第三章 ―2 再会と予兆
たどり着いた大都市は、いつもと変わらず喧騒に飲まれていた。
人々がパニックを起こしているわけでもない。
今までどおり、普通にこの道を歩いている。
なにも起こっていない……?
少女は不審がった。
少女を飛ばしてから、少女がここに到着するまでの時間は山ほどあった。
大魔法でも、弔詞魔法でも、どれでも時間はあったはず。なのに使われていない。
どういう意図が含まれているのか…少女には分からなかった。
(おかしい。なにが……)
その時――。
横を通り過ぎる三人の旅人。
一人は15、6才の青年。あとの二人は9才か10才の同い年くらいの少女と少年。
気になったのはそこじゃない。
その青年が持っているポーチの中身。
そこから発せられる不吉な魔力の気配。
「ちょっと止まって!! そこの三人」
少女は叫ぶが、三人の旅人は気づかない。
少女はもう一度叫ぼうとするがやめ、走って青年の肩を掴む。
「待ってと言ってるでしょ」
「……なんだ?」
青年は怪訝な顔で振り向く。
「あなた……」
「……! フィ、フィレスか!?」
「やっぱり! キリアだ」
お互い驚き、大通りの真ん中で唖然とする。
あまりにも驚愕すぎたのだ。
「なんでお前が、いやそれはいい。今は急いでるんだ。またな」
踵を返し、歩いていく。
一緒に居た少女と少年、クレアとリーフは蚊帳の外。
黙って聞いてるのみだったので、キリアが歩き出したのに合わせ、歩き出す。
「待てって言ってるでしょ!」
「しつこいな」
「そのポーチの中身……何?」
その質問にキリアは険しい顔になる。
リーフやクレアもまさかの質問にビクッと上体を跳ね上げる。
キリアは悟られないように言う。
「俺の荷物だ。関係ないだろ?」
「答えなさい! 警備兵としての命令よ」
「なぜそこまでして聞きたがる。任意を示せ」
「結晶石の反応を感じる。特別な魔力の気配よ。だから見せろと言っているの」
的確な察知にキリアは歯を食いしばる。
結晶石を持っていることがバレれば、明らかに捕まってしまう。
かといって騒ぎを起こせば、違う警備兵も感づいてますますめんどくさくなる。
しかし、選択は二つに一つだった。
「キリア……どうするの??」
リーフがか細く小さな声でキリアに聞く。
「逃げるしかないだろ」
それに小さく答える。
「あいては警備兵だよ? 逃げれるの??」
クレアも話に加わる。
「だから……逃げるしかないと言っている」
「あ……警備兵のお姉さん、こっち見てるよ?」
「そりゃ、見るだろうな」
「どうするの?? 気を引かないと逃げれないでしょ?」
「確かにな……。リーフ……なんか話して来い」
「俺に人質になれってか!?」
「俺が行ったら意味がない。クレアは口下手だしな……」
「マジかよ…」
うなだれるリーフ。
キリアは最後に一声かける。
「お前だからできる事だ」
「よく言うよ……ったく」
しぶしぶリーフは歩き出し、警備兵の少女の下に行く。
一回ため息をついてから話しかけた。
「えと……俺はリーフ・クレイディアって言うんだ。君は…?」
「私はフィレス・クラウソンよ」
「クラウソン? どっかで聞いた名前だな」
「きっと、クラウソン工房の事でしょ?」
フィレスは元気なく教えた。
「あぁ。多分それだと思う。どうしたの? 浮かない顔して…やっぱ関係してた?」
「えぇ……。私の父の工房なんだもん。まぁ、昔の話だけど」
フィレスはため息をついた。
クラウソン工房とは、この大都市ベルフェリングの町外れに位置する機械開発研究施設の事だった。
だが、今はただの廃棄物と化してしまっている。
数年前、覚醒集団の襲撃により崩壊している。
村荒らしの一環ともみられ、そう追求はされなかった。
無理に壊す必要性も見つからないため、そのまま放置され、置きっぱなし。
良いのか悪いのか、フィレスは心重かった。
「あ……悪い事きいたね」
リーフは同情しながらも、ちらりとキリア達を見る。
キリア達はタイミングを見計らってるらしく、まだ動いていない。
もう少し、粘る必要がある。
「ううん。気にしないで」
「えと……フィレス…さんはキリアとどんな関係?」
「え? えっとね……」
フィレスが答えようと口を開けたその瞬間。
その場の四人は一瞬で察知した。
強力な魔法陣の展開の気配を。
(動いた……!!! 行かなくちゃ!)
フィレスはすぐに気配を感じる方に走り出す。
キリアは好機か否か走り出す。
目指す場所は情報屋の場所。魔法陣の展開は後で良い。
とりあえずは結晶石だった。
が、クレアがキリアに追いつき言い放った。
「嫌な感じがする。なにか起こるよ」
クレアの魔法察知がなにかに感づいている。
キリアは顔をしかめ、それでも歩を休めず情報屋の元に向かう。
このような大都市であんな巨大な気配を誇る魔法陣を展開するなど警備兵に見つけてくれと言っているもの。
それでもなお、それをする必要性。
キリアは思考をめぐらせるが全く分からない。
「キリアお兄ちゃん! なにか……来るよ!!」
クレアが叫ぶ。
それに反応し、キリアは止まり気配をする方に向く。
感覚は、振り返った瞬間に来た。
思い重力に押し付けられるような、風に吸い取られるような鈍い感覚がキリア達を襲う。
クレアやリーフも苦しそうに顔をゆがめる。
だが、周りを歩いてる人たちは至って平常。
自分達だけか? キリアはそう思う。
だが、歩く人の中にも苦しんでる人々は居た。
そう――警備兵達。
「ぐぅぅ……覚醒集団の仕業か……。見つけるのが遅かった」
警備兵の一人の言葉をキリアは逃さなかった。
覚醒集団が、この大都市にいる。
クレイモアの仲間が、大都市に。
その思考がキリアを走らせる。
「待って! キリアお兄ちゃん!!」
「待てよ!!! キリア!!」
自分の仲間の声は届かない。
復讐への野心が全てを見えなくしていた。
クレイモアの姿を思い描きながら、キリアは大都市の中心に魔法によって咲き誇る真っ白な純白の大きな花弁に向かって走った。
三人は復讐の物語を創造していく。
生きる意味と存在の答えを求めながら、
繋げられた因果を伝い、どこまでも続く闇に向かい……。
復讐という名の物語を創っていく。
To Be Continued