表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

弐.村の伝承

 分からない事が二つ。一つは、結城兄妹の会話。もう一つは、いきなり態度を豹変させた実弥。俺に隠したい事でもあるのか―…?

 今日に至っては、結城兄妹は学校にも来ていない。実弥は何も言わないし、先生も深く説明しようとしない。

「…なぁ、実弥」

「うん?」

 ちょっとためらいもあったけど、聞かなきゃ気が済まない。

「光流達って、どうしたんだっけ?」

「光流と光理なら、お父さんの仕事で東京だよ。今日にはちゃんと帰ってくるって」

「………え?」

 そ…それだけ?

「なぁんだっ!心配して損したぜ。何かさ、深刻そうだったから気にしてたんだ」

「きっと、遊鳥村を離れるのが嫌だったんだよ。雄介君は心配性だね」

 実弥が笑う。

「そうだな…」

 こんなのどかな村で、変な事なんてそうそうないよな…何考えてたんだろ、俺。

「それより雄介君、早く座らないと先生が来ちゃうよ!」

 実弥に言われて席に戻ったとたん、先生が勢い良く入ってきた。

 助かったーっ。実弥がこっちを見て少し笑う。

 でも、実弥の事ではまだ安心できない。まだ、腕にアザが残っている…。

 結局その日は、実弥が気になって授業が全く身に入らなかった。


「雄介君、帰ろう?」

 実弥に誘われても、俺は乗り気にはなれなかった。

「……よしとく。悪いけど」

 実弥がいきなり悲しそうな顔をする。

「い…一緒に帰っちゃダメかなっ?」

「俺、用事あるからさ」

 本当は、用事なんてないけど―…。

「どうしてもダメ?」

 っ、何だ?今日はやけにしつこく言うな。

「今日、何かあったか?」

「うん、今日はね、『肩祓い』があるんだよ」

「カタ…バライ?」

「そう、お祓いでね、身を清める儀式なんだよ。雄介君も、村人として参加しなきゃ!」

 お祓いか…。そういう類は、一切信じていない。そんな事を言われても、行く気は出なかった。

「俺、忙しいから」

 俺がそう言って帰ろうとすると、実弥がぼそっとつぶやいた。


「時乃神が来る」


 俺はぴたりと足を止めた。つぶやきに足を止めたんじゃない。ただならぬ殺気を感じたからだった。


「行 か な い と」


「……っ…」


「行かないと時乃神が来てしまう」


 実弥が、昨日みたいに…ツかれたように…。

 

「実弥…?」

 俺が呼ぶと、実弥ははっと我に返ったようだった。でも、

「一緒に行こ?」

 こう言うのはやめない。

「俺、用事済ませたら行くからさ…先行ってろよ」

 なるべく動揺がバレないように言ったつもりだったが、それでも声が震えた。

 実弥は満足したようにうなずき、神社の場所を教えて行ってしまった。

「……何なんだよ、アレ…」

 ツかれたような実弥、不思議な名前の神様、肩祓いの儀式…何なんだよ、全部全部…。

 

 もやもやしたまま家に帰ると、見慣れない女の人が立っていた。じっと俺の家を見つめている。

「あの、どうか?」

 俺が声をかけると、その女性はにこっと笑って俺の方を向いた。

「あら、ごめんなさい。私はこういう者」

 女性が名刺を差し出す。名刺には、『折原 祈―おりはら いのり―』という名前が書かれていた。

「よく遊鳥村に遊びに来てるのよ。この村に興味を持っていてね…。前来た時にはこの家、なかったわよね?それで、気になっちゃって」

 確かに俺の家は、最近越して来たばかりだ。まだ建てて一ヶ月程度しか…。

「はぁ…。あ、俺、雨宮雄介って言います。折原さんは、もともと遊鳥村の出身じゃないんですか?」

「ええ、そうよ…でも、遊鳥村の知識にだったら自信があるわ。例えば、『時乃神』…とかね」

 実弥が言っていた…時乃神。

「あの…時乃神って、何なんですか?友達にも言われたんですけど、俺分からなくて」

 折原さんは少し意外そうな顔をし、それから答えてくれた。

「時乃神はね、遊鳥村の神様。村人達の良き守り神。ただね…」

「ただ?」

「こわぁい神様でもあるの。汚れたものををひどく嫌う…。汚れた罪人の所には、時乃神がやって来る。だから、身を清める儀式、肩祓いには、参加するのが鉄則なのよ」

 それで実弥はあんなに言ってたのか…。遊鳥村の話を知っていたから…。

「遊鳥村の事が知りたいなら、これはどうかしら?」

「へ?」

 折原さんは、手持ちのかばんの中からノートを取り出した。

「私なりに調べた、遊鳥村の話。また一週間後に来ようと思ってるから、その時にまた会いましょう?」

「え?でも…」

「ふふっ、いいからいいから…。じゃあね、雄介君」

 折原さんはきびすを返し、家の前から去っていってしまった。残されたのは、俺と、このノート。俺は息を軽く吸い、ノートを開いた。


 俺の知りたい事が、このノートに書いてあるかもしれない。

 第弐話です。連載ホラーがこんなに大変だとは思ってもみませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ