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復讐という名の物語  作者: 笑わない猫
孤児の少年少女
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第一章 ―6 聖母


――――――――――聖母――――――――――




 少年はすぐに刀の切っ先から離れ、体勢を立て直す。

 キリアは少年から目を離さずにクレアに近寄る。

 クレアは痛みから解放され、激しく息をしている。

「大丈夫か?」

「うん。……ありがとう」

「ばか野郎。礼なんていうな」

 キリアは意識を少年のみに向ける。

 少年はキリアの瞳を睨みつけ、左手を大きく開く。

「俺に近づけば、そこの女を殺す」

 キリアの眉がピクリと動く。

 それに続くように足も止める。

「そうだ。それで良い」

「……くそ」

 小さく声を吐く。

「刀を下ろせ。そしてこちらに投げろ」

 キリアは刀を徐々に伏せていく。

 少年の口がにやけ始める。

 だが、キリアには刀を上げることが出来なかった。

 キリアは悔しさで歯軋りを行う。

 その時、クレアが叫んだ。

「私に構わず、その子をやっつけて!」

 キリアは優しい笑みを浮かべ、クレアに振り返る。

「俺がここに来たのはお前を助けるためだ。こいつを殺すためじゃない」

 そう言って刀を地面に置き、少年に向かい、蹴り飛ばす。

 ちょうど少年の足元に刀が行く。

 少年は刀を拾い上げ、床に突き立てる。

「物分かりが良くて助かるぞ」

 少年はキリアに向かい、右手を突き出す。

 瞬間、キリアの足元に黄金の魔法陣が浮かぶ。

 避けようと思えば避けれたはずだったのだがキリアは避けずにその魔法を受けた。

呪縛苦痛エメント

 少年は右手を握り締める。

 キリアは激痛に襲われる。

 だが、決して声を出さず、その場に片膝つく。

「キリアお兄ちゃん!!」

「ははははは! 良いぞ! もっと泣け!」

 少年はバカ笑いを始める。

 だが、キリアは黙って攻撃を受けている。

 クレアは無力な自分を恨んだ。

 どうして私はこんなに弱いのか。

 どうして助けられないのか。

 恨み、そしてキリアを助けたいと願った。

 だが、現実は厳しくクレアに襲い掛かる。

 現状。助けられないのだから。

「うわわわわわわわぁぁ」

 大声を張り上げ泣いた。

 キリアはクレアの泣き声聞き、振り返った。

(なんで、泣く? 何もされていないはずだ。なのになぜ)

 キリアは理解できなかった。

 人の事を想い、泣くという事を。

 だから途切れ途切れの声で言った。

「泣くな……傷つくのは俺だけで良い……だから……逃げろ」

 クレアはしゃっくりを上げながらキリアに聞き返した。

「逃げる?」

「そうだ……」

「やだ……」

 小さく言った。

「やだ。やだやだやだやだ」

 だんだん声が大きくなる。

 それに伴い、クレアの体が赤く光りだす。

「クレア……? バカな……お前がそんな」

 キリアは何が起きようとしているのかを理解した。

 そう。体が光るのは……。

「やだぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」

 クレアは叫んだ。

 瞬間。クレアから凄まじい魔力が解き放たれる。

 黄金の魔法陣もその魔力に耐え切れず、砕けて消える。

「なんだ?? なにが起こった!?」

 少年は自分の魔法陣が砕かれたことに戸惑う。

 不意に右手が広がる。

 キリアは痛みから解放される。

「殺してやる!!! 衝撃閃光エリクサ!!」

 クレアが右手を前に突き出し、少年に人差し指を突き立てる。

 人差し指の指先に魔力が溜まり、一筋の閃光となって少年の肩をかする。

「ぐっ!!」

 少年は傷ついた肩を掴む。

 クレアはもう一度、詠唱を始める。

大衝撃閃光エリンサー!」

 次は手の平に魔力が集まり始め、とてつもない威力を誇る閃光が少年に向かう。

 少年は迫る閃光をただ見ることしか出来ず。

 大爆発を起こす。

 幸いアパートが崩れることはなく、揺れる程度で済んだ。

 クレアは激しく息をしながら、その場にへたり込む。

「やっちゃった……。殺しちゃった……」

 クレアはものすごい罪悪感に襲われる。

 自分が人を殺したという重さに。

 が、それを救い出すようにキリアの声がクレアに届いた。

「全く。力加減を知れ! バカ野郎」

 キリアは座り込む少年の前に立っていた。

 少年は肩からしか血を流しておらず、大衝撃閃光エリンサーを受けた傷は見られない。

「え?」

「俺が間に合わなかったら、お前、人殺しになっていたんだぞ」

 そう。大衝撃閃光エリンサーをキリアは止めたのだ。

「あれれ、キリア……お兄ちゃん……」

 キリアは黙ったままクレアに近づき、手を差し出す。

「立て」

「う、うん」

 クレアはキリアの手を掴み、身を起こした。

 キリアはまた少年に振り返る。

「おい! 小僧」

 少年は顔を上げる。

「お前がこれからの行動をどうしようが知ったこっちゃ無い。今までみたいに人を殺しても良いし、行動を改めても良い。そこはお前に任せる。俺がどうこういう事じゃないしな。 だがな、クレアを選んだのは間違いだったな。クレアを選んだから俺がここに来たわけだし、クレアじゃなかったら俺はここに来なかった。これに関しては失敗だったな。 お前の行動が間違っているとは言わない。お前の人生だ、お前が決めろ。 ただ、‘失敗’しただけだ。 今後の行動はもう少し考えるんだな」

 長い説教を言い終わったキリアは踵を返し、ドアに向かう。

 クレアは一度、俯いて座る少年を見てからキリアの元に向かう。

 だけど、やはり少年のことが気になり、もう一度振り返る。

 少年はまだ俯いている。

 クレアは少年に歩み寄る。

 キリアはドアを開いた後、立ち止まった。

「ねぇ」

「……何だよ」

 少年はクレアの呼びかけに素っ気無く返す。

「私達についてこない?」

「何?」

「なんか、ほっとけないよ」

「知ったことじゃない。帰れよ」

「変われるってキリアお兄ちゃんが傍にいれば」

「なぜ分かる」

「私は変わっていってる実感がある」

「うるさい。かえれ」

 クレアはしゃがみ込み、少年を抱きしめた。

 少年は唖然とし、声もでない。

「ほっとけないの。あなたを見てると……今にも崩れそうなあなたを見てると」

「……」

「私と一緒に、キリアお兄ちゃんと一緒に、生きようよ。絶対に変われるから、絶対に生きてる意味を見出せるから」

「良いのか……? 俺は一度、お前を殺そうとしたんだぞ」

「私も殺そうとしたよ。お互い様」

「あの男は?」

「許してくれるよ。だってさっき‘お前がこれからの行動をどうしようが知ったこっちゃ無い’って言ってたし」

 キリアは墓穴を掘ったとばかりに‘あっ’っと声を漏らす。

「本当に……」

「うん。良いんだよ」

 少年は涙を流した。

 自分を救ってくれる人がいることを知り、自分を抱きしめてくれている。

 その事に涙した。

 キリアはその光景を横目で見て、頬を緩めた。



「まったく、あいつはホントに、聖母せいぼみたいな奴だ」




 キリアは自分もその聖母クレアに包まれているということを理解してはいない。




 三人は復讐の物語を創造していく。

 生きる意味と存在の答えを求めながら、

 繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。

 

 復讐という名の物語を創っていく。



                       To Be Continued



 

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