第一話-a「少年魔術師アイン"ひとりぼっちのお城"」
剣と魔法の世界「ユグドラディウス」
辺境の地にある不帰の森フュージ樹海。
まともな人間なら決して足を踏み入れる事はないこの魔境にはいかなる魔物も侵入出来ない強力な結界が張られている事を知る者はいなかった―――
その結界の主は一人の少年魔術師。
名前は『アイン』という。。
彼は大変偏屈な事で知られていた魔術師「アルク」が養子として迎え入れた唯一の人間であり、
アルク亡き後も外界からの繋がりを絶ち自らの研究を進めていた。
外界からの接触を断って行く事に対して通常であれば多少なりとも不安はあるだろうが
アルク以外の人間と交わる機会の無かったアインにとっては生きていけるだけの資源が手に入るこの土地でただひたすら魔法の限界を求める日々に不満は無かった。
しかしながら突如としてその平穏が破られる事になる。。
研究を続ける生活を続けるある日アインは書籍の束からある一つの
「魔術の巻物≪エンチャントロール≫」を見つける。
所々すすきれていて価値のなさそうなものではあったが
かろうじて読める題名の部分に大きく魅かれていた。
「究極の魔術を手に入れる為の秘宝」という記述に。。
アインは「究極の力」という言葉に鼓動の高鳴りを感じた。
その力を手に入れたいという思いを早く叶えるべく早速ロールの修復に取りかかった。
先ずはインクがかすれている部分を補修しなければならない。
吸着草という魔力を帯びた物を引き寄せる特殊な草で出来た紙を押し当てる。そうすることで紙の中にある微量なインクを表面に浮かび上がらせるのだ。しかしこの作業はやり過ぎると吸着紙にインクが持っていかれる為、細心の注意が必要である。
修復しきれなかった部分はやり過ぎない様注意しながらペン入れをしていく。
修復が終わっても完成ではない。古いエンチャントロールには悪用を防ぐ為に意図的に作られた空白の部分がある。そこで「説明文」と呼ばれる解呪用に書かれた添付文章の修復に取りかかる。
「説明文」は本体以上に傷みが激しく、完全な復元は不可能であった。
が、しかしアインは古代文字の文法から虫食いされた部分を埋めていく。
そういった内容自体は単純であるが神経を使う作業を、物心付いた頃から魔法の研究を続けてきたアインは容易く進めてきた。
そうして遂に最後の仕上げ――魔方陣の補完作業にたどり着いた。
実はこの時点では「説明文」の修復は完全ではない。しかしながら彼には成功するという確かな自信があった。
完成した魔方陣は眩いほどの閃光を放ちながら広がっていき
半径200メートルはある結界を覆い尽くす巨大な光の柱と化した。
大変な現象が起きたが外界の人間にとって未踏の地であるこの森においてその光景を
見たものはアインを除けばただ一人だけであった。
そしてその一人も自身を変える大きな旅に巻き込まれることとなる。