構わなくなっちゃうんだよ。」


 「昔、友達だからってなんだってんだ。あいつら習い事始めてから別の教室の奴らとつるむようになって・・・」


 健太と英治とは幼稚園時代から仲がよかった。俺と健太、英治そしていよりの四人でいつも遊んでいた。

 

 しかし二人とも親の言いつけで習い事をはじめてそれ以来なぜか気まずくなってあまり話さなくなってしまった。


 「ほんとは寂しいんでしょう?」

 

 いよりの顔が間近に現れ思わずのけぞる。


 「うっ、うるせーなー邪魔なんだよお前は」


 「はいはい、どうしても遊ぶ相手がいないなら女子の遊びに加えてあげるから寂しくなったらいつでも言ってね」


 「ばっ、馬鹿野郎そんなことぜってえーしねーよ」

 

 俺の言葉を聞くと、はいはい分かりましたよーとか言って屋根から降りるとどこかへ行ってしまった。なぜかその時いよりとは健太や英治みたいな関係になりたくないなと思った。



 



 うるさい蝉の鳴き声と部活動の声で寝ていた俺は目を覚まさせられた。


 時刻は一四時三一分。


 今日は土曜日の授業がある日で十二時に授業は終わったが来たる期末考査に向け図書室で勉強していた。


 俺は勉強をしながら寝てしまったらしい。


 この学校の図書室の机はすべて窓の近くにある。狭い知識だけでなく外の世界も見なさいというメッセージらしい。


 そんなどうでもいいことを思い出してふと、テキストをみてみると恐ろしい光景が広がっていた。


 俺のテキストにはねばねばした液体が付いていた。瞬時に悟り頬を触ると頬はそのねばねばした液体でビトビトだった。


 まわりに見られていないことを確認しティッシュを取り出し頬を拭く。


 しかし問題はまだ残っている。テキストについたその液体だ。拭き取ってもテキストにはシミが残るだろう。


 「ねぇあれ沖田先輩じゃない。うわ、隣に歩いてるのいよりじゃん。」


 隣の席の定番女子ふたりで勉強するスタイルで勉強する女子2人の会話。さっきまでは聞こえてすらいなかったが「いより」という単語を脳はしっかりキャッチしたらしくその部分だけはっきり聞こえた。


 ふたりに気づかれないようにふたりの目線を辿る。


 そこにいたのはいよりだった。


 いや、いよりだった者だった。


 身長は相変わらず高く完全にモデル体型になっていた。昔綺麗だと女子達の間で有名だった黒のポニーテールは消え失せ今は茶色い名前の分からない短髪になっている。


 隣にいるのは俺の一つ年上のおそらくこの学校で一番のイケメンの沖田優弥という男だった。


 ふたりは手をつなぎ下校するところだった。


 「何あれ、見せつけてるよね。マジウザインだけど」


 「この間まで宮崎先輩と付き合ってたのにホントいよりってビッチだよね」


 「まじむかつく」


 昔、俺といよりは友達だった。昔から俺といより後二、三人で一緒にあそんでいた。中学になり俺といよりは別々の学校に行った。

 

 そして、三年受験の時ストーカーまがいだとは思うがいよりの進学先をどこかから聞きつけた。俺の学力より大分上の学校だったが必死勉強してどうにか合格し同じ学校に行くことになった。


 入学式の前日いよりにあったらどんな風に振る舞おうか必死に考え自然な感じを心がけることにした。


 しかし入学式で見たのは似ても似つかぬ彼女の姿であった。





 夜八時に学校は閉まるがそのギリギリまで学校に残った。俺の家は遠くにあるので家に着く頃には軽く十時を越えている。


 疲れてうとうとしながら電車に揺られ自分の駅に着き駅のホームから町を見たときだ。


 いよりが中年親父と歩いているのが見えた。いよりの父親だろうと思っていたが・・おかしいあっちにあるのはラブホ街だあんな所に親子で行くはずがない。


 俺は焦りを感じた。そんなはずがないと信じたかった。


 


 

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