第三章 ―5 特殊覚醒者
キリアは刀を構えて、スレイディッシュを睨みつけた。
不敵な笑みを浮かべたまま動かない少女にキリアはもう一度、叫んだ。
「クレイモアの居場所を答えろ!」
だが、その質問にスレイディッシュはクスクスと小さく笑い、返事をすることはなかった。その代わりにスレイディッシュの身の丈以上の血が付着した漆黒の大鎌を持ち上げた。空高く持ち上げられた鎌は色あせた太陽に照らされ不気味に光る。
そして鎌をゆっくりゆっくり回しながら下に下ろしていく。その鎌の刃の先が地面に突き刺さった瞬間――。
「広がれぇ!」
スレイディッシュが叫んだ。それと共に地面に展開される此処等一帯に広がった赤紫の魔法陣。だが、その魔法陣からは魔法の発動を感じない。この魔法陣が一体なんなのか、キリアは察せれなかった。
このまま、動かずに相手を出方を見るのは危険と感じたキリアは刀を右手にスレイディッシュに向かって走った。スレイディッシュは鎌を地面から引き抜くと、向かってくるキリアに向かって大きく右から左に旋回しながら鎌を振る。その横なぎの攻撃のモーションを最初の動きで察知したキリアは鎌の攻撃範囲に入る手前で右に跳ぶ。鎌を振り切ったスレイディッシュのガラ空きの右わき腹に向かって刀を切りつけようと更にキリアは距離を詰める。
だが、スレイディッシュは振り切ってすぐに逆に体を旋回させる。鋭い刃先が突っ込むキリアの側面に急速に近づき――それを視界の先に捉えたキリアは上に高く飛び上がる。
また空振りしたスレイディッシュの体はバランスを崩すように一歩、右にずれる。
その隙を見計らったような上空からのキリアの切り落としがスレイディッシュを襲う。その斬撃は的確にスレイディッシュの頭を捉え、その顔をまっぷたつに切り裂く。
飛び散る血飛沫に目を細めるキリア。崩れ落ちていくスレイディッシュの体を見届けるように刀を下げる。
「この程度か……覚醒集団もそこまで強くなかったようだな」
そう吐き捨てる。
「くそ……。殺してしまったらクレイモアの居場所が聞けないじゃないか……」
そう言って、刀を持っていない左手で頭を掻く。
そして視界の右から迫る鎌の刃先を捉え――
「なっ!?」
咄嗟に体を左方向に倒す。ギリギリ頬をかすめる程度で鎌を躱す。そのまま受身で左回り、背後に振り向く。
そこには5メートル弱離れた場所にスレイディッシュが立っていた。鎌は乱回転しながらスレイディッシュに向かい、その取っ手をしっかりと受け止める。
「あはははは。今ので私を倒したと思ったの? あんなので倒せるわけないじゃん」
スレイディッシュは鎌を持ちながら腹を抱えて笑い出す。あの状態でどうやって回避した? それがキリアの頭に渦巻く。
確かに頭を切り裂く感覚はあった。そう思いながらさっきスレイディッシュを切り捨てた背後に振り向くと、目の前に大鎌を構えたスレイディッシュが――
「くそぉ!」
キリアは戸惑いながらも左から右に振り下ろされる鎌を左に飛ぶことでよけ、すぐに敵を目視する。
そこで、キリアは唖然とし、小さくつぶやいた。
「なんだと……なぜ……二人に」
「うふふふ」
「これが私の能力」
「私は特殊覚醒者」
「‘影月’」
二人に分裂したスレイディッシュが言葉を遊ばせながら言った。
「特殊覚醒者だと……?」
キリアは歯ぎしりを行なった後、一気に飛び退く。特殊覚醒者が相手だとは微塵も思っていなかったためである。
特殊覚醒者はほんとに稀に見る覚醒者の特殊開放型だ。
覚醒者にならずにそのまま特殊覚醒者になるものもいれば覚醒者から進化するものもいる。その特質は他の覚醒者を遥かに超越する力を秘めている。
大きな変化は二つ。
一つは他には真似できない特殊能力が身につけられること。
普通の覚醒者のように決められた詠唱をし、決められた魔法を使うのではなく、自分だけの独自で持つ特殊な魔法や力を使える。それはもちろん、普通の覚醒者では覚えることはできないし、発動もできない。そしてその力や能力は絶大な魔法力を所持している。故に、その能力は使用者の完璧な力となって顕現する。
二つ目は、膨大な戦闘能力、経験の蓄積である。
なぜかは解明されていないが特殊覚醒者になった者は戦闘経験が無くとも覚醒と共に体や脳に蓄積される膨大な経験値により戦う達人をも凌駕する戦闘力を手にする。
これほど大きな力を持つ存在はほぼこの世界にはおらず、見つけることはかなり困難とされている。
その特殊覚醒者と今、対峙している。
キリアは少なからず恐れていた。
「さぁ」
「二回戦」
「「始めるよぉ!!」」
二人のスレイディッシュが叫ぶと、二人キリアに向かって飛び出した。
大都市ベルフェリングの中心よりやや離れた街道でリーフは必死に叫んでいた。
「クレア! しっかりしろよ!」
「はぁはぁ……」
苦しそうに息をするクレアにリーフは声をかけることしかできない。リーフの覚醒能力には治癒の覚醒能力が無い。そのため苦しんでおるクレアを回復する術がないのだ。
魔力を極限に吸い取られたクレアは生命の維持ができなくなってきていた。魔力吸収を止めない限り、クレアが死ぬことを免れることは出来ない。
「クレア!! 頑張れよ!!」
「はぁはぁ」
どうしたらいいかわからないリーフは必死に叫んび、助けを求めた。
「キリア!! 早く帰ってこいよ!!!」
その悲痛の叫びは魔華花弁まで届くだろうか……。
三人は復讐の物語を創造していく。
生きる意味と存在の答えを求めながら、
繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。
復讐という名の物語を創っていく。
To Be Continued