第一章 ―1 ある夜、立ち寄った店で
―――――――ある夜、立ち寄った店で―――――――
夜道を歩く二人の姿を通行者はまるで異物を見るような目で見る。
一人は一般市民とはかけ離れた服装で歩き、もう一人はぼろぼろの服を着た孤児。
一般人にとっては異物そのものだったのだ。
だが、そんな現状にも気にすることなく、一人は無表情で歩き、一人はニコニコ微笑んで歩いている。
「このまま宿に泊まりたいのも山々なんだが……クレアもその服じゃ嫌だろ?」
キリアの質問にクレアは首を傾げながらぼろぼろの服を持ち上げる。
「う~ん。そうだなぁ、どちらかと言ったら嫌かな」
キリアは一つの店を指差す。
そこはベルフェリングの中で一番人気のある洋服店。
首を使いクレアを促す。
「買ってくれるの?」
クレアがキラキラ輝く目でキリアを見つめる。
「あぁ。どうだ?行くか?」
「行くぅぅ!!!!」
クレアは片手を高らかに上げキリアの提案に即答でOKした。
キリアはその様子に頬を緩める。
一瞬。キリアの頭にいつかの光景がよぎる。
(なんだ?なんなんだ今のは……)
とても見覚えのある光景。だが思い出せない。
キリアはそんな憂鬱な気分にため息をつく。
その様子を見たクレアは不満そうに頬を膨らませた。
「どうしたの?いくんじゃないの?」
「あぁ……悪い悪い」
モヤモヤした残念を振り払うようにキリアは頭を勢い良く振り答えた。
先に走り出したクレアを追うようにキリアも店に入った。
中は豪華なシャンデリアや綺麗なタイルで彩られ、靴、帽子、服、ズボンはもちろん日常品は対外そろっている。
クレアは素晴らしい物を目にし、目を見開いて硬直している。
だが、店員が普通に接してくれる訳がない。
キリアがそばにいるとはいえ、クレアは道端で寝ていた孤児。本来ならこんな場所へ来るはずも無い。
そのため万引きなどという犯罪に目を光らせている。そのためだ。
(感じの悪い店だな。これが世界有数のデパートか?)
キリアは周りを見渡す。
やはり接客をしている店員以外はクレアをしっかりと見ている。
幸い、クレアはこの現状に気づいていない。
それが唯一の救いだと思う。
「どれでも良いの?」
満面の笑みでクレアは問いかける。
「生地がしっかりしてる服なら何でも良いぞ」
「やったー」
はしゃぎながら奥の方に駆けていくクレアをキリアは笑いながら追った。
ある一角で足を止めたかと思うと一着の服を取り出し、自分に合うか確かめるために体の前に持ってくる。
合わないようで‘はぁ……’とため息を漏らしながら服を戻すクレア。
キリアはクレアに追いつき、問いかける。
「どうした?それでも良いんだぞ」
キリアはさっきクレアが戻した服を指差す。
「ううん。私には合わないから……」
俯くクレア。
その答えに失笑を漏らしながらキリアは言った。
「それはあくまで見本だ。サイズぐらいは合わせられるさ」
「ほんとっ!!!!」
即答で返事。
その様子に嬉しさを隠せないキリアの顔に知らず知らず笑みが浮かぶ。
キリアがこのような表情を表すのは実に二年くらい差があった。
感情を悟られぬよう表情を隠すように言われていたキリアの無表情をクレアは自然ながらも突き破ったのだ。
そんな事をクレアはもちろんキリアも理解できるはずも無い。
キリアはレジに向け歩を進める。
それに続くようにクレアも歩き出す。
「あの服。私に似合うよね」
「着てみなくちゃ分からないが、お前なら似合うんじゃないか?」
「えへへ」
クレアは顔を赤く染めながら笑う。
それには無垢な形しか浮かんでいない。
キリアは後ろに振り向き、クレアを見下ろす。
煤だらけの顔を見つめる。
(きっと、美しい顔をしているんだろうな)
そんな事を思いながらクレアの顔をまじまじと見つめる。
「どしたの?急に?」
首を傾げ、キリアを見つめ返す。
「いや、風呂入らなくちゃって思ってな」
「え?お風呂入れるの??」
「もちろん」
「やったー」
両手を挙げ、高らかに喜びを伝える。
その姿にキリアはまた頬を緩めた。
その笑みを浮かべたまま店員にキリアは問いかける。
「この服の他のサイズありますか」
店員はキリアとクレアを一瞥すると、少し不快な声で答えた。
「えぇ。ありますよ。どのサイズですか?」
「Sサイズで十分だろ」
キリアはクレアに問いかける。
「うん」
クレアは元気良く頷く。
それを確認にしたキリアは店員の問いかけに答えた。
「Sでお願いします」
「わかりました」
店員は在庫室に駆けて行き、しばらくすると一着の畳まれた服を持って帰ってきた。
「これになります」
そう言ってキリアに手渡す。
「いくら?」
「八百九十$になります」
キリアは小さなポーチから財布を取り出し銅硬貨九枚と銀硬貨八枚を店員に渡した。
「お買い上げありがとうございました」
店員は二人に礼を伝える。
キリアは服をクレアに渡し言った。
「その服着るのは宿について風呂に入った後にしろよ」
「はーい」
元気良くクレアは返事した。
そして洋服店を後にした。
そして人気の少ない大通りをキリアとクレアは並んで歩き始めた。
クレアは買ってもらった服を両手で包み込むように大事に持ちながら……
キリアに寄り添った。
それは仲の良い兄妹の様に……微笑みが生まれる光景だった。
二人は復讐の物語を創造していく。
繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。
復讐という名の物語を創っていく。
To Be Continued
更新おそいっすよね
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