表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある夏の日に

作者: 那乃彦
掲載日:2013/06/28

 暑い。いくら日陰になっているからといっても暑いものは暑い。もうどうにかなってしまいそうだ。第一何でこんな暑い日に外で読書なんてしてるんだろう?…ああそうだ。あいつのせいだった。暑さで危うく忘れてしまうところだった。





 課外のせいで短くなった夏休みも残りはわずか。なんとか無事に宿題も終わり、残り数日はひたすら怠惰な生活をしようと決心して今日が3日目。今日も朝から、エアコンの効いた部屋で読書、という至福の時間を過ごしていた。


 そんな時あいつが現れた。

 

 「たまには外に出なさい!」だと?ふざけるな、今を何月だと思ってる!お前は鬼か、と言いたくなる。だが、言ってしまうと自分は鬼の子ということになってしまう。それはできれば避けたい。



 しょうがないので読みかけの本を片手に家を出てきた。

 さて、外に出たはいいものの、これからどうしようか。読書に最適な場所といえば図書館だが、そこまでの体力・気力ともに備えていたら僕ではない。


 椅子とか何かしら座れるものがあって、お金のかからない場所―。

 ふと、昔一度だけ行ったことのある近所の公園を思い出した。公園なら座るところもあるだろう、と思い行ってみることにした。






 久しぶりに見たそこは、あまりにも静かだった。


 人が全く見当たらない。子供たちの声も、お母さん達の世間話の声も消え去っていた。ついでに、遊具も最後に見かけたときの半分以下になっていた。

 静かなら静かでいいかと思い直し、早速ベンチを探すが…見当たらない。仕方ないので、かろうじて木陰が残っているブランコに座ることにした。






「隣り、いいですか?」


 物語が佳境に入った頃、いきなり頭上から声が降ってきた。本に夢中だったので、顔を上げることもせず、どうぞとか適当に言っておいた。





 だが、それからも、その人の口は止まらなかった。


「いい天気ですね」とか「このへんに住んでるんですか」とかどうでもいいことを話しかけてくる。途中までは適当に本を読みながら返事していたが、あまりにもしつこいので、文句を言おうとして本を閉じた。


 そして、顔を上げた瞬間、言葉を失った。そこにいたのは―ありきたりな言葉で表せば―綺麗な女の人だった。


「よくここには来るんですか?」

「いや、久しぶりに…」

「私も実は久しぶりなんですよー。昔は結構頻繁に来てたんですけどね。…いいですよね、ここ」


 普段、無駄と思っている雑談というものが、彼女とだと苦でなかった。寧ろ楽しいとさえ感じた。





「じゃあ私はそろそろ…」

 

 気がつくと陽は半分以上沈んでいて、若干ではあるが、さっきまでより過ごしやすくなった気がする。


「また、会えるといいですね」


 そう言って彼女は、公園を去っていった。僕はその姿が見えなくなった後も、しばらくそのままぼーっとしていた。





 家に着く頃にはすっかり陽も沈み、今度は、一体何時まで遊んでいるんだと怒られた。でも、そんな声も、僕には遠くで話しているようにしか聞こえなかった。



 視界がどんどん暗くなっていく…。



 あの時の僕は気づいていなかった。木陰がいつまでも木陰であるはずがないということ。あの時彼女は麦わら帽子を被っていたこと。


 そして…僕は彼女の名前すら知らないということ。



 あの公園に行けば、また彼女に会えるだろうか?


 そんなことを思いながら、僕の意識は暗闇へと沈んでいった。

誤字脱字等ございましたら教えていただけると嬉しいです。

また、感想なども大歓迎です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ