ある夏の日に
暑い。いくら日陰になっているからといっても暑いものは暑い。もうどうにかなってしまいそうだ。第一何でこんな暑い日に外で読書なんてしてるんだろう?…ああそうだ。あいつのせいだった。暑さで危うく忘れてしまうところだった。
課外のせいで短くなった夏休みも残りはわずか。なんとか無事に宿題も終わり、残り数日はひたすら怠惰な生活をしようと決心して今日が3日目。今日も朝から、エアコンの効いた部屋で読書、という至福の時間を過ごしていた。
そんな時あいつが現れた。
「たまには外に出なさい!」だと?ふざけるな、今を何月だと思ってる!お前は鬼か、と言いたくなる。だが、言ってしまうと自分は鬼の子ということになってしまう。それはできれば避けたい。
しょうがないので読みかけの本を片手に家を出てきた。
さて、外に出たはいいものの、これからどうしようか。読書に最適な場所といえば図書館だが、そこまでの体力・気力ともに備えていたら僕ではない。
椅子とか何かしら座れるものがあって、お金のかからない場所―。
ふと、昔一度だけ行ったことのある近所の公園を思い出した。公園なら座るところもあるだろう、と思い行ってみることにした。
久しぶりに見たそこは、あまりにも静かだった。
人が全く見当たらない。子供たちの声も、お母さん達の世間話の声も消え去っていた。ついでに、遊具も最後に見かけたときの半分以下になっていた。
静かなら静かでいいかと思い直し、早速ベンチを探すが…見当たらない。仕方ないので、かろうじて木陰が残っているブランコに座ることにした。
「隣り、いいですか?」
物語が佳境に入った頃、いきなり頭上から声が降ってきた。本に夢中だったので、顔を上げることもせず、どうぞとか適当に言っておいた。
だが、それからも、その人の口は止まらなかった。
「いい天気ですね」とか「このへんに住んでるんですか」とかどうでもいいことを話しかけてくる。途中までは適当に本を読みながら返事していたが、あまりにもしつこいので、文句を言おうとして本を閉じた。
そして、顔を上げた瞬間、言葉を失った。そこにいたのは―ありきたりな言葉で表せば―綺麗な女の人だった。
「よくここには来るんですか?」
「いや、久しぶりに…」
「私も実は久しぶりなんですよー。昔は結構頻繁に来てたんですけどね。…いいですよね、ここ」
普段、無駄と思っている雑談というものが、彼女とだと苦でなかった。寧ろ楽しいとさえ感じた。
「じゃあ私はそろそろ…」
気がつくと陽は半分以上沈んでいて、若干ではあるが、さっきまでより過ごしやすくなった気がする。
「また、会えるといいですね」
そう言って彼女は、公園を去っていった。僕はその姿が見えなくなった後も、しばらくそのままぼーっとしていた。
家に着く頃にはすっかり陽も沈み、今度は、一体何時まで遊んでいるんだと怒られた。でも、そんな声も、僕には遠くで話しているようにしか聞こえなかった。
視界がどんどん暗くなっていく…。
あの時の僕は気づいていなかった。木陰がいつまでも木陰であるはずがないということ。あの時彼女は麦わら帽子を被っていたこと。
そして…僕は彼女の名前すら知らないということ。
あの公園に行けば、また彼女に会えるだろうか?
そんなことを思いながら、僕の意識は暗闇へと沈んでいった。
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