2話
「これもだ……」
新しく造り出した家の中でクレアートルは全てのマンガやライトノベルを読み回しながら呟く。
「これも…これも…これもだ」
何かを確認するように本を確認していく。
「この本に出てくる高校とはなんだ? 魔法学園みたいなものか、殆どの作品にこの高校が舞台となっているとは何故だ?」
本の中に出てくる高校というものに興味を持ち、すぐさま世界の理に干渉する。
「ほうほう、勉学を行い知識を高める場所か。そこでは恋愛、友情などの青春も体感できるという……いいな、凄くいい!」
目を爛々と光り輝かせ、クレアートルは声を上げる。
「ということはだ、高校に行けばこのマンガやラノベに出てくるような主人公やヒロインが出てくるということか!?」
クレアートルは戦慄したように体を震わせる。
「そうと決まれば、私の戸籍の年齢を16歳にして、近くの高校に編入という形で行くことにしよう!」
言うや否や、前回のように事象に干渉し、自らの身分を書き換え学校に行けるように世界を改ざんする。
「ふふふ、これでいい。これで3日後に私は高校生となる。よもや勉学など私にしたら必要ないものだが、青春というものと主人公やヒロインを見てみたいのでな。世界よ許せ……」
かなりご機嫌らしく、笑いが漏れる。
長髪でぼろぼろのコートを着た男が笑っているのだ。端から見たら不気味だろう。
「さて、いよいよ今日は高校に行く日だ。ああ、もう待ち遠しいよ……」
翌日になり、クレアートルは制服を着用し一人テンションが高かった。
彼の目的は極めて簡単。
高校で友情や恋愛などといった青春を見ることと、本やアニメで出てくる主人公やヒロインのような人間を見ることである。
他の人が聞けばもの凄くくだらないことだが、この男にとってはもの凄く大切なことなのである。
「ではゆくぞ新天地へ!!」
「ええ、これからこのクラスに編入して来た榊朧君だ。みんな仲良くしてあげるように」
教師が紹介すると、生徒達がそれぞれ反応を示す。
あれから登校時には何のイベントもなかった。凄く残念でならない。
そればかりか、探し求めた主人公達も見つからなかった。
少しがっかりしたが、まだ希望は捨ててはいけない。
見つからないが必ずいると信じて。
あれから何人の生徒と話しかけ交流をかわしたが、私が探し求める人物達はいなかった。まあ、それなりに新鮮さは感じたが。
そして今は休み時間。
静かに学校を確認するために、自分を魔法で認識させなくして屋上にたたずむ。
そして、学校をここから全て見渡すのだ。見渡し始めて数分が経ち、ふと私の目に何かが目についた。
学校の中庭に1人だけポツンと座り込んでいる1人の男子生徒。これといって何の特徴もなく。平凡な髪型に平凡な容姿。1人だけ孤立している只の人間。
一般人ならそれだけの評価で終わるだろう。
だが、朧はそれだけでは済まさない。
朧は目を見開いた。彼は容姿こそ平凡極まりないが、内包している魂が桁外れに違う。一般人を遥かに超えている。格が違う。まるで彼を中心に世界が回るように……。
「ふふふ、ふははははははは……」
突如、朧は笑い声を上げる。
「見つけた。ついに……見つけたぞ」
両腕で己を抱きしめ、歓喜にうち震える。
「間違いない。あの者こそが主人公だ。やはりこの学校を選んだ私の目に狂いはなかった」
片手で顔を覆い、指の隙間から片目だけを青年に向ける。
「喜びたまえ少年よ、君を中心に世界は回る。君が望もうが望まないが、その因果は君を決して逃さないし離さない」
なればこそ……クレアートルは行うはただ一つ。
「彼を中心に世界を楽しもう。サブカルチャー……いわゆる『萌え』というものも素晴らしいが、彼もまた素晴らしい。ふふふ、この世界に来て楽しみがまた一つ増えた。楽しみでならないよ」
退屈すぎて詰まらなかった一柱の神が、感じたことも見たこともない未知の体験を続ける。
こんなことが今までにあっただろうか?
彼が笑う同時刻、1人の青年が全身に寒気を感じていた。