至高のアート
私
…本性は狡猾でずる賢い。馬鹿には見えな い不思議なアートを完成させる。
待ち人
…アートに対する情熱はあるが、観察眼はな いエリート。
彼女(朋子)
…私の彼女。インテリ系。
4畳半の畳の上、私は何もすることなく、ただ時が流れる楽しみに浸りながら、仰向けになっていた。一昔前の蛍光灯、傷んだ畳、穴の空いた襖、壁の塗料は一部剥がれている。だが、私はこの部屋が汚いと思ったことはなかった。24インチの液晶テレビの背後の壁に掲げた私のアート。馬鹿には見えない、まるで裸の王様という童話のような、夢のアートがそこにあるのだ。訪問客で私のアートに気付いた者は、未だ一人としていない。私以外見ることのできないそのアートのそばにいる時間が、私にとって至福の時間であることに間違いはなかった。
私はちらりとカレンダーを見る。9月11日。その日は私の部屋にある訪問客が訪れることになっている。待ち遠しいという気持ちを噛み締めて、今日の午後に、ある予定が埋まっているので、その準備を始めた。
私が午後に出かけている間、私の部屋では至高のアートが眠っている。待ち人にそう言っても、待ち人が私のアートを理解出来るわけがなかった。なぜなら、この待ち人は馬鹿なのだから。私は優越感に浸りながら、待ち人と紅茶を嗜んでいた。
紅茶の残りが半分になった頃、ようやく本題に移った。私の芸術作品を美術館へ寄贈するという提案、それこそがこの話し合いの腰にして、私の求めてきた長年の夢。ついに私の芸術が認められた日が来たのだと思うと、私の心臓ははち切れそうなくらい歓喜に鼓動していた。紅茶を全て飲み終えてからティーカップを置き、私はゆっくりとした口調で、待ち人である美術館のオーナーに言った。
「私の至高の作品たちをついに認めたのですね。あなたは見る目があるようです。ついでといっては何ですが、もう一品。私の最高傑作をあなたに推薦したいんですよ」
最高傑作とはもちろん、他でもないあの4畳半の部屋にある至高のアートである。この馬鹿なオーナーに理解を求めるのは難しいことだが、私の夢のため、そしてあの至高のアートのためにも最高傑作を寄贈することには大きな意味があった。
私は早速、部屋にオーナーを招き入れた。オーナーは部屋に入るや否や、ワォ、と感嘆の言葉を漏らした。その反応に一瞬ひるむ。こんな馬鹿なオーナーに私の至高のアートが見えただと…?そんなわけないと思っていたが、オーナーは間違いなくテレビの後ろの壁を見ていた。オーナーはぜひ飾りたいと懇願してきたので、利益の一致という言葉が当てはまる程に、すんなりと契約が決まった。
オーナーが私の部屋から消えて数十分が経つ。私は未だに理解出来ずにいた。私は1日にカレンダーを何度も見るのはあまり趣味ではないが、今日という日は見らずにはいられないのだ。9月11日、私の愛する彼女の訪問の日である。私の彼女は馬鹿ではない。だからこそ、彼女には私の至高のアートを美術館に寄贈する前に見せてあげたかった。そう、彼女を私の最高傑作見物の第一人者にしてあげたかったのだ。契約は成立したが、私の心は晴れない。そこで、私は嘘をつくことにした。彼女には第一人者になってもらうことにしたのだ。
9月11日、私の部屋にノックの音が響いた。今日の嘘に心を痛めながらも、ドアを開けると古風な雰囲気のあるワンピース姿の彼女がそこに立っている。私は明るく迎え入れるとまず、彼女にコーヒーを出した。彼女は狭い部屋にもかかわらず、部屋のインテリアに目を輝かせていた。が、壁にある至高のアートには目をくれる様子はない。私は少しおかしいなと不満が生まれたが、私の作品を紹介しておきたいと考えていた。
「朋子、これを見てくれ。これはな、私の最高傑作なんだ。どうだ?凄いだろう」
そう言いながら、壁に掲げられた至高のアートを指差した。しかし、彼女の反応は全く思いもよらない反応を示した。彼女の顔は困惑でいっぱいなのである。
「?…何にもないけど…?」
この言葉は彼女が私の意に反して馬鹿であることを証明するには十分だった。私はその後の記憶がない。
目を覚ました時には病気のベッドの上だった。彼女が言うには突然、気絶したらしい。私は曖昧な記憶をもとに、彼女の気を悪くさせないようにすることで頭がいっぱいだった。
その数週間後、美術館で展示された私の至高のアートが批判を炎上させ、評判を貶めたのは、私とごく少数のアートが見える人以外、容易に想像がつくものだった。
丸1日で仕上げた作品です。