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復讐という名の物語  作者: 笑わない猫
覚醒集団 大都市襲撃
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第三章 ―6 次の一撃が……






「クレア!! クレア!」

 リーフの叫び声は動かなくなったクレアには届かない。ピクリとも反応しないクレアはリーフの腕の中で崩れ落ちていた。そんなリーフもさすがに息が上がってきていた。魔力が吸い取られ、体が重たくなってきていたからだ。自分もこのままクレアのようになるのか、そう思った頭をリーフはブンブンと左右に振った。

「俺が諦めてどうする!」

 自分に言って聞かせる。クレアを抱きしめながら立ち上がることはできる事はできるが、歩くとなると流石に厳しい。体が思うように動かないのに、抱きかかえるなどどうしてもできなかった。

 だが、このままここで座っていても誰かが助けてくれる可能性は少ない。騒ぎが収まらない以上ここに一般人はこないし、警備兵ディリングが緊急事態に街道で倒れる二人を助けるなどほぼ有り得ないからだ。

 キリアやフィレスが帰ってくるというのも考えられるが、キリアはクレイモアの事で頭に血が昇り、冷静にクレア達の心配……などと言う事は考えない。フィレスは個人として知り合いとはいえ、そこまで深いわけではない。どちらかと言えば浅い。そんな間柄なら警備兵ディリングとして行動するに決まっている。

 どのみち、可能性はない。

 リーフ自身が行動することが一番の打開策であり、クレアを救う道しるべになるのだが、それもかなわない。完璧な八方塞がり。打つ手がなかった。

「落ち着け……はぁ……」

 大きく深呼吸をする。

 だが、魔力吸収により息は上がったままだ。もちろん、まともな考えも浮かばない。

 その間にもクレアの命は縮んでいく。

 若干苦しそうな表情のまま気を失っているクレアからリーフは視線を上げた。

 見上げた先には純白の大きな花が咲いている。花弁オンだ。そのそばできっとキリアは戦っている。そっと視線を下げ、リーフはクレアはより一層抱きしめる。

「行くぞ……クレア……行くぞ……俺!!」

 足に力を入れ、クレアを抱きかかえたまま立ち上がる。キリアの下に向かっても、きっと足でまといになるだけだ。だから、リーフは崩れ落ちそうに笑う膝を必死に動かし、ベルフェリングの外に向けて足先を向けた。


「くそ……うごけよぉ!」

 上がらない自分の足に向かってリーフは叫んだ。クレアが倒れた場所からおよそ百メートル移動した街道。そこでリーフの足は限界を告げ、崩れ落ちてしまったのだ。

 リーフは息絶えだえでクレアを落としそうになるほど意識も飛びかけていた。視界がぼやけ、クレアを抱きしめている感覚ももはや掴むのが難しい。

 いくらかなり前から覚醒者になっていると言ってもまだ魔力の所持が少ないリーフにはクレアほどじゃなくても絶対的にダメージを与える。‘死’という概念がリーフにまとわりつく。

「やっと見つけた……家族なのに……」

 リーフはぼやける視界の中、クレアの顔を見つめる。苦しく歪められた顔を見るとさらに視界がぼやけ始め、その瞳から一筋の涙がリーフの頬を伝った。

 自分の妹……昔生き別れた……その前の笑い合っていた頃の妹の姿とクレアは重なるところをリーフは感じていたのだ。無邪気に笑い、はしゃぎ、自分に話しかけてくれる無垢な姿。そこがどうしても妹と重なってしまっていた。

 このままクレアと共に息絶えるなら……浮かんだ考えにリーフは激しく頭を振った。だめだ! 俺はクレアを救わないと! その言葉を頭に響かせる。

 だが、考えれば考えるほどこの状態に落胆する。力が入らない手足、ぼやける視界、マイナス思考の頭。どれもクレアを助け出す要にはならない。

「スレイディッシュ……お前は……無事に生きてるよな……」

 涙を流しながらクレアと重なった自分の妹の名をリーフは呼んだ。




 襲い来る大鎌の攻撃をキリアはギリギリのタイミングで回避していた。

 絶妙のタイミングで二人のスレイディッシュの遠距離からの乱回転させた投げ鎌と懐で繰り出される多彩な鎌の動きがキリアに襲い掛かり、紙一重に避けたと言うのがほとんどだ。

 防戦一方で反撃もままならないキリアが不利なのは一目瞭然だった。

 突っ込んできたスレイディッシュの大鎌が右から左に旋回し、キリアに迫る。キリアは体重を後ろに傾けることで大きく後退、空を切った大鎌から激しい音が聞こえる。

 体重を後ろに傾けたことによって体勢を立て直せなかったキリアはバク転の要領でさらにスレイディッシュから距離を開く。

 だが、立ち上がりスレイデッシュを目視した時には遠くから鎌を投げてきていたスレイディッシュがすぐキリアの目前に迫っていた。

 予想外の動きに対して右手の刀で鎌を押しとどめるが勢いを殺しきれずにキリアの体は大きく後ろに吹っ飛ぶ。

(なんて腕力だ……!)

 空中で体勢を戻し、足の裏を地面に擦り付ける。そこでやっと二人のスレイディッシュの姿をキリアは落ち着いて見ることが出来た。

「どうしたの? お兄さん?」

「まさか、その程度じゃないでしょ?」

「もっと楽しませてよ」

 言葉を交互に言うスレイディッシュの二人をキリアは見つめながら落ち着いて思案する。この状態、一体どんなタネがあって二人に分裂しているのか。どちらが本体が分かればなんとかなるかもしれない。それとこの能力を使うのに何かの条件があるはずだ。深く、じっくり思案する。

 幸い、スレイディッシュがキリアを殺すことを目的としていない。それがこの時間を作ってくれている。

(あいつは……二人に分裂する前に何かをしたはずだ)

 能力が発動するのにはそれなりの条件が必要になる。魔法ならば詠唱、剣技なら体勢フォーム、スレイディッシュのような特殊能力は能力に応じた行動や詠唱、高難易度になると天候や気温などという自然の力を借りるものもある。

 必ず、この分裂が起こる前にスレイディッシュが仕掛けた何かがあったはずだ。

(戦闘が始まる時の魔法陣か……?)

 確かにあの時、キリアと対峙したスレイディッシュは大鎌を地面に突き刺し魔法陣を広げていた。

(だが、あの時に魔法の発動は感じれなかった)

 いくら気づかれないようにしようと間近で、ましてや戦闘中の魔法の発動をキリアが感じないはずはなかった。だが、実際にその魔法陣によってスレイディッシュが分裂――

(魔法陣は関係ないのか?)

 そう。まだスレイディッシュが分裂したのは魔法陣のおかげと決まったわけではないのだ。考えがまとまらないキリアに対して二人のスレイディッシュは大鎌を構え直した。

「それじゃあ」

「そろそろ」

「「いくよぉ!!」」

 一人のスレイディッシュがキリアに走ってくる。またあの連撃がくるのはキリアにも予想できた。だが、このまままたあの攻撃を受けて全て躱しきれるとは限らない。キリアは腰を深く落とし、刀を鞘の中に納める。

 その行動にキリアに駆けてくるスレイディッシュと奥で鎌を投げようと構えていたスレイディッシュは目を見張った。その一瞬の体の硬直がキリアに十分な機会を与えた。

(魔力が吸い取られる中で剣技を使いたくなかったが背に腹は代えられん)

 意識を刀に移し、体に残る魔力を刀に集約させる。

 その間にもスレイディッシュは近づいてくる。目を伏せたまま意識を集中するキリアにスレイディッシュは目前まで迫り、大鎌を振りかざす。そこで、キリアは目を大きく開き目標の目の前の少女を見据えた。

花月かげつ!!」

 鞘から勢い良く刀を横薙に引き抜く。そのモーションに気づいたスレイディッシュは足を滑らしながらも後退する。刀の鋒はスレイディッシュには紙一重でかすらなかった。だが、その攻撃を避けたスレイディッシュの胴は大きく上下に切り裂かれていた。

「え……!?」

 絶句しながら血を吹き出すスレイディッシュ。そのまま倒れこみ、その体は数秒すると地面に溶けるように黒く掻き消えていく。

 こっちが、分身体!

 目線を遠くにいるスレイディッシュに向けるとスレイディッシュは信じられないと言うような顔でキリアを見つめ返していた。

「すごいね……私を消した人間に会えたのは久しぶりだよ? お兄さん、なかなかに強いね」

 顔は驚愕しているが言葉には今ままで通り緊張感の欠片もない。

「それに、しっかりとした覚醒者みたいだし。すっごく楽しくなってきた」

 そう言ってスレイディッシュはさくらんぼ色の小さな唇をペロっと小さく舐めた。すると、スレイディッシュのすぐ隣の地面から黒い塊が上に伸び始める。

「……なんだ!?」

 その漆黒の塊はスレイディッシュの身長まで伸び、そして変形していく。人間の形に。そして形が整うと漆黒から色が変色し始めその色、姿形は……。

「なるほど……そういう事か……」

 スレイディッシュそのものになっていた。

 その分身の手にもしっかりと漆黒の大鎌が輝いている。

「そろそろ、私も全力で行こうかな?」

 スレイディッシュがつぶやく。

 本体を叩かない限り終わりはない。そうキリアは考えた。だからこそ、次の攻撃で終わらせよう。そう決めて刀を逆手に持ち、腰を低く構える。

(さっきとまた構えが違う……?)

 スレイディッシュは首を小さく傾けた。刀を逆手に持つなんて事をすれば刀の構造上、刃に負担が掛かり肉を断ち切るどころか逆に刃が折れてしまいかねない。

 さっきまで刀の使い方にしては型にはまらないキリアの攻撃だったがこの行動はスレイディッシュには予想外だった。

(あの前傾姿勢……かなりスピードに乗った一撃が来るわね……まぁ、どっちが切られても一人生き残ってたら私は死なないんだし)

 クスっと小さく笑う。この魔力吸収状態で大技を二連続で出すのはかなりの負担になる。

 キリアはこの一撃が入らなければ、魔力不足で身のこなしにも支障が出てスレイディッシュの攻撃を避けることがほぼ出来なくなる。逆にこの一撃が入ればスレイディッシュを戦闘不能に陥れれる。

 お互い、瞬時に直感した。



 ――次の一手が勝負を決める――


 と……。





 三人は復讐の物語を創造していく。

 生きる意味と存在の答えを求めながら、

 繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。

 

 復讐という名の物語を創っていく。



                       To Be Continued




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