召喚した相手が、真っ当な聖女とは限らない
「へー。なるほどなるほど。ロードン=ヘイスティングズ王国? 舌噛みそうな長ったらしい名前の国は、魔王とやらに蹂躙されつつあって、で、仕方がなしに、最終手段として、異世界からアタシを召喚したと。で、アンタが召喚責任者の王太子殿下?」
アタシはアタシを取り囲む偉そうな集団の、その真ん中で胸を張っている金髪青目の顔だけはイケメン男を指さした。
「そうだ、異世界の聖女よ。キサマには魔王と対峙し、魔王を浄化し、俺様達のこの美しい世界を救って貰わねばならん」
は?
世界を救え?
馬鹿々々しい。
笑っちゃう。
救いたい世界なら自分で救え。他者にやらせるとは偉そうに。
「へー、聖女ねえ。へー、世界を救うねぇ」
突然勝手に召喚してしまい申し訳ございません。ですが、この世界が危機に瀕しておりまして。真に勝手ながら、こちらの話をまず聞いてはいただけませんでしょうか。
そんなふうに腰を低くして頼まれるのなら、要望を聞いてやらないこともないけど。
何なのアンタたち、もう一回言うけど偉そうに。
「むろんただで働けとは言わん。キサマが魔王を浄化した折にはこの俺様の妻として娶ってやる。ありがたく思え」
「へー。妻。ありがたくないわねー」
勝手にアタシを召喚した誘拐犯筆頭が、しかも上から目線でありがたがれという態度。
イケメン王子だから一目惚れでもするんだろうって?
馬鹿々々しい。
けっ! ぺっぺっぺっぺ! 唾でも吐いてやろうかしら?
だいたいアタシの好みは顔だけイケメンじゃなくて、中身のある男だ。
あ、美人のおねーさんでもいいかな。兄が結婚適齢期なのに、モテないから。
お見合いしてもお断りされる記録更新中。
外見熊さんみたいだけど、中身は良い男なんだけどなー兄は。
アタシ? アタシは外見だけはきゃしゃでかわいいから。
それなりにモテてますけど。やっぱり兄が片付かないで、妹が先に婚姻するとかNGな国柄なんで!
兄の嫁を探すのが先。
だからと言って焦ってはいない。顔だけイケメン王子なんかにころっと引っかかるような阿呆でもないしね、アタシ。
アタシの婚約者に求める条件に、イケメンなんて項目はないの。
顔はフツメンでいい。だけど、アタシの性格にもドン引かないイイ男希望です。
で、えーと。何だったっけ? 王太子殿下とやらも、その周りにいる男たち……、王冠を被っているのが王様かな? 王様の隣の厚化粧のおばさんが王妃様かな? それから白いローブを着ている集団が神官とか召喚系の魔法を使える人達かな?
何か大勢が、寄ってたかってアタシを取り囲み、魔王を浄化しろ、聖女様ならできるとか何とかうざったく迫ってくる。
まあべつに? 魔王とやらを倒すのは別に? やってあげてもいいけど? 顔だけ王子の妻は御免だけどね。
報酬によってはしてもいい。
世の中等価交換です。
「どうしよっかなー」
どうしてやろうかなーって考えていたら、「お待ちくださいっ!」と若い女の声がした。
「異世界から聖女様を召喚し、魔王を浄化させるなど、そのような下策、おやめくださいませ! 召喚などはこちらの都合。勝手に呼びだされる聖女様に置かれましては身勝手な誘拐でしかございませんっ!」
あら、真っ当な人もいるのかーっと思って、声がしたほうを見れば。
ほほう。美人のお姉さん。光沢のある濃紺の髪の色はまるで星空のよう。
エメラルドのような瞳が実に美しいですね。
純白のドレスも似合っています。
……兄の好みかも。
きれいな細身のたおやか系美人。しかもお胸はボン! と盛り上がっている。じつに眼福。おもわず手をあわせて拝みたくなるわー。拝んだら、アタシのお胸もあんなふうに美乳になるかなー。なるといいなー。まだ発達途上だから、ぺったんこだし。
その美乳美人に向かって、王太子は怒鳴った。
「うるさいマイレッド・スーザン・ボルドリー! 聖女が召喚され、魔王が浄化されれば偽聖女のお前などもう不要だっ! 自分の地位が危ういからと召喚に反対するとは」
「ち、ちがいますっ! ただわたくしは……」
「それにお前がどう言おうともう遅いっ! 本物の聖女はこの通り、既に異世界から召喚済みだっ!」
王太子がアタシを指させば、美人は「あ、あああああ……」と嘆きながら、その場に崩れ落ちた。違う、アタシに向かって平伏した。
「も、申し訳ございません、異世界の聖女様……。勝手に呼びつけて、勝手に魔王を浄化せよなどと……。これもすべて、このわたくしの結界や浄化の力が弱く、魔王を退けられないのがすべての……」
「そうだ。マイレッド・スーザン・ボルドリー! もとよりキサマが魔王を浄化できれば問題はなかったのだっ! 己の力のなさを詫びるがいいっ!」
えーと? よくわからないけど。
マイレッドとかいう名前のこの美人さんは聖女で。
浄化の力が弱いから、魔王を浄化できなくて。
で、王太子とやらは、聖女とサポートして、みんなで力を合わせて魔王を倒そう! とか一致団結することなく。
できないのなら、異世界から別の聖女を呼び寄せればいいじゃんって短絡的にアタシを呼んだってことね。
あら? あらあらあら~?
とにかく美乳美人を泣かせておくわけにはいかない。
アタシは「申し訳ございません」と繰り返す美人の側にそっと膝をついた。
「えっと、マイレッドさん? とりあえず、あなたが悪いわけではないのだから、頭を上げてください」
「異世界の聖女様……」
うるうるとした瞳。わあ! どうしよう! アタシ、美人の涙には弱いんだー。
「あのね。ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、わたくしで答えられることでしたら、どのようなことでも」
「基本的なことを聞きます。この国は魔王によって滅ぼされかけている。まずそれは事実?」
王太子たちの言うことが本当だとかどうか、アタシには判断つかないし。
この美人は真っ当そうだし。
「は、はい……。国境には既に魔王軍が……」
「そう。で、国の軍隊とかは送ってあるの?」
「軍は……すでに全滅しております。それもこれも、わたくしの張った結界が弱く、魔王軍の進軍を止められなかったから……」
「結界?」
「……今は、この王都だけを結界に閉じ込めてありますので、強固な結界を張り巡らせているのですが。わたくしの弱い力では、国全体を強力な結界で閉じ込めるのは無理で……。結界を張りつつ、わたくしが魔王を浄化できれば良かったのですが……」
……国全体を、結界で閉じ込めて、魔王軍が入ってこないようにする。それって、どんだけ膨大な魔力が必要なのかな?
王都全体だけを結界に閉じ込めるのも……かなり無理があるのでは?
その上、結界を張ったまま、魔王に対峙して魔王を浄化?
わーあ、ブラック企業も真っ青になるくらいの鬼畜な酷使されっぷり。
うわあ。
よく見れば、美人さんの頬はこけている。目の下も真っ黒で。よろよろしているし。お胸がご立派だから健康体……に見えてるいるけど、そうじゃないわ。胸以外は酷使されてボロボロですってか?
「あの、その結界って、あとどのくらい張っておけるの?」
「……申し訳ございません。既にあちこちほころびが……」
「ああ、ほころびがあるから、その隙間から魔物も入って来るけど、国の魔法使いとか魔導士とかがアタシを呼び寄せられたってことかあ」
「……はい。申し訳ございません」
王都を強力な結界で閉じ込める。
それはそれは大きな魔力が必要だろう。
うーん、綻びかけている結界が完全に駄目になるまで数日ってところなのかな。
だから、この王太子たちが無理やり異世界から聖女を召喚とかいう無謀の策を行ったと。
……それにしてはエラそーだけど。
「……申し訳ございません、異世界の聖女様。王都を覆っている結界を解除し、わたくしの力全てを捧げてでも、あなた様を安全に元の世界にお戻しいたしますので、どうか、ご寛恕を」
うわ、ホント美人さん真っ当!
「マイレッド・スーザン・ボルドリー! せっかく我らが呼び寄せた異世界の聖女を返すとはっ! この不敬者っ! 国を亡ぼす気かっ!」
「……国は、もう滅びます。わたくしたちの滅びに、無関係な異世界の聖女様を巻き込むことはできません!」
「キサマっ!」
偉そう王太子が手を振り上げる。
「ちょっとまってよ。美人を殴るなんて、紳士のすることじゃあない」
アタシの言葉に王太子の手が止まる。
「ならば、異世界の聖女よ。キサマが我らの国を救って見せるがいい」
エラそーに。
まあいいですけど?
「救えばいいのね? 魔王軍をやっつければいいの?」
どんな手段でも、魔王軍を倒せばいいのね?
「そうだ」
「この場にいる皆さんも、同意するのね?」
美人以外の全員が、当たり前だと頷いた。
「了解。じゃあ、ちゃちゃっとヤッちゃいますか!」
アタシと美人さん以外の全員に、アタシの魔法をかける。
「お前たちに、死なずの肉体を授ける。魔物に食われようと、刃物で刺されようと、すぐに復活する体で、魔物たちを倒してくるがいい。お前たちは死なずの身体で魔物が最後の一匹になるまで、不滅の操り人形として、魔物たちを屠り続けよ!」
王太子が、王が、王妃が、白いローブを着た神官か魔法使いか分からんけどそいつらが、部屋の壁の前で突っ立っている何十人もの騎士たちが。
アタシの命令に頷いて、うつろな瞳で部屋から出て行く。
全員がいなくなった部屋で、アタシと美人さんだけが残された。
「え、え、え?」
「これでダイジョーブ。安心してね!」
アタシは美人ににっこりと笑いかける。
「聖女召喚なんて、馬鹿よねえ。召喚された人間が真っ当な聖女である可能性なんて少ないと思うのよ」
「で、では、あなた様は……」
「異世界の魔女。能力は隷属。不滅の肉体化。アタシはねえ、人間を死なずの人形にして、アタシの命令を聞いてもらうって魔法が使えるだけなのよ。聖女じゃないの」
だから、アタシを呼びだしたあいつらには、責任を取って自分たちで魔物とか魔王を倒してもらいましょう。
何度、魔物に殺されても、死なない体。
何度、魔物に食われても、復活する体。
魔王に、魔物に対峙したくないと思っても、お前たちの肉体は、アタシの命令に従って、勝手に魔物を倒しに行く。
大丈夫。
永遠に戦い続けろなんてことは言わない。
このロードン゠ヘイスティングズとかいう舌を噛みそうな名の王国から、魔王がいなくなって、魔物もいなくなったら。
アタシの命令は解除され、元の人間に戻るから。
ま、そのときには肉体は元通りの普通の人間に戻っても。
お前たちの精神がどうなっているかは分からないけどね!
「というわけで、美人さん……えっと、マイレッドさん? 魔物も魔王も彼らが死なない体で何度も戦って、そのうちきっと倒してくれるだろうから、もう、放置でいいよ。あなたはどうする?」
「ど、どうするとは……」
「アイツら国の王様とか王子サマとかなんだよね? お偉いさんがいなくなって、国の運営とか? 文官とかが行うにしても、トップ不在だし。まとめ役がいないから、あなた、なる?」
「わ、わたくしには無理で……」
「じゃあ、せっかくできたご縁だから、あなた、アタシの世界に一緒に戻る?」
「え?」
袖すり合うも他生の縁とかいうけど。
せっかく召喚されたんだし、オミヤゲを連れて帰るのもいいんじゃないかなーって。
「ちょうど、アタシの兄が嫁さん募集中で」
「え?」
「あなた、兄の好みドンピシャだと思う」
「え、え?」
「アタシは勝手にあなたを異世界に召喚したりはしないけど、誘うことはするわ。兄はアタシに似た顔だけど、ちょっと髪と髭がぼさぼさして、体も大きくて熊さん系だけど。でもあの王太子なんかよりも優しいし、奥さんは大事にするよ?」
美人さんは戸惑ったけど「ここで、このままでいても。きっとわたくしは国の皆様から今まで以上に責められるでしょうし……。連れて行ってくださいませ」と迷ったのちに答えてくれた。
うっふっふ。
異世界召喚されたけど、よき出会いがありました。美人の兄嫁ゲットだぜ! なーんてね♡
終わり




