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復讐という名の物語  作者: 笑わない猫
警備兵育成所反逆殺戮事件
23/24

第四章 ―1 思い出の一ページ






 五時間に及ぶ訓練を終えたキリアはよろよろとおぼつかない足取りで訓練生の寮を歩いていた。一気に六人くらいが横一列並んで歩けるような広い廊下を歩きながら目の前のT字路の突き当たりで足を止めた。右が男子寮に繋がる廊下で左は女子寮だ。

 もちろんのことながらこの警備兵育成所ディリンガルでは恋愛などといった男女の関係は一切結んではならない。実際のこと、異性同士で休憩時間を共にする事すら注視される事がある。キリア達はフィレスの感情と精神の治療と十才という若さという事で例外として共に行動しているが本当の条例では違反していることなのだ。

 と、なると男子が女子寮に入るなど言語道断。わかり次第首が飛んでいくと鬼教官から言われている事からか今まで破ったものはいない。いくらキリアでもそれは許されていない。

 だからキリアはいつも女子寮と男子寮の間で昼の訓練後ここで待っている。目的の彼女が現れるのを。


 彼女は天才だった。それはキリアと彼女を分ける大きな亀裂になる物だった。

 わずか八才で覚醒者になり、今や魔弾銃を駆使して多彩な戦い方が出来る身体能力と戦闘能力。そして冷静な判断力と思考は今の警備兵ディリングには一番必要な人材だった。だから彼女はキリアや他の訓練生とは違う個別の訓練を受けている。

 彼女はいつもしんどくないと言っていたが精神的にも肉体的にもかなり負担が来ていることはキリアが見ても一猛瞭然だった。それでも彼女はその事を隠し通す。それはきっと意味があるものだと思ってキリアは今まで知らないふりをしてきた。そしていつもこの女子寮と男子寮の境目で待ち合わせをして顔を合わせる。それでお互いに安心し合おう。と決めたのだった。

 キリアは本当は早く自室に戻って少しでも体を休めたいのが本当の所だが彼女に会えると思うだけで体が飛ぶように軽くなる。それだけキリアの中の彼女は大きな存在だった。

「フィレス……頑張ってるかな」

 キリアは女子寮に繋がる廊下に顔を向けながら言った。

 女子寮の個室で訓練を行なっているフィレスを思ったからこそ出た言葉。キリアは少しハニかみながら自分の髪の毛を触った。耳が若干隠れる程度のキリアの髪だが髪質が良く、黒髪に廊下の蛍光灯が反射して天使の輪のような物を作っていた。

 すると本部の方から一人の男が歩いてきた。士官制服を身にまとっていない事から訓練生だとすぐにキリアは分かった。二十歳過ぎくらいのその男はいつものように待つキリアの隣に立つと口を開いた。

「お姉ちゃんを待ってるのか? キリア」

 ずっとこのT字路の境でキリアが待つことはもう警備兵育成所ディリンガルの中では公認の事であり特に問題視されていない訳だが気になってしまうのは気になってしまう。

 だからT字路で待つキリアに話しかける訓練生も少なくなかった。

「お姉ちゃんじゃありません。フィレスは友達です」

 むすっと頬を膨らましてキリアは訓練生を見上げた。実際、キリアはフィレスと血縁関係にあると言われるのがなぜか嫌だった。大きな理由は無いのだがなぜか納得できなかったのだ。

 訓練生はそのキリアの反応を見てまた「あはは」と声を出した。

「なにが面白いんですか!」

「そう怒るなよ。まぁ、仲良く頑張れよ」

 ドスの全く効いていないキリアの睨みを訓練生は物ともせず一言残して男子寮に続く廊下を歩いて行った。

 その後ろ姿をしばらく見ていたキリアだったが姿が見えなくなると同時にべーと舌を出して思いっきり侮辱してやった。

「何してるの……?」

「うわぁ!?」

 背後から、女子寮の方から歩いてきたんだろうフィレスの声にキリアは大きな声を上げた。振り返って目の前で無表情に近い顔で首をかしげているフィレスにキリアは小さくため息をつきながら言った。

「びっくりさせないでよ」

「別にそういうわけじゃ……」

「あ、訓練お疲れ様!」

「……ん。ありがとう」

 小さくお礼を言う。心から想ってフィレスは言ったつもりだが残念なことにその顔に感謝の念が込められているようには見えない。

 でも、キリアはそんなこと気にすることなく言葉を続ける。

「俺な! 明日ついに実践演習受けるんだ!!」

「実践演習……? あの人造人間アンドロイド相手に戦うあの事?」

「うん!」

「……そうなんだ」

 嬉しそうに顔を輝かせるキリアに対してフィレスは目を伏せ顔を俯かせる。憂いを浮かばせるその顔は昔になにかがあったと思わせるトラウマの欠片を浮かべていた。

 キリアはその様子を見て心配そうに声をかけた。

「どうしたの……? フィレスしたことあるでしょ?」

「え……うん。何回もある」

「だよね! すごいなぁ……」

「すごくなんて……ないよ」

 鮮明に浮かび上がる昔の記憶をかき消すようにフィレスは小さく首を振った。

「じゃあ……そろそろ戻らないと」

「うん! また明日ね!」

「えぇ」

 そう言ってフィレスはキリアに背を向けた。ゆっくり歩いていくその背中をキリアはじっと見続ける。自分よりも小さく小柄な体型なのにその背中から感じる威圧は明らかに自分より強い心を持っているとキリアは実感した。

 自分と同い年で同じ境遇でただこの警備兵育成所ディリンガルに入った年代が違うだけでそれだけで圧倒的な力量差がある。

 そこに距離を若干感じるキリアでもあったが逆にそれを糧に頑張ろうという気持ちも芽生えていた。


 ――いつかフィレスと一緒に戦いたい


 そう思い始めていたのだ。

 最初の夢はクレイモアと共に戦うこと、だったのだがいつの間にかフィレスと共にと思い始めていたのだ。憧れの対象であるクレイモアとは違いフィレスはキリアにとって憧れではなく目標であってそして一緒に並びたい好敵手でもあるのだ。

 歩いていくその背中を見ながらキリアは小さく微笑んだ。

 キリアは女子寮に入っていくフィレスを見送ると自分も男子寮の方に足を出す。

 明日、行われる実践演習で少しでもフィレスに近づこう。力をつけよう。


 そう、キリアは決意した。







 飛び散る鮮血。崩れていく体。全てが全て赤く染まり目さえも赤く染まるような錯覚を覚えたあの頃……。

 フィレスの全てを変え思い出さえも崩すような大きな出来事。目の前で死んでいく者の姿を見ながら過ごして迫る“奴”の姿から逃げたあの頃はフィレスにとって衝撃的で頭の中に深く残っている記憶だった。

 自分が手にしていた銃を思いっきり撃ち、逃げ、撃ち、逃げ。

 それを繰り返し全てが潰えた時、この警備兵育成所ディリンガルに行き着いた。

 恐怖という感情がいつの間にか麻痺し、生きることだけが自分の存在理由になり、人とのコミニュケーヨンを一切取らなくなっていった。ひたすら逃げて戦う。あの頃はそれが全てだった。

 自分以外の人間が消えていく中、自分だけが生き残る辛さも警備兵育成所ディリンガルにたどり着いて安堵する気持ちも何もかもが無く、全てが変わってしまった。

「……ルナ……」

 真夜中の女子寮の自室。四人部屋のベランダでフィレスは小さくつぶやいた。

 “奴”の名前を呼ぶたびに胸の奥でずきっと痛む物を感じてでもそれが一体なんなのか分からなくてフィレスは幾度となく“奴”の名前を呼んだ。

 真夜中の夏の風はやけにカラカラしていてその風はフィレスの月に反射して金色に輝く髪を撫でる。ゆらゆらと揺れる髪房をフィレスはそっと耳にかけた。

 ベランダの柵に両手を置き、見上げる月はいつか見た昔の月にそっくりで、その度にあの頃を思い出す。

 自分を変えた残酷な光景と微かに映るあの庭園での会話。


『‘ルナ’……うん!! ルナ! これからあなたはルナね!!!』


 頭に唯一残る平和な一ページ。

「私は……なんのために生きればいいの?」

 彼女の言葉は震えていた。

「……平和に生きることなんてできないの……?」

 浮かんでくる熱いものをフィレスはぐっと堪える。

「……私……ルナに会いたい……」

 うわ言のように月を見上げつぶやく。叶わないのは分かっていることだけれどそう思ってしまう。

「また……話がしたい」

 頭に浮かぶのは自分と同じ金髪を揺らす“奴”の顔。だけどその顔は真っ赤な返り血に染まっている。

「……ルナ」

 何度目か分からないその名を呼ぶ。


 揺れる金髪の下の右目が赤く光った。




 記憶の廃材は邪魔で消し去りたいものであるのかもしれないがそれはまだ心の奥に残っている。

 廃材を燃やすにはそれを燃やすための廃材が必要になり、

 いつしか廃材を求め、記憶をたぐり寄せる。

 愚者も賢者も誰しもが。

 それがどんな物語を綴ろうとも。



                       To Be Continued






 

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