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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悲しみ連鎖

これを読んでイジメの残酷さについて考えてもらえたら幸いです。



 昔、一人の男が産まれた。その男は何処にでもいる平凡な男だった。男はやがて就職して、普通に女と恋をする。そして結婚をした。

 貧しいながらも幸せな家庭を築いていく。やがて子宝に恵まれ、男の子が産まれる。しかし、その代償に失ったものはあまりにも大きかった。

 そう、最愛の女性を失ってしまったのだ。だが、男は悲しみに身を任せることはしなかった。何故ならば男には息子という守るべき者が出来たからだ。名は心の豊な人間になって欲しいという願いを込め、(ゆたか)と名付けた。

 強いと思う。もし私ならば悲しみに耐えれず、酒に溺れ廃人と化したかもしれない。

 男は必死に働き豊を育てた。男一人で子供を養うのは相当の苦労かも知れない。私には子供が居ないからその苦労などわからないが……。

 男の頑張りの甲斐があり、豊は名前の通りに素直で心の豊な子に育つ。

 と、ここまでは普通の人生と言うのは少し抵抗があるが、何処にでもある普通の父子家庭だろう……。


 豊は中学に進学した。

 それから一ヶ月経過した放課後。

「おい、豊!」

 中学生とは思えない体格のした男子が男に怒鳴る。脇に二人の男子が居る。……何か嫌な予感が、

「な、何?」

 豊は体と足を震わせながら、体格の良い男に質問する。豊は何故か青い顔をしている。

「ちょっと、こっち来いよ!」

「ぼ、僕、用事が……」

「あん!? 良いから来いよ!」

 体格の良い男が嫌がる豊を無理矢理引っ張る。それに脇に居た男二人も続く。

 豊は使われてない教室に放りこまれる。男三人が豊の回りを囲む。そして、

「い、痛い」

 笑いながら豊の腹を殴り、蹴る。顔を殴らないのは目立つ場所だと、後々面倒だからと推察出来る。なんて、狡猾な奴らなんだろうか……。

「や、止めてよ!」

 だが、男達は止めない。寧ろ更に強くしていく。

「……」

 豊は気絶してしまう。恐らく痛みに耐えられなかったのだろう。いや、恐怖もあるのか……。

「ちぇ、何だよ。もう気絶したのかよ。つまんねー」

「本当、コイツ相変わらず根性ないよね」

「これなら、まだ赤ちゃんの方があるんじゃねぇかw」

「確かにw」

「んな事よりこれからどうする? 豊イジメて時間潰す予定だったのによ!」

「じゃあ、僕んちに来る? 新しいゲーム買ったからさ」

「マジ!? 行く、行く」

「決まりだな。つーか、ならこんな豊みたいな屑相手にしないでお前んち行けば良かったぜw」

 男達は教室から去って行く。これはいわゆるイジメというヤツだろう。しかも男達の口ぶりからこれが初めてでないと推察出来る。

 何故、こんなことになってしまったのだろうか? 恐らくきっかけは些細なことだったんだろう。もしかしたら片親が原因かも知れない。それが段々に……。


 豊は目を覚まし、家に帰宅した。豊は汚れを落とすためだろうか、風呂に入る。

 豊の体には無数の痣が出来ていた。……それはイジメの無惨さを物語るのに十分すぎるほどだった。

 豊は二人分の料理を作る。実に父親想いの子である。なのに、何故こんな良い子がDQN(ドッキュン)などにイジメられなければならないんだ? 神は何と残酷なのだろうか……。

 父親が帰宅する。

「ただいま」

「おかえり。ご飯出来てるよ」

「……何時もすまないな」

 父親は申し訳なさそうな顔をする。もし、母親が居ればこんな苦労をせずに済むのに、という申し訳なさなのだろうか?

「気にしないでよ。父さんは仕事で疲れてるんだから仕方ないよ」

「だがな……」

「それに僕、料理作るの好きだから」

 豊は父親の辛さを減らすために無理矢理笑う。……そんな、精神状態じゃないだろうに。豊は優しい子だった。いや、正確には……。

 ふたり、ご飯を食べる。

「学校はどうだ?」

 何も知らない父親からすれば何気ない質問だった。

「楽しくやってるよ」

 豊は嘘をついた。それはとても悲しい嘘だ。もし、ここで正直に話せば問題は解決したかも知れない。

 でも、豊は優しすぎる子だった。だから、父親に心配をかけたくなかったのだろう。夜、父親が母を失った寂しさから涙する弱い男と知っていたから。

「そうか……。なら、良いんだ。友達は出来たか?」

「……沢山出来たよ」

 これも嘘だ。友達なんて一人も出来て居ない。いや、正確にはイジメをしてる奴らが脅して友達を出来ないようにしているのだ。


 豊は誰にも頼らず必死に耐えた。でも、もう限界だった。豊は、

「先生、相談があるんですけど……」

 職員室に行き、担任にイジメを告発することにした。

「実は僕イジメを受けてるんです」

「……そうか、わかった。先生からもよく言っておくから安心して良いぞ」

「はい、よろしくお願いします」

 豊は職員室を後にした。

 これで全て終わる。イジメはなくなる。そう思い豊は安堵した。

 が、現実は何処までも非情だった。

 イジメはなくならかった。寧ろ……。


 権力。人間は権力に弱い。そして学校はイメージダウンを嫌う。

 イジメをしてた生徒の親は政治家だった。担任は豊でなくイジメ側についた。これは腐った世界の必定だ。何処までもこの世界は腐ってると改めて思い知らされる。

 男達が豊をリンチしている。今までと違い顔も殴っている。

「おい、テメェよくも先公なんかにチクってくれたな!」

「まぁ、僕のパパが政治家だから先公なんてどうにでもなるんだけどね。なんならお前の親、失業させてやろうかw?」

 ……え?

「それ良いねw」

「ふ、ふざけんな!」

「!?」

 豊は男達に向かっていった。それは無謀な挑みに思える。でも、そうせずには居られなかったんだろう。優しい豊が自分のせいで父親が傷つくのを耐えられるなんてないのだ。

 意表をついたのが功を制したのか、豊は男を倒すことに成功した。豊は倒した男の腹に乗る。よし、DQN達をボコシテやれ!

「おっと、そこまでだよ。父親が無職になっても良いのかな? 早く離れないとパパに電話しちゃうよw」

「……」

 豊は渋々男の腹から離れた。……卑怯ってコイツらのためにある言葉だと思わずには居られない。何でだよ、何で私は見てるだけしか出来ないんだ! 傍観者に過ぎない私は世界に干渉出来ない決まりだ。無力な自分が情けなくて恨めしい。

「テメェ、良くもやってくれたな!」

 男は顔を真っ赤にして憤慨してる。男は手加減せずに豊を殴り、蹴る。それは豊が気絶しても終わらなかった。

「おい、流石に殺したらマジいよ」

 仲間が止めに入る。

「チッ」

 男達は気絶してる豊に唾を吐いて去る。


 それから豊の生活は絶望しかなかった。男達のイジメは私の想像の遥か上をいった。直視したら私の精神は壊れてしまうかも知れない。

 一つだけを例をあげよう。男達は豊の大切な部分に熱した無数の針を刺した。想像しただけで気絶してしまいそうだ。

 でも、豊は必死に耐えた。学校サボったら父親の仕事を無くすと脅されていたからだ。だから豊は必死に耐えた。全ては父親のために……。

 だが、こんな現実に中学生で耐えれる筈がない。大人ですら無理だと思う。イジメは豊の精神を確実に蝕んでいった。

 そして、ついに……。

 これはとても悲しい選択だ。でも、父親想いの優しい子は父親に迷惑をかけたくなかった。全ては優しさとこの世界の醜悪さが生んでしまった悲しい事件だ。

 きっと、豊は私達が想像出来ない程に悩み苦しんだだろう。その選択に一体誰が責められようか? 少なくとも私には出来ない。

 神は何処までも冷酷な話を望むのだろうか? まだ悲しみの闇は終わらない。まるで連鎖する鎖のように……。


 豊の葬式が行われた。そこにはイジメをした男達も居た。イジメの後悔の念からだろうか? だとすれば少しは豊も救われるかも知れない。

 葬式が終わり、父親は葬式の片付けをしている。一人の女の子が父親に近付く。

「豊君のお父さんですか?」

「ああ、そうだが……君は?」

「豊君のクラスメイトです。実は豊君は男子生徒達から酷いイジメにあってました。もしかしたら、それで……きっと。うぅ……こんなことになるなんて。ごめんなさい、私が。うわぁあああん」

 女の子は涙き崩れる。

「……」

 父親は女の子にハンカチを渡す。

「……え?」

「これで涙を拭きなさい」

 父親も豊に似て優しい男だった。息子のイジメを見てみぬ振りをしていた酷い女の子なのに。いや、酷いは違うか。もし、イジメを見付けたとしても告発出来る人間は一握りだろう。にも関わらずこの子は父親に真相を打ち明けたのだから。


 父親の行動は迅速だった。学校にイジメをあったことを報告して、息子をイジメてた男子達の親に訴えた。

 だが、父親に耳を貸す者は居なかった。それどころか学校はイジメを隠蔽しようと動き、親達は父親を嘘吐きと罵る。更に例の政治家が父親に「これ以上、息子を侮辱するなら貴様の職を奪うぞ」と脅した。

 それでも父親は諦めなかった。父親は職を奪われ、毎晩誹謗中傷の悪戯電話をされるようになる。だが、父親は諦めなかった。

 しかし、根回しは完璧で証言してくれた女の子も口を閉ざしてしまう。


 それから二年が経過した。父親は職を失い日々のバイトで生活していた。その暮らしは貧困を極めてると言っても差し支えないと思う。

 父親は何気なしに公園を散歩していた。すると、

「やめてよ!」

 例の男達が一人の少年を強引に林の奥へと無理矢理引きずる。父親は注意しようと少年達の後をつける。

「オラ、飲めよ!」

 男達は少年に無理矢理黄色い液体が入ったペットボトルを口につけさせる。まさかアレは……。流石にまさか、ね。

「うわぁあああ!」

 少年は奇声を発して逃亡した。黄色い液体が男達の服に付着する。

 ザマーw 少しだけ気分が晴れた。

「うわ、きたねぇw!」

「明日アイツボコす」

「しかし、豊は良くこんなのきたねぇの飲んだよなw」

「ああ、自殺なんかする根性なしの癖によw」

「本当、アレはマジウザカッたw」

「ウゼー、ウゼー。死ぬなら樹海とかにしろよって話。僕達に迷惑かけんなっつーのw」

 父親が現れた。手には鉄パイプが握られている。そして、

 神にもてあそばれた父親に下された判決は死刑。


 豊は父親に迷惑をかけたくなかった。遺書がなかったのはそのためだろう。

 なのに、その願いは無惨にも引き裂かれた。

 何故、豊は死ななければならかったのか? どうすれば救えたのだろうか? 無知な私ではその答えが見付からない。

 どうか、これを読んだ方。無知な私に変わり豊に救いの手をさしのべてください。それだけが私の願いです。



果たして父親に下された判決は正しいのでしょうか?

確かに命を奪ったのは許されないことです。

でも、悪いのは父親なのでしょうか?

イジメを隠蔽した学校。イジメをした男達。モンスター達。

これらを裁けなかった法に責任はないのでしょうか?

確かに法は万能じゃないです。

でも、だからこそ父親に情けをかけてもいいのではないのでしょうか?

法は治安維持と社会復帰を助けるためにあります。

無罪にしろとは言いませんし、思いません。

殺人は絶対に許されてはいけないことですから。

ですが、この父親に社会復帰の見込みがないと、私は思えません。

全ては腐った世界が原因だと私は思います。

こんな悲しい事件が起きないためにも。

教育機関の見直し、少年法の見直しが必要ではないでしょうか?



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― 新着の感想 ―
[一言]  初めまして、狂鬼姫(キキ)といいます。  お話、最後まで読ませて頂きました。この世界は残酷で、目にあまるような矛盾に満ちています。学校も、社会も、政治も、法律も……。結局は見て見ぬフリを…
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