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復讐という名の物語  作者: 笑わない猫
孤児の少年少女
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第一章 ―4 深き楽園を求め 続



――――――――――――――深き楽園を求め 続――――――――――――――




「起きて下さい。大丈夫ですか?」

 キリアの暗い意識の中で男の声がこだましている。

 目を開けようと意識しても瞼は重く閉ざされたまま。

 目覚められない。

 魔法の呪縛による支配はやすやすと解ける物ではない。

 魔法の対策を教えられたキリアでも例外ではない。

 解けるのには時間が必要だった。

 だが、時間はあまり残っていなかった。





 クレアはゆっくり目を開いた。

 そこはどこかの空き家の中らしく家具など一切置かれていない空間。

 座っている体勢から体を起こそうと足に力を入れるが起き上がれない。

 魔法陣による呪縛を受けていた。

(ここはどこ? キリアお兄ちゃん……)

 クレアは声を出さずに助けを求めた。

 それがキリアに届くわけなく。

「起きたか……女」

 一人の少年が右目に魔法陣を浮かべながら、身動きの取れないクレアに近づく。

「だれ……?」

 クレアの問いに少年は答えた。

「絶望を、苦しみを与える者だ」

 クレアはその時悟った。

 少年と近い関係であることを。

 孤独を見据えた漆黒の瞳をクレアは睨み付けた。

「なんの真似だ? 威嚇のつもりか?」

 挑発に似た少年の言葉にクレアは反応することなく、瞳を睨み続ける。

 少年はため息を漏らしながら、左手を握り締めた。

 瞬間。クレアの全身に激痛が走る。

「きゃぁ! ぐぅぅあああ」

 体を仰け反らせながらクレアは悲鳴を上げる。

 少年はその様子に笑みを浮かべ、左手を広げる。

「はぁはぁ」

 クレアは荒く息をしながら、また少年を睨みつけた。

 少年が笑みを混ぜながら言う。

「俺の魔法陣形内にいる限り俺はいつでもお前に痛みを与えられる。どうだ? 苦しいだろ! 悲しいだろ。ははははは。絶望しろ! ははははは」

 少年は高らかに笑い出す。

「絶望なんてしない。だってキリアお兄ちゃんが助けに来てくれるから」

 少年は笑いを止め、クレアを見下ろす。

 クレアのまっすぐな瞳にイラだった少年はまた左手を強く握る。

「きゃぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 前よりも強力な痛みに悲鳴もさらに大きくなる。

「いつまでそんな口を叩けるか試してやる」

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 クレアは悲鳴を上げながら、涙流すことなく信じた。

 キリアが助けに来ることを。





 クレアの叫び声が意識に聞こえたような気がしたキリアは目を開いた。

 周りは薄暗く、小さな照明の下に無数の紙が散らばっている。

 そしてその奥に人影。

 その気配に気づいたキリアはすぐに立ち上がり、その人影と間を取る。

 そして刀の柄に手をかける。

「おや、お目覚めですか? 元気が良くて何よりです」

 キリアが刀を構えようとしているにもかかわらずその人影は平然と言葉を発した。

 キリアはこの人が敵ではないと判別し、柄から手を引く。

「びっくりさせて悪かった。お前は誰だ?」

 キリアの問いかけに人影は照明を自分の顔に当たるようにし答えた。

「ディナード・モスキーナ。ここで情報屋を営んでいます」

 キリアはディナードという名前を聞き、眉を動かした。

「あぁ! お前が!」

「私をご存知で。これは嬉しいことです。ありがとうございます」

 ディナードは椅子から立ち上がり深々と頭を下げる。

 キリアもつられるように頭を下げる。

「どうして俺がここにいるんだ」

 キリアは頭を上げ聞いた。

「いやぁ。目の前でいきなり倒られたらいくらなんでも助けますよ」

 笑いを混ぜながらディナードは答えた。

「なら、もうひとり倒れた女がいただろう!?」

「えぇ、ですがその子は身内の方が助けていらっしゃいましたよ」

「身内?」

「えぇ、黒髪の少年です。双子の兄妹と言っておられましたが……全然似てなかったですね」

 キリアは無表情のままディナードに近づき、資料だらけの机に手を置いた。

「そいつは敵だ! 俺がクレアの身内だ!」

「やはりそうですか……では、あの魔法陣は本物だったのですね」

 ディナードは手を顎につけ、うんうんと頷く。

「魔法陣が見えるのか!?」

 キリアは飛び上がらんとばかりの凄い勢いで聞いた。

 するとディナードは右手の人差し指を自分の口に当て言った。

「大人の事情です」

 そして不敵に笑う。

「そいつの居場所を知ってるか?」

 キリアの問いにディナードは口を緩め、言った。

「普通は教えないんですが、事情が事情ですしね……。いいでしょう。場所は西街区二番地の二階建てのアパートの中です」

「なんで知ってんだよ?」

 キリアの問いにディナードは笑みを作りもう一度言った。


 ‘大人の事情です’と……。




 二人は復讐の物語を創造していく。

 繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。

 

 復讐という名の物語を創っていく。



                       To Be Continued




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