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13、ドザエモン

 題名変更しました。

 太陽は空の頂点に達しようとしていた。

 暖かそうな陽射しが降り注いでいたが、泉の水は冷たい。


 「ぶぇっくしょッッ!!」

 大きなくしゃみをしながら、太郎は岸へと上がってゆく。


 とりあえず、午前中の特訓で得たことは、”自分には才能が無いのではないか”という疑問だけだった。


 上着を脱ぎ、それをしぼっていると今度はエストが泉から上がってきた。

 不満そうに口をとがらせている。大方あの大ウナギが捕まらなかったのだろう。


 泉に潜っているうちに、ポニーテールはほどけてしまったらしい。

 長い金髪はぴったりと頬にはり付き、水をポタポタとしたたり落としていた。

 それだけでは無い。白のワンピースも水を含んで肌に張り付き、ボディラインをあらわにしている。


 思わず太郎は目をそむけた。


 こりゃ、マズいだろう。

 エストはエルフである。外見的には幼いが、それなりに年はとっているのだと思う。

 だが、その外見は10歳ほどだ。すなわち色気の欠片も無いのであるが、だからこそマズい。


 太郎の世界でいえば、あまり凝視してしまうと条例違反とかで捕まってしまうようなシチュエーションじゃないか?


 自分にそういう趣味は無い。

 自分のストライクゾーンは、同年代か、あるいはそれ以上の女の子だ。

 断じて小さい女の子に興味は無い。絶対に無い!


 …でも、ここは異世界なんだし、条例も無いから合法なのか?


 などという考えを、ぶんぶんと頭を左右させて振り払った。

 そして、チラリと横目でエストを見てみる。


 彼女は地面に枝を使って魔法陣を描いていた。

 その中心部をトンと叩くと、その全体から緩い風が舞い上がる。


 「タローさん、こっちで服を乾かしましょ!」


 手を上げて太郎を呼ぶ。

 太郎は軽く返事をし、やや目をそむけつつ歩き出した。


 その風は、やや熱を帯びていた。

 魔法陣による乾燥機といったところか。


 「へえ、便利だなぁ、これ」

 「本に載っていたので覚えたんです」

 「魔導書ってやつか?」

 「まあ、そうですね。”使える魔法陣百選”っていう雑誌なんですが」


 自分の世界でいうと”使えるアプリ百選”みたいなものなんだろうか。


 「そうか、師匠に教わったんじゃないのか」

 「クロエ様の研究の中心は、戦闘系の魔法陣でしたから…」


 なるほど、希代の結界士とはいえ、全ての分野に精通していたワケではないんだな。

 そう考えつつ、少し寂しそうなエストの顔が目にとまった。


 そうだ。クロエは魔王の手下と戦って、石化してしまったんだっけ。

 何か悪い事を思い出させてしまったのかもしれない。


 かける言葉を探すが、なかなか思い浮かばない。

 そんなアタフタする太郎の様子を察したのか、エストはニコリと笑顔を作って言った。


 「大丈夫ですよ!クロエ様は私が、いつか必ず元に戻してみせますから!」

 「…そ、そうだな。がんばれ!」

 「はい!」


 エルフの一生は、気が遠くなるほど長い。

 何百年という時間の中では、そのうち石化を解除できる術が見つかるかもしれないな。


 そう考えつつ、太郎は脱いだ上着を魔法陣の中に放り込んだ。

 上着は10センチほど浮き上がり、ゆらゆらとその場に浮遊し始めた。


 ズボンはどうしようか。さすがに脱ぐのはマズいだろうな。

 と考えていると、おもむろにエストがワンピースの裾を持ち、それを上に引き上げた。 


 純白のパンティと、可愛いおへそがあらわとなる。


 「スト───ップ!」

 太郎は思わず鼻水を吹き出し、真っ青な顔で”待った”をかけた。


 エストはワンピースの裾を戻し、不思議そうな顔で太郎を見つめる。


 アウトだよな?これって絶対にアウトだよな!?

 異世界だからって、許されるシチュエーションじゃないよね?


 何を考えているんだ。この娘は!?

 山奥で、女の二人暮らしだったから、常識が無いのか??


 ぐるんぐるんと思考が回る。


 そんな彼をよそに、エストは再び裾に手をかけ、それを引き上げようと試みる。


 「スト───ップ!!」


 「何なんですか?濡れてて気持ち悪いんですよ!」と若干、不機嫌そうに尋ねられた。


 「ダメ…だよね。確かにエストはペチャパイのお子さま体型だけど…」

 「悪かったですね。魅力の無い体で」

 「い、いや、違うって!そういう意味じゃないんだ。だから、俺たちって未婚の男女だろ?そういうのって…」

 「大丈夫ですよ。タローさんはそういう事しないと思うし、万が一、襲われても私のほうが強いと思うし」


 今の言葉は少しカチンときてしまった。

 エストは、またもやワンピースを脱ごうとしている。


 「ダメだって!君には羞恥心というものが無いのか!?」

 「大丈夫です!タローさん以外、誰も見てませんって!」

 「俺に見られるのが問題だろ──が!」


 その裾をつかみ、無理矢理に元へ戻す。

 もはや意固地になっていたエストも抵抗したが、さすがに力は太郎のほうが強いようであった。

 しばし力の応酬が続いたが、やがてエストが押し負け、足をすべらせて転倒してしまう。


 太郎もそれにつられて転倒した。


 「キャ!」と、小さい悲鳴を上げて倒れ込むエストの上に、太郎がおおいかぶさる形となった。


 視線が急接近し、二人は思わず見つめ合う。


 「あ、あの、ごめ……」

 「い、いえ……」


 二人の顔が赤らんだ。


 そして、しばらくの沈黙の後、太郎の背後で聞こえたのは、ドサッ…と、何かが落ちる音。

 とっさに振り返ると、そこには何やら袋を落としたアイシャと、ケイメンの姿があった。

 二人とも青い顔で、呆然とこちらを見つめている。


 頭が真っ白になると同時に、体がガクガクと震え始めた。


 震える心を必死に鎮め、太郎は冷静に自分の姿を見直してみた。


 右手はワンピースの裾をつかんだままだった。

 その裾はめくり上がり、エストの下半身があらわになってしまっている。

 すなわち、太郎がエストを押し倒し、そのスカートをめくり上げているような形となっていた。


 しかも、自分の上半身は裸の状態である。


 「い、いや、違うんだ。これは、その…」


 エストとアイシャとを交互に見やる。

 アイシャはうつむき加減で、わなわなと震え始めていた。


 そして、エストの顔に小悪魔的な笑みが浮かぶ。

 と同時に、彼女はおもむろに叫んだ。


 「きゃ───たすけて─────!」


 それは思いっきり棒読みな声であったが、突然の訪問者に説明するには十分なセリフであった。


 「ゆ、勇者様…あなたは、何てことを……」

 「まさかロリコン野郎だったとはな。サイテーな奴だぜ」

 「ち、違う、聞いてくれ。まず俺の話を聞いてくれ!」


 立ち上がり、手を振りながら無実を訴えたが、もはやそれを信じる者はいない。


 つかつかと、無言で太郎に歩み寄るアイシャ。

 太郎は真っ青な顔で、必死に無実を訴え続ける。


 やがて、アイシャは彼の前で立ち止まると、おもむろに拳を振り上げた。


   ◇◆◇◆◇


 山のふもとにある泉。

 緑に囲まれ、小鳥のさえずりが心地よい、平和な泉。


 だが、その泉に穏やかならぬモノが浮かんでいた。


 太郎である。


 彼はうつ伏せで、まるでドザエモンのように、プカプカと泉に浮いていた。

 その澄み切った水を赤く濁しているのは、恐らく彼の血であろう。


 そんな彼に、岸からケイメンが声をかける。

 「いや~、すまんすまん。話は聞いた。そうならそうと言ってくれれば…」


 「だから説明しようとしたんじゃないかよ!」と、太郎は顔を上げて抗議する。


 「ダメですよ。エストさん、男子の前で服を脱いだりするのは…」

 気まずそうにアイシャがエストを諭す。だが、エストは納得してなさげであった。


 「でも、タローさんは知らない人じゃないし」

 「知っている男子の前でもダメなんです!」

 「はーい」


 この泉は、初心者がマナの訓練をするには、定番の場所らしかった。

 二人は太郎とエストのために、お弁当と着替えを持ってきてくれたらしい。


 その後はお昼を食べ、特訓を再開した。

 だが結局、太郎はマナを放出することはできなかった。


 午後の特訓も”自分は才能が無いのではないか”という、疑問を上塗りするだけの結果になったのである。


   ◆◇◆◇◆


 そして、その日はやって来た。


 クラウの闘技場。それは太郎が思い描いていた”古代ローマの闘技場”ほど壮大なものでは無かった。

 例えるならば、片田舎の野球場。そのグランドをひと回り小さくしたような感じだった。

 ただ、外からは見えないように囲いがされている。


 観客席は満席では無かった。恐らく一般公開はされていないのだろう。

 客層から見るに、都市の富裕層だけが招待されたといったところか。


 ゲートの前で太郎は待機する。

 軽装の革鎧をまとい、頭部には顔までおおわれた兜、右手には剣、左腕には小型の盾を付けている。


 体の芯が震えるような感覚、これは武者ぶるいだと思いたい。

 しかし、それが緊張であることは、薄々感じていた。


 小学校の運動会や学芸会、中学でのクラスマッチの本番前と同じ感覚だった。

 あれは一定の時間が経過すれば終わったし、自分が恥をかけば済んだ。しかし今回はそうはいかない。

 倒すか、倒されるか。命をかけた殺し合いだ。


 上の観客席にはロージンたちが座り、自分に何か叫んでいる。

 だが、言葉が全く耳に入ってこない。


 やがて、ゲートが左右にゆっくりと開かれてゆく。


 そこで太郎の緊張ゲージがMAXを振り切った。

 悪い癖だとわかっているが、逃げ出したい衝動にかられ、背後を見やる。


 だが、金網で塞がれた退路を見て、もはや逃げられない事を悟った。


 覚悟を決めて、ゆっくりと足を前に踏み出してゆく。

 観客の応援や罵声、様々な感情を含んだ声が、会場に渦巻いていた。


 太郎は呆然と、正面にある対戦相手のゲートが、ゆっくりと開かれてゆくのを見ていた。





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