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〜咎を持って生まれた者②〜

「――有り得ない!!」



ドンッと勢いよくグラスの置かれた音を聞き、食堂に集まっている生徒達は驚いた顔でそちらを見る。


しかし音を鳴らした張本人は意に介した様子もなく、更にグラスに赤色の液体を注ぎ一気に飲んだ。



「――何で! いきなり! いなくなってんのよっ!!」


歯をむき出して叫ぶ少女。

そして少女に近付く、数人の集団。



「あら~、凄い荒れてるわねぇシエルちゃん?」



「…………」



先頭に立っていた少女に話しかけられたが、シエルはそっぽを向いて無言でワインをあおる。



「昼間からワインをがぶ飲みするなんて。あぁ、私には出来ないわそんな事~」



そんな事しないで下さいリーリアちゃん! ――と周りの取り巻き男子が叫ぶ中、少女は更に続ける。



「それで? 今や学院一の『話題の使い魔』――いえ、『話題の平民』はどこにいるのかしら~?」



一気に巻き起こる笑い声。

それを聞いて、シエルは敵意むき出しの目でリーリアを見る。



「毎度のように私に突っ掛かってきて、そんなに同性の友達が欲しいの? ハンニアース家のご息女さん?」



鼻で笑うように言ったが相手はまったく動じた様子なく、余裕の顔でこちらを見る――



「…………!!」




――とはいかずに、途端に両目は涙を溜める。



「あ、あなたなんか絶対に友達になってあげないんだから~~!?」



いつもの負け口上のようなものを叫ぶと、リーリアは食堂の出口へ走っていってしまった。

無論、取り巻きの男子も慌てて後を追いかける。


そうして一人残されたシエルは、また手酌でワインを注ぐとグラスを傾けた。



ぷはーと女の子らしからぬ息を吐きながら、思う。



(何なのよ――あいつは!!)






世界は、広大な海に点在する五つの大陸で成り立っていた。


一つは、一年の大半が雪で覆われた大陸『スノーリア』


一つは、殆どを森で覆われた大陸『ジャンガード』


一つは、昼と夜の寒暖の差が激しい砂漠の広がる大陸『ゴゴル』



一つは、安定した気候に恵まれ魔法学が盛んな大陸『ヨーグ』



そして、もう一つ。

突如海上に現れ、科学という技術を四つの大陸全てに提供し続ける謎の大陸『キカイジマ』




五つの大陸は互いに助け合い、牽制し合い、馴れ合いながら長く平穏を保ってきた。


一つの大陸に首都は一つ。

そう大陸間で提携が結ばれ、ヨーグ大陸には『インクリス』という首都が出来た。


その首都にあるこの学院、インクリス魔法学院はは、首都建国と同時に出来た由緒正しい学院である。


ここに通う為に貴族は金を積み、勉学に励み、努力を惜しまない。


――また、『魔法は貴族以外習ってはいけない』という昔のしきたりを守っているのも、この学院のみであった。         









そのインクリス魔法学院内にあるセルシアの広場。

そこから伸びる細道を幾分か行った場所に湖があった。


名をグヴァンの真湖といい、生徒でさえその存在を知る者は少ないという、穴場のような場所だ。


そんな、森に囲まれ薄暗い湖のほとりに佇む者がいた。

自分の左手の甲を見つめ無言で立ち尽くすのは、シエルに呼び出された、あの少年。

長い前髪から覗く目には何やら深い感情の沈みこみが窺え、しかしその意味する所を知る者はいない。


少年は、先ほど起こった出来事を思い出す。


無意識に指で唇をなぞると、あの時の柔らかな感触が、今も残っているような気がした。



「……誰ですか?」



途端、少年は喋り出す。

その言葉に合わせるように木々が揺れ、次いでそこから何者かが姿を現す。



「…………」



現われたのは、水色の髪をした少女と男だった。

短く切り揃えられた髪の少女は大きめの眼鏡をかけ、マントを羽織っている。


しかし男の方は簡素な、着物のような服装をしていた。

制服でない事から、彼はどうやら魔法使いではないらしい。



「あなたが今話題の、平民の使い魔?」



「さぁ、僕に言われても……」



はぐらかすように愛想笑いを浮かべる少年。


それを見て、眼鏡の少女は静かに近付く。



「私の隣にいるのが、何か分かる?」




唐突な質問だった。

少年は少し驚いた顔をし、そして諦めたような、小さなため息をつく。



「人へ変身のできる、上位種の風竜ですよね?」



「!?」



少年の答えに少女は驚いた表情をし、風竜と言われた男は険しい顔をする。



「僕にそういう事を聞くって事は……気付いてるんですよね?」



今度は少年が問いを投げかける番だった。

それを聞いた少女は更に少年に近付き、今や手を伸ばせば届く場所に立つ。



「私の使い魔、風竜のレイがあなたを見た時に違和感を感じたらしい。人のようで、竜のような相反する魔力が入り交じった、そんな感じがしたって言っていた」



「まさかとは思うが、君は……」



レイと言われた男は気まずそうに喋り始めると、少年は哀しそうな目で、その言葉の続きを受け取るように言葉を発する。



「やっぱり『同族』は、しかも上位種は騙せませんね。僕は――竜の、咎人です」



笑って言った少年の顔はどこか淋しく、哀しく、湖面の揺らめきにさえ消されそうなくらい、朧気に見えた。











――竜の、咎人。


今も昔も、世界には変わらない事というものがある。


それは、異種族間での交わりの禁止。

これは異種族間では奇形児の生まれる可能性が高いのと、元々違う理で生きる者同士が共に生きるには障害が多すぎるという、長く続いた歴史に基づいた事であった。


だからこそ人間は自分の領域を広げようとはせず、他の種族も入ってこようとはしない。


それが長い年月と、幸せになれないと分かってても愛し合い、悲運の最後を遂げた者達から得た教訓であった。







――しかし、そんな中でごく稀に『希望』を掴める者達がいた。



その希望とはすなわち――子供。



健康体の子供を持つ事は愛し合う者達にとって、まさしく二人の愛の結晶といえた。


しかしこの世界でそんな子供が生きるのは、愛し合うのと同様に難しかった。


二つの種族の力を受け継いだ子供は俗に『咎人』と言われ、更に種族によって分類された。


そう……決して人ではされないような、分類をされた。


竜の咎人とはその名の通り、竜と人の間に生まれた子供の事を指す。


そしてその力は、咎人の中で最も畏れられ異端視される、竜の魔力と凶暴さを人の身体に押し込めた『化け物』とされていた――




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