第一章 ―2 夢か現か
―――――――――夢か現か―――――――――
―――お前はキリア・ヴァッシュベルンだ。
これからの名だ。忘れるな。
今からお前は警備兵育成所の一員だ。
俺と共に一人前の警備兵目指し、強くなれ。
―――はい。
―――では、行くぞ。
―――はい。
深い闇で声がこだましている。
二人の男が話をしている。
とても聞き覚えのある声だ。
誰だろう。一体、いや、覚えている。
この声は……。
キリアはゆっくり目を開いた。
映るのは真っ白な天井。
体を起こし隣のベットを見る。
掛け布団はぐちゃぐちゃでベットの上には枕と掛け布団しかない。
そうあの少女の姿が無いのだ。
(どこ行ったんだ?あいつは……)
ふと視線を下げると一人の顔が……。
「うお!っと、ぐわ!!!」
最後の一声はキリアがベットから落ちて頭を強打したときに漏れたものだ。
そうキリアのベットに寝ていたのはキリアのベットの隣のベットに寝ているはずのクレアである。
いきなりの事で動揺したキリアは後頭部を抑えながら立ち上がる。
(なんの真似だ……ったく)
愚痴を心の中で漏らし、でも決して顔には表さず赤色の椅子に腰掛ける。
(チェックアウトは正午だったな)
時計に目を向ける。
まだ正午には程遠い。
キリアはサービスで置かれている情報誌を手に取り読み始めた。
覚醒――――それは身に秘めた潜在能力を発揮させる事を言う。
ごく僅かに、ほんの一握りの逸材のみに表れ、ほとんどの人間はこの覚醒の事すら知らない。
魔法使い、法陣師、剣技魔法士なども覚醒によりなることができる。
そして今、その覚醒集団が動き出していたのだ。
世界の破滅を目論み、世界創造のために。
「で、その大事な結晶石とやらはどこに?」
白いマントを身に纏っている男が小さな少女に問いかける。
「ウラウ鍾乳洞の最深部、いまクレちゃんが行ってくれてる」
無邪気に少女が答える。
とても無邪気な声や容姿には似合わない漆黒の大鎌がわきに置かれている。
「クレちゃん?あぁ、あいつの事か……。新入りだぞ。信じれるのか?」
「大丈夫。私が保証する」
得意げに少女は腕を組む。
「ほんと何でお前が次期リーダーに選ばれたんだろうな。まだ納得いかないぜ」
「そりゃそうでしょ。私は強いし~可愛いし~賢いし~」
「よく自分をそこまで持ち上げれるもんだな」
「ほんとの事だもん」
少女の言葉に男はため息をつき。呆れる。
「じゃ、そろそろ持ち場に戻るわ!じゃあな」
「ばいば~~い」
男は少女に別れを告げ、去っていった。
少女は自分の身の丈ほどの大鎌を右手に持ち、ゆっくり男と逆方向に歩きだした。
「次期リーダーね……」
少女の呟きは淡い息と同化し空気に触れた。
凄まじい勢いで振られた剣をキリアは刀で何とか受け止める。
だが、その勢いは止まらず刀もろともキリアを遠くに突き飛ばした。
「ぐわ!」
つい漏れた声。
その半秒後には剣先がキリアの首の前に存在していた。
キリアは血の味がする唾を飲み込む。
「まだまだだな、反応速度は上達したが攻撃を抑えるほどの力が無い。もっと強くなれ」
厳しい上官の言葉がキリアに襲い掛かる。
剣先を引き、構えを取り直した上官が叫んだ。
「立て!!まだ休憩時間ではない」
その言葉にキリアは身を震わせ立ち上がろうとする
だが足に力が入らない。
いくら立とうと足掻いても力が入らないのだから立てるはずも無い。
「立てと言ってるのがわからないのか!!」
上官が剣を鞘にしまい、キリアに近づき手を振り上げる。
キリアも目を強く瞑る。
が、その振り上げられた拳は振り下ろされない。
振り上げられた手首を掴む手があった。
「少し休憩させてやれ。足が限界みたいだ」
「クレイモア……そんな甘くて良いのか?」
「こいつはまだ新米だ。まだまだ鍛錬が足りない」
「そうかよ。じゃ、休憩だ。一時間後、もう一度ここに来い」
上官は踵を返し、この場を後にした。
「大丈夫か?あいつの指導は厳しいだろ?」
クレイモアは心配そうにキリアの顔を覗きこむ。
キリアは俯き答える。
「うん……でも頑張る!強くなる」
「良い意気だな。がんばれよ」
クレイモアが立ち上がる。
そして一言
「感情は不快な理屈に不満を抱き、いつしかそれを爆発させる。良いか、キリア。感情……」
言い切る前に目の前が真っ暗になった。
そして現実に引き戻される様に少女の声が響く。
「キリアお兄ちゃん。起きてよ!朝だよ」
そうクレアの声だ。
キリアは目を開けた。
情報誌を読んでる途中に寝てしまったらしい。
すぐ横には風呂上りのクレアの姿がある。
「やっと起きた。おはよう」
しばらく沈黙の後キリアは答えた。
‘おはよう’と…
二人は復讐の物語を創造していく。
繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。
復讐という名の物語を創っていく。
To Be Continued